【個別最適な学びに挑む】子供が幸せに学ぶ場を 天童中部小(上)

 山形県天童市立天童中部小学校(石澤明子校長、児童637人)では、4年ほど前から新たな学びの形の模索が始まっている。「今も未来も、子供たちが幸せに暮らせるように支援すること」、そして「将来、教職員がいなくても自分たちだけで学び合えること」――。この2つを合言葉に始まった新たな学びの一つが、同校で「マイプラン学習」と呼ぶ単元内自由進度学習だ。子供たちが自分で計画を立て、好きなところから、好きな方法で学ぶことができる一方で、時間内に示された課題を終え、目標に到達する「責任」も伴う。子供たちが目を輝かせ、思い思いのやり方で学ぶ姿は、教員にも多くのことを教えてくれる。

自分の好きなところから、好きな場所で
2年生の児童が「マイプラン学習」で学ぶ様子を見つめる教員

 「先生、もうマイプラン学習、始めてもいいですか」。授業研究会が行われた6月上旬のある日、授業が始まる少し前から、2年生の教室では子供たちがそわそわと準備を始めていた。時間になると、子供たちは一斉にタブレットや筆箱、ワークシートなどを抱え、思い思いの場所へと散らばっていった。「今日は算数と国語、どっちにしようかな」「おれ、算数。行ってきます」「マイプランに行ってきます」。

 多くの子供たちが向かったのは、廊下に隣接したオープンスペース。窓や壁には、さまざまな資料が貼られている。窓際には数人の女の子が集まり、時計の模型を触りながら課題に取り組んでいる。男の子の2人組はオープンスペースの真ん中に寝転びながら、タブレットで「雨の音」の音声資料を聞いている。壁の前では、子供たちが自分の聞こえた雨の音を付箋に書いて貼り付け、背伸びをしながら、タブレットで写真を撮っている。

子供たちが学ぶ空間には、さまざまな教材や資料が準備されている

 1人で黙々と取り組む子、2~3人でじっくりと相談している子、大人数でわいわいと話し合う子、プリントを片手に「やった、できた」と小躍りしている子。オープンスペースだけでなく、教室にも数人の子供たちが残っていて、個人やグループで課題に没頭している。その間、担任は子供たち一人一人の様子を見て回りながら、課題の進み具合を見守ったり、質問に来た子にヒントを与えたりしている。

 これはマイプラン学習の一場面だ。今回、2年生は10時間をかけて国語と算数の学習を並行して行っており、国語では雨の音や様子を言葉で表したり、工夫して音読したりする「ことばを楽しもう」、算数では数量を分類・整理し、グラフや表に表したり読み取ったりする「グラフとひょう」、午前・午後などの意味や日・時・分の関係を理解する「時こくと時間」の学習を進めることになっていた。

 子供たちには「学習の手引き」が渡され、それを見れば学習の目標や流れ、発展的な内容などが分かるようになっている。子供たちはその日の自分の学習状況を基に、次の時間の自分の学習計画を立てるが、「学習の手引き」にはいくつかの「コース」が示されていて、どこから始めてもかまわないし、途中で計画を変更することもできる。ただし、最終的に示された課題を全て終え、目標に到達しなければならない。

 天童中部小では全体の授業時間の約2割で、こうしたマイプラン学習や、子供たちだけで学び合う「自学・自習」、子供たち一人一人が自分で選んだテーマで探究する「フリースタイルプロジェクト」といった新しい学びの形を取っている。

「子供だけが知らないことがたくさんあった」

 天童中部小は2019年度の後半から、こうした新たな学びに取り組み始めた。かじ取り役を担った大谷敦司前校長は「単純に、学校がもっと自由に学ぶ場所だったらいいな、という発想だった」と振り返る。導入時の合言葉は2つあり、1つは「今も未来も、子供たちが幸せに暮らせるように支援する」というもの。「将来のために今は我慢しなさい、というのではなく、いつだって幸せに暮らせる場所でなければ」と大谷前校長は話す。

 もう1つの合言葉は、「子供たちが将来的に、私たち教職員がいないところでも学び合えるように支援する」というものだ。「子供たちがこれから生きていくのは、先行き不透明な時代で、ヒントや答えをくれる人はそうそういない。当てになりそうな人を探しつつ、一人で、あるいは仲間とどのように学んでいくかが大切になる」。

 そこで、まず何人かの子供が「先生役」になり、子供たちだけで授業を進める「自学・自習」を導入することにした。教員が出張で学級を空ける時などには、先生役の子供たちと授業の狙いや進め方を事前に打ち合わせ、子供たちだけで授業を進めさせた。打ち合わせでは教員用の指導書を子供にも見せ、教材研究も子供と相談しながら進めた。

