【新たな教員研修制度】 教員の主体的な学びを支援する動き

 教員免許更新制の廃止に代わり、新たな教員研修制度がスタートする。末松信介文科相は先月の閣議後会見で新制度について「必要な学びを(教員が)主体的に行っていくことが基本と考えている」と発言しているが、そうした教員の学びを支える仕組みをどう構築するかも課題だ。これまで教員研修の場を提供していた大学や教育委員会でもその模索が始まっている。最新の研究動向と参加者の実践を結び付けるプログラムを提供する筑波大学の「筑波スクールリーダーズカレッジ」と、「相談」「情報」「講座」の3本柱で教員の学びを支援する横浜市の授業改善支援センター「ハマ・アップ」の動きを追った。

大学ならではの学びを提供 

 筑波大学では今年度に「筑波スクールリーダーズカレッジ(TSLC)」という学校の教員向けのオンライン講座を開設。6月4日~7月23日に行われるAコースは学校管理職向け、7月30日~9月24日のBコースは主任層・指導主事向け、10月8日~11月26日のCコースは教員向けで、いずれも実施期間中の土曜日に講義とワークショップによる90分の講座が2つ設定されている。Aコースはすでに申し込みを締め切っているが、Bコースは7月10日まで、Cコースは9月19日まで、HPから申し込みを受け付けている。

筑波大学のTSLCの講座を担当した朝倉助教

 TSLCを企画した浜田博文同学人間系(教育学域)教授は「免許状更新講習は上から枠が決められていて、試験もやらないといけない。そうではなくて、今、学校の教員が必要としているものを、学問的な裏付けを踏まえて伝えることができるのは、大学ならではの役割だと考えた。特に本学人間系は教育学だけでなく、心理学や障害科学の研究者も充実しているので、現代的な教育課題を総合的に扱うことができる」と、狙いを説明する。

 6月25日に行われたAコースの第4回講座では「昨今の大学入試改革の動向とその課題」と「学び続ける教師を支える諸条件」という2つのテーマが設定され、校長や教頭といった約30人の学校管理職が参加した。

 前半の「昨今の大学入試改革の動向とその課題」では、同学アドミッションセンター長を務める大谷奨同学人間系(教育学域)教授が、大学入学共通テストに至るまでの、中教審答申や教育再生実行会議の提言、文科省の高大接続システム改革会議の最終報告などのポイントを整理。歴史的経緯から上位の学校の影響を下位の学校が受けやすい「下構型学校系統」と、下位の学校の影響を上位の学校が受けやすい「上構型学校系統」に分けられると説明。今回の高大接続改革は大学入試で高校教育を統制しようとする「下構型」の改革であったが、法的には高校と大学は小学校から高校までの各学校段階と比べると接続が弱く、高校卒業後に全員が大学に行くわけではないことや、生涯学習の観点が欠落している改革だったと指摘した。

 後半の「学び続ける教師を支える諸条件」では、講師の朝倉雅史同学人間系(教育学域)助教が「教師の学び」をキーワードに、中教審で求められてきた教員像の変化を解説。朝倉助教は、教員免許更新制に代わる新しい研修制度として位置付けられた校長と教員の対話による指導助言をする上では、現場の経験を省察することが重要になってくると強調。どのような経験が教員にとって良い経験であり、それを踏まえてどんな省察を行うことで教師の学びが深まるかや、そうした機会を生まれやすくする環境について、これまでの研究で明らかになった知見を紹介した。

学校を越えた教員間の関係づくりを

 その後の講義内容を踏まえてのワークショップでは、参加者がグループに分かれて、学校現場でどのように経験に基づく省察の場を生み出すかを話し合った。「若手の教員が増えているものの、中堅の教員が少なく、省察につながるようなアドバイスがもたらされていない」「校内だけでなく、校外の研修も使いながら、いろいろな人からアドバイスをもらえるようにしていける機会を考えていきたい」などの活発な議論が行われていた。

 こうした最新の研究動向と参加者の実践を結び付けるプログラムが魅力のTSLCだが、受講料は1コースあたり3万円で、毎週土曜日の半日を費やすため、参加するハードルはやや高い。しかし浜田教授は「こうした系統性を持たせた講座を行政研修などで提供することは難しい。用意された無料のコンテンツの中から選択するような研修ではなく、自ら探してきたものを受けられるようにすることこそ、教師の主体的な学びではないか。例えば、こうした大学が独自に行っている研修に教員が希望したら、受講料の半額を教育委員会が補助するといった制度があってもいい」と問題提起する。

