教員免許の再授与申請 ペーパーティーチャー記者が挑戦

 7月1日、改正教育職員免許法が施行され、教員免許更新制が廃止された。教員免許を取得していても、一度も教壇に立ったことのない非現職教師(ペーパーティーチャー)は全国に数多く存在している。こうした中には学校現場の教員不足が深刻になる中で、「自分も何か学校現場の役に立てるかもしれない」と考えている人もいるかもしれない。実は記者も、大学で中高の国語の教員免許を取得していながら、これまで教壇に立つことのないまま、教員免許を失効してしまったペーパーティーチャーの一人。そこで、ペーパーティーチャーが教員になる際に、現時点でどんな手続きや支援があるのかを取材した。「あわよくば7月1日のうちに再授与申請ができるならやってしまおう」と調べた結果、出てきた結論は意外なものだった。

ペーパーティーチャーの休眠と失効の違い

 改正教育職員免許法の施行日の7月1日時点で有効な教員免許状は手続きなしで有効期限のない免許状となった。問題は7月1日よりも前に、すでに有効期限を迎えてしまった教員免許状のケース。教員免許状は教員免許更新制が導入された2009年4月1日以降に初めて授与された人が持っている新免許状と、それ以前に初めて授与された人が持っている旧免許状に分けられる。現職教員の場合、いずれも免許の更新手続きをせずに有効期限を迎えてしまえば失効となるが、ペーパーティーチャーの場合、有効期限を過ぎると新免許状の場合は失効で、旧免許状の場合は休眠と扱いが異なる(=表)。休眠の場合は、7月1日以降、特に手続きをしなくても有効期限のない免許状となるが、失効の場合は都道府県教育委員会に再授与申請手続きを行うことで、有効期限のない免許状が授与される。

施行日を前に有効期限を超過した教員免許状の扱い

 そこで、大学の学位記と一緒に自宅の戸棚に眠っていた記者の教員免許状を久しぶりに引っ張り出してみた。改めて眺めてみると、中高共に、大学卒業を迎えた10年3月25日付で、大学の所在している茨城県教育委員会から発行された一種免許状で、有効期間満了の日は「平成32年3月31日」となっていることが確認できた。令和に年号が変わったとはいえ、すでに失効してしまっている事実は変わりがない。同じように大学で頑張って教職課程を取ったものの、社会に出てからは使われないまま教員免許状を失効してしまった人は、同世代を中心に決して少なくないはずだ。

教員不足の一要因となった教員免許更新制

 ペーパーティーチャーが教員になろうと考えたときに、結果的に教員免許更新制がその阻害要因となった面は否めない。

教員免許を保有し、現在企業に勤めている人に聞いた教師への転職における問題点

 教員免許更新制の抜本的な見直しを議論するために、中教審の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」に設置された「教員免許更新制小委員会」。昨年4月30日に開催されたその初会合で配布された資料に、文科省が2020年度にリベルタス・コンサルティングに委託して行った「免許更新制高度化のための調査研究事業」の報告書がある。その中で行われた教員免許状を所持する民間企業等勤務経験者に対する意識調査では、20年12月18~23日に、企業に勤めた経験がある現職教員も含む2421人にウェブアンケートを実施。教員免許を持っていて、現在企業に勤めている2046人に教員への転職における問題点を複数回答で聞いた結果からは、「教員免許が休眠状態又は失効中である」(29.4%)や「免許状更新講習を受講する時間がない」(22.8%)など、教員免許更新制が一定程度、教員への転職のネックになっていることが伺える(=グラフ)。

 これについては、文科省総合教育政策局教育人材政策課教員免許企画室の矢野正敬室長補佐も「昨年度に実施した『教師不足』の実態調査の自由記述でも、免許状の未更新、あるいは事務手続きが負担で臨時的任用教員のなり手がいないというような回答を自治体の半分くらいが答えている。そういった影響が一部にあったと考えている」と指摘。教員免許更新制が教員不足を招いた要因の一つになった可能性を認める。

再授与申請の具体的な手続き、費用や日数は?

 新免許状のペーパーティーチャーが教員になろうとすれば、再授与申請の手続きが必要になるが、教員免許状は都道府県教委が授与権者となるため、その窓口は基本的に、取得した教員免許状を授与した都道府県教委となる。

 文科省は6月21日に各都道府県教委などに対し、今回の改正法の施行に伴う事務処理に関して通知した。その中では、免許状の未更新(期限切れ)によって失効した場合の再授与について、免許状の原本または写し、授与証明書、公的身分証明書などと、授与権者である都道府県教委が保有する原簿や教員免許管理システムの情報とを突き合わせることで、過去に申請者に対して免許状を授与した事実が確認できる場合には、一部の書類の添付を省略するなどの手続きの簡素化を行うよう求めている。省略可能な書類には、例えば、大学での学力に関する証明書、卒業・修了証明書、小中学校の教員免許取得に必要な介護等体験に関する証明書などが想定されている。

 再授与申請にあたっては、免許状1種類当たり3300円程度の費用が発生し、新しい免許状が再授与されるまでに2カ月程度かかる場合もあるという。これらの再授与申請の手続きにおける必要な書類やその様式、費用、日数は各都道府県教委がそれぞれ定めているため、事前に確認しておく必要がある。