 大谷前校長は「学校は子供のためにあるはずなのに、今までは教員が勝手にこっそり授業の計画を立てて進めてしまい、子供だけが知らないことがたくさんあった。日々、教員の授業を見て『モデル』を知っている子供たちは意欲的に取り組んだし、教員にとっても自分の授業のくせや、子供たちだけで深められる内容の限界を知る良い機会になった」と話す。

 自学・自習の手応えを受け、単元内自由進度学習を翌20年度に導入した。マイプラン学習という名称は、「計画が一番大事だから」と、高学年の子供たち自身が名付けた。互いに関連の薄い単元を並行して進めるスタイルは当初からで、それは「苦手な方は早めに終わらせて、好きな方をじっくりやろう」「今回は、不得意な方に時間をかけて考えよう」といった、学習計画を立てる上での自由を子供たちに保障するためだ。

マイプラン学習のよりどころとなる「学習の手引き」。学年や学習内容に応じて工夫されており、発展学習もある

 学習を進める上での要となる「学習の手引き」や、掲示物などの環境の作り方について、大谷前校長は「無理をしないように」と教員たちに伝えたという。「あまりがんばり過ぎると続かない。最低限、学習が進むような水準を示したり、教員同士で作った手引きを共有し、子供に合わせて修正して使えるようにしたりといった工夫をした。初めから完成形を目指さず、子供たちの作品をはめ込んでいって、最終的に環境が整っていくものだと考えればよい」と語る。

ゴキブリの動画を見続ける子が問うもの
タブレット端末を文房具の一つとして使う3年生の児童

 授業研究会の日に3年生が取り組んでいたマイプラン学習は、昆虫の変態に関するもので、子供たちは教室や図工室で、思い思いのやり方で課題に取り組んでいた。手元にはタブレットがあり、デジタル図鑑で昆虫の体を360度回転させて調べたり、インターネットで動画を探したりと、文房具と同じように、各自が好きなタイミングで活用していた。

 その日、見学に訪れていた東京学芸大学の佐野亮子講師が足を止めたのは、ある男の子がひたすら、ゴキブリ駆除用品の仕組みに関する動画を見ている姿だった。「何をしているのですか」と尋ねると、この子は「完全変態と不完全変態を調べていたが、完全変態の昆虫の例がなかなか見つからず、探しているうちにこの動画にハマってしまった」と答えた。

 「手引き」ではモンシロチョウやトンボ、バッタなどを中心に調べることになっていて、ゴキブリは含まれていない。ただ佐野講師が「ゴキブリは完全変態か、不完全変態か、どちらですか」と尋ねると、その子は「(モンシロチョウのような)幼虫の時期がなく、完全変態ではない」と答えた。「あながち全然違うことをしているわけではないのだと分かった。一見、学習と違うことをやっているように見えるが、尋ねてみると、その子なりの理屈で調べている」と佐野講師は感じた。

 「これはどうしたものか、と思う人もいるだろうが、ゴキブリも昆虫には違いない。子供たちの学び方についてどこまで許容して、どこから支援していかなければいけないのかを見極めるのは、担任の先生でなければできない。それまでの学びの様子を見ていて、いつもは全然授業に乗ってこない子がゴキブリで乗ってきているなら、それを受け入れつつ、本来やらなければいけないことをどこまでやるかを考えていく必要がある」。授業を見学した後の講評で、佐野講師は天童中部小の教員らにそう語った。

 同じく、見学に訪れていた上智大学の奈須正裕教授は、「この子はちゃんとやっている」と太鼓判を押した。「学習指導要領では『昆虫の育ち方には一定の順序があること』を、飼育を通して学ぶことになっているだけで、モンシロチョウでなければいけないという指定はない。教科書でモンシロチョウが使われるのは、教室で飼育しやすいし、感動的な羽化の経験もできるからだが、『昆虫』と言われて子供が思い浮かべるのは、モンシロチョウよりもむしろ、カブトムシやテントウムシかもしれないし、ゴキブリだっていい」。

 奈須教授はさらに「教員は『なぜ、この子は教科書通りにやらないのだろう』と考えるのではなく、むしろ『この子はゴキブリでやりたがるのに、どうして教科書はモンシロチョウを取り上げているのだろう』と問い直すことが大事だ。今回、ゴキブリに夢中になっていた子は、単に教科書通りに進めるだけではいけないことを、改めて教えてくれる存在だ」と語った。

(秦さわみ)

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