【個別最適な学びに挑む】教員が担う環境作り 天童中部小(下)

 単元内自由進度学習「マイプラン学習」を導入した山形県天童市立天童中部小学校(石澤明子校長、児童637人)。そこでの教員の役目は、子供たちが学ぶ時のよりどころとなる「学習の手引き」を作ったり、資料や教材など学びの環境を整えたりした上で、子供たちの学びをひたすら見守ることだという。「正直、大変でないとは言えない」と明かしつつも、教員らは一斉授業では見えなかった子供の姿を目の当たりにし、日々、工夫や改善を重ねている。こうした新しい学びは、全体の授業時間の約2割だが、その他を占める従来型の一斉授業でも良い変化が表れていると語る。

学習計画を喜んで語る子供たち

 今年度、天童中部小に赴任したばかりの石澤校長は、毎朝校門に立ち、登校してくる子供たちに声を掛けている。当初は「おはようございます」とあいさつするだけだったが、子供たちは間もなく新しい校長に慣れ、「こんなの拾った」「落とし物があったよ」などと、軽い話をしてくれるようになった。

子供の学びの様子を見て回る教員

 それが5月にマイプラン学習が始まると、「今日からマイプラン学習が始まるんだ」「ぼくはこんなことを勉強したい」と、自分の学びについて口々に話すようになった。虫かごを持ってきた児童は「マイプラン学習で昆虫の勉強をするから、虫を捕まえてみようと思って」と、目を輝かせて自分の計画を語ってくれた。

 石澤校長は「びっくりした。これまでも、すでに学んだことを話してくれる子は見てきたが、『これからこんな勉強をする』と自分で見通しを持って、興味・関心を語れる子はなかなかいなかった。今、学んでいることを、とにかく誰かに伝えたい。そのくらい自信があるということなのだろう」と、驚きを隠さない。

 1学期は2年生以上で行っているが、2学期からは1年生でも始める予定だ。「低学年でも、自分がしていることをちゃんと意識できるのだろうか、という思いは正直あった。でも実際、子供を信じて進めてみると、意識的に自己決定できている。『自分で決めて自分で学ぶ、その責任は自分にある』というのがマイプラン学習の良いところで、子供たちはしっかりと自分の学びに向かっている」と石澤校長は語る。

 マイプラン学習では子供が学び方を自由に選んで深められるよう、教材や資料などの環境を作ることが大切になる。複数の教科書を比較・検討するのはもちろんのこと、社会で地域の子育て施設について学ぶ時は、市役所に足を運んで資料を集めたり、担当課に取材したりするし、理科で水中に住む生き物について調べるなら、池の水など、いろいろな場所の水をくんで用意しておく。

必要に応じて、自由に掲示された教材や資料を見ている

 石澤校長は「教材研究や準備は正直、大変だと思う」と語りつつ、「先生たちはアイデアをたくさん持っていて、エネルギーを感じる。大変な中でも、楽しみながらやってくれている」と話す。同時に「マイプラン学習でも、単に『面白かった』で終わらせず、必要な資質能力がきちんと身に付いているか、一人一人の学びをきちんと評価しなければならない。教員も目の前の子供から学んでいくことが重要になる」と強調する。

計画通り進まない時の「調整力」こそ大切

 子供たちのマイプラン学習を間近で見守っている教員たちは、どんなことを考えているのだろうか。この2年、マイプラン学習などの新たな学びに取り組んできた前研究主任で6年担任の鈴木友宏教諭は「大事なのは計画を立てることだけでなく、計画通り進まない時に軌道修正できるという、いわば学びの調整力をつけることだ。こうした目的を念頭に置いた上で、『学習の手引き』に沿って進めていくことになる」と説明する。

 学習の手引きを作る際には、苦手だと感じている子も取り組みたくなるような問いを立てることを大切にしているという。各教科の見方・考え方を踏まえつつ、「こうすればあの子も、問いを持って動き出せるはずだ」「この教科で、粘り強く取り組んでもらうには、こういう作り方にしよう」と、時には子供の顔を具体的に思い浮かべながら問いを立てる。「経験で慣れていく部分もあるが、やはり毎回、難しさは感じる。単に単語を書き込むだけの『穴埋め』になってしまわないよう、気を付けている」と鈴木教諭は語る。