 そこで、記者も茨城県教委にどのような手続きが必要なのかを問い合わせてみることにした。すると、県教委の担当者からは次のような返答があった。

 「必要な書類の簡素化について、どのように取り扱うかの方針はまだ検討中のため、7月1日の段階ではまだ対応が難しい」

 再授与申請の道は、思ったほど「簡素」ではないようだ。

教員になりたいペーパーティーチャーを後押し

 ところで、教員免許はあるものの、実際に教員になることにまだ踏ん切りがつかないという人や、今の学校現場がどんな状況なのかを知りたいという人もいるのではないだろうか。

教員経験者が教師の魅力などを伝える神奈川県教委の「ペーパーティーチャー研修講座」

 そうしたニーズを受けて、神奈川県教育委員会では昨年度から「ペーパーティーチャー研修講座(教員免許状保持者研修)」を年に3回ほど実施している。6月15日に行われた今年度2回目となる講座には、約30人が参加。記者も取材と勉強を兼ねて出席することにした。会場を見渡した印象として、参加者は女性が多かったが、年齢層にはかなり幅があった。講座では、教員免許更新制の廃止を受けた県教委の対応についての説明があった後、小学校、中学校、高校、特別支援学校で教員として長年活躍した県の総合教育センターの職員が、校種ごとのやりがいや魅力を語った。

 中学校の教員経験のある職員は、教頭をしていた勤務校に臨時的任用職員としてやってきた理科の女性教員のエピソードを紹介。「子育てが落ち着いて教員になった『お母さん先生』だったが、先日久しぶりに会って話を聞くと『人生の中でこんなすてきなことが待っていたとは想像がつかなかった』と語っていた。この先生がうまくいったのは、多くの授業を見る機会をつくり、若い先生も含めていろいろな先生から聞いて学んでいたこと。こういう先生は、子どもたちの話もよく聞く先生だと思う」と、セカンドキャリアとして教員になる選択肢もあることを強調した。

 また、特別支援学校で知的障害のある子どもを受け持っていた経験を話した職員は、Tシャツを持参し、表と裏を分かりやすくするためにシールを付けるといった、着替えの指導の際の一工夫を披露。「障害のある子は小さいころからできない体験をいっぱいしてきて、自信がないケースが多い。本人の持っている力を引き出し、どう自信を付けさせるかが仕事」と、特別支援教育のやりがいをアピールした。

 後半は各校種に分かれての懇談会が行われ、小学校のグループでは「学校の先生の負担がどんどん大きくなっていると報道で聞くが、働き方改革によって改善されているのか」「実は体育のマット運動が苦手なのだが、教える以上はできるようになっておかないといけないのだろうか」「外国語教育も始まったが、どれくらいの英語力を身に付けておけばいいのか」といった質問が飛び交い、職員らが丁寧に学校現場の実態や制度を説明していた。

 結婚を機に福祉の仕事から教員に転職することを考えているという20代の女性は「免許の有効期間が切れそうだったので働けるのか気になっていた。現場の話も聞けて参考になった。まずは非常勤などで段階を追って教員になれたらと考えている。福祉の現場での経験が長かったので体力には自信があるが、高齢者と子どもでは接し方や話し方に違いがありそう。そのギャップは少し不安だ」と打ち明ける。

 今は別の仕事をしているが、子育てがひと段落したのを機に長年の夢だった教員になろうと考えていると語る50代の女性は「講座に参加してかなり心が揺れた。年齢に関係なくチャレンジできると聞いて、勇気が出てきた。後は今の仕事をすぐにやめられるわけではないので、どこで踏ん切りをつけるか」と、夢の実現を真剣に考えている様子だった。

 この講座では終了後、希望者には臨時的任用職員や非常勤講師の登録もその場で受け付ける。さらに、すぐに教壇に立つのは不安という場合には、県教委が教員志望者向けに行っている教員養成講座「かながわティーチャーズカレッジ」を案内したり、スクール・サポート・スタッフといった教員以外の選択肢も提示したりするなどして、熱意のあるペーパーティーチャーの支援につなげている。県教委の担当者は「欠員が出た学校で知り合いなどに声を掛けて探し回るのも限界がある。この講座は、ペーパーティーチャーであっても、教員になる意欲のある人が集まってくる。お互いにWin-Winの関係がつくれるので、今後も継続していきたい」と手応えを感じているようだった。

ペーパーティーチャー活用へのトリガーに

 記者自身が教員免許の再授与申請をし、有効期限のない免許を手にすることができるのはもう少し先のことになりそうだが、教員免許更新制の廃止によって、教員になることを諦めていた人が、もう一度教壇に立つことを考えてくれるようになるかもしれない。

 矢野室長補佐は「実際に今回の(教員免許更新制の)発展的解消の新聞記事などをご覧になった方から、各教育委員会に『再び免許状を所持したい』『講師名簿に登録したい』という問い合わせが続々来ているという状況だと伺っている」と、今回の法改正は、ペーパーティーチャーの活用へのトリガーになり得ると話す。文科省では、そうしたペーパーティーチャーや教員免許はまだないが教員を目指す社会人向けの学習コンテンツの開発にも、より一層力を入れていくという。

 すでに教職員支援機構(NITS)では、ペーパーティーチャー向けの動画教材「基礎的研修シリーズ」の配信をスタートしている。もしも教員への転職を考え始めた人がいたら、まずはこうしたコンテンツを見てみたり、一般授業公開などの機会を使って、近くの学校に足を運んでみたりするところから始めてみてはどうだろうか。

(藤井孝良)

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