 また、浜田教授は「校長がリーダーシップを発揮するには、自分の考えを支えてくれるよりどころが必要だが、実際には教育委員会などからの通知や校長会での情報共有くらいしかなく、多くの校長が孤独を感じている。学校が抱えている課題は多種多様で幅広く、通知を読んだり、校長会で議論したりするだけでは対応できないことも多い。だからこそ、地域を越えたネットワークが必要で、同じような課題を抱えている先生同士で情報交換できるような仕組みも考えている」と、TSLCをきっかけにした学校を越えた教員間の関係づくりにも力を入れる。

「相談」「情報」「講座」の3本柱で教員を支援

 日本で一番大きな基礎自治体の横浜市は、市立学校も500校を超える。同市には教育センターとは別に、「ハマ・アップ」という授業改善支援センターが北部、南部、東部、西部の市内4カ所に設置されており、同市立学校教職員や、同市立学校教職員の採用希望者などが自由に利用できる。昨年度はコロナ禍による休館や開館時間の短縮などがあったにも関わらず、延べ1万1310人が利用している。

 ハマ・アップでは、「相談」「情報」「講座」の3本柱で教員の学びを支援している。元校長などの「授業改善支援員」が常駐しており、指導主事と連携しながら授業づくりや学級づくりに関する相談に応じている。特に多いのは、授業研究会に向けた指導案づくりに関する相談だという。個人だけでなく、学年団などグループでの相談も増えてきている。

 また、学習指導案や、2万冊以上の教育関連図書や映像などの情報がそろっており、いつでも閲覧できる。本や資料の貸し出しも行っており、同市立学校の教職員ならば、学校メール便でも返却できる便利なシステムも取り入れている。

 平日の放課後には「授業づくり講座」を無料で開催。昨年度は4館合計で90講座が開かれた。今年度も5月からスタートしており、例えば南部ハマ・アップでは全校種の教員を対象とした「iPad活用基礎&メディア表現講座」や「特別活動&ロイロ ICT活用の極意」、中学校教員向けの「新学習指導要領に基づいた実践提案」などの講座がすでに実施されている。講師は主に指導主事が務めており、各校の現職教員や、市内の企業や美術館などとタイアップした講座も開かれている。

「働き方改革」「教員の多忙化」の中で学びの在り方を模索

 教員の主体的な学びを支援しているハマ・アップだが、南部ハマ・アップの授業改善支援員の立田順一氏は「講座や相談の大部分が勤務時間外に行われているため、参加を勧めにくいという校長の声も聞く。中学校教員は部活動があるためか、小学校教員と比較すると利用率が少ないなど、教員の多忙化が進む中での学びの支援の在り方は悩ましいところがある」と吐露する。

ハマ・アップでの授業づくり講座は対面とオンラインで行われている

 こうした課題を少しでも解消するために、昨年度の後半からは「授業づくり講座」の開始時刻を30分早めた。また、新たにオンライン講座とオンライン相談もスタート。6月に行われた中学校教員向けの講座「ハテナ?を大募集! 数学科授業づくり・作問の基礎・基本」は、Zoomを使ったオンライン型と対面・集合型の両方で行われた。7月15日には小学校教員向けに「個別支援学級 カリ・マネ授業づくりシリーズ」がオンラインで行われる予定だ。

 立田氏は「オンラインも取り入れることで、育児や介護などを抱える教員をはじめ、多くの方が参加しやすくなるのではないか」と期待を寄せるが、コロナ禍を経て、改めて対面で集合する良さも実感している。

 例えば、こんなことがあった。3月下旬に新規採用者も参加可能な春季特別講座を実施したところ、コロナ禍でつながりも少ない中、それまでの心細さからか、同じ仲間とリアルにつながれてほっとしたのか、開始早々に泣き出す新規採用者もいたという。「オンラインも対面もそれぞれに良さがある。講座を受けるだけでなく、教員や学生にとって、いつでも気軽に相談したり集まれたりするようなサロン的な役割も担っていきたい」と立田氏は展望を語る。

(藤井孝良、松井聡美)

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