 現在の研究主任で3年担任の小林大輝(ひろき)教諭は「一斉授業の時、45分間、ただ座っているだけの『お客様』になっている子が気になっていた」と話す。「マイプラン学習で動けるのであれば、自分の授業を改善しなければならないし、もしそれでも動けないなら、どのように環境を整えていくかを考える必要がある――、そんなことに気付くことができた。一斉授業ではどうしても急かしてしまうことがあるが、マイプラン学習なら、ちょっとした問題に2時間かけるのも『あり』だと思う」。

天童市の公共施設に関するさまざまな資料が廊下に掲示されている

 とはいえ中には、マイプラン学習が時間内に終わらない子もいる。小林教諭はそんな時、子供にどうしたいかを尋ねる。「中休みを使って続きをやるという子もいれば、週末に進めたいという子もいる。子供たちとは『自分の責任で、最後までやらなければいけない』という共通理解は作るようにしていて、『何でもあり』にはしないようにしている」。

 マイプラン学習などの新たな学びを始めたことで、普段の一斉授業にも変化があった。鈴木教諭は「同じ授業でも、子供たちが持つ疑問は一人一人違う。ただ一斉授業では『こんな疑問を持っていいのかな』と、表に出すことができなかった子もいたように思う。マイプラン学習を経験したことで、一斉授業でも、一人一人が考えた問いを積極的に出せるようになってきた」と手応えを語る。

 小林教諭は「マイプラン学習と普段の授業は、相互に影響していると感じる。子供たちには目的意識が生まれ、時間の見通しが立つようになってきた。新たな学びを毎回、単発の取り組みで終わらせず、積み重ねていくことが今後の課題だ。自分の中で学びがどのようにつながっていくのかを考えてもらい、残り8割を占める一斉授業の質も上げていくことができれば」と語る。

「下手な声掛けは、しない方がいい」

 天童中部小で4年前から、こうした「マイプラン学習」や、子供たちだけで学び合う「自学・自習」、子供たち一人一人が自分で選んだテーマで探究する「フリースタイルプロジェクト」といった新たな学びを導入してきた大谷敦司前校長にも、教員が担う役割について尋ねた。

 「子供は有能な学び手。一人残らず、できるようになりたいと思っている。教員は基本的に一人一人の学びを見守ることが大事で、教員に助けを求めてきた時以外、下手な声掛けはしない方がいい。計画の振り返りをする時に、『今日は頑張ったね』『ここで悩んでいるんだね』などと語り掛けるだけでいい」と大谷前校長は語る。

 子供が相談を持ち掛けてきた時には、「あの子が同じようなことをしていたよ」「こちらにこういう器具があるよ」といった声掛けをしたり、子供自身で誰かに助けを求められるように促したりする。ただ「生活面も含め、見ていると気になる子はいる。うまくできない子や計画から遅れている子だけでなく、進んでいる子が次に何をやるのか、生活面で困難を抱えた子がどうしているか、といった点にも目配りしていく必要はある」。

関連する書籍を見ながら、質問に来た子供の話を聞く教員

 大谷前校長は「2割の新しい学びは、8割の普段の授業のためにやっているようなものだ。一斉授業では子供をよく見たり、子供の持っている力を知ったりすることは現実的に難しいため、マイプラン学習のような学び方で視点を変える必要がある」と語る。さらに「教員の手を離れて自由に学ぶ時間があれば、子供たち自身も変わってくる。逆に、教員との学びを楽しめるようにもなる」とも。実際、自学・自習やフリースタイルプロジェクトなどが続いた日、「自分で全部やるから疲れるよ。先生が授業をしてくれる方がいい」という声が子供から上がったという。

 とはいえ「こうした学びもいずれは必ず、マンネリ化する。子供たちも最初は面白がるが、そのうち『この程度でいいや』と思い始めるかもしれない。そこをどうやって乗り越えるかが今後の課題で、発展学習を工夫する、場所を変える、といった工夫が必要になるかもしれない」と大谷前校長は語る。

 ただ「子供たちが幸せであること、将来、自分たちだけで学べるようになること――。その理念さえ変わらなければ、スタイルは自由に変わっていけばいいと思っている。子供たちがもっと自由に、面白く、自分たちだけで学んでいける、そんな方法を見つけられればいいし、それを期待している」とも付け加えた。

(秦さわみ)

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