安倍元首相銃撃事件 子供の心のケアの初動、藤森教授に聞く

 安倍晋三元首相が、参院選の遊説先の奈良市内で銃撃され死亡した事件では、襲撃の瞬間をとらえた生々しい映像が、繰り返しテレビやSNSに流れた。事件・災害後の学校現場における心のケアに詳しい武蔵野大学人間科学部の藤森和美教授は、被害に遭ったのが自分とは直接的な関係のない人物であっても「恐怖心をあおる場面にさらされると、子供の心身に大きな影響を与える」として、子供や保護者に映像を繰り返し見ないよう伝えることが重要だと指摘。もともと不安を抱える子供には、特に配慮が必要だと語る。

襲撃の映像、「見ない方がよい」と伝えて

――今回のような事件が起きた時、教員はまず何をすべきですか。

 テレビやSNSで、繰り返し襲撃の場面が映し出されています。今回は特に、襲撃の瞬間の映像が流れていますが、これは大人でもかなりの不安を呼び起こすもので、子供にはなおさら注意が必要です。自分とは直接的な関係のない人であっても、恐怖心をあおる場面にさらされると、子供の心身に大きな影響を与えますから、学校関係者や保護者はきちんと制限をかける必要があります。

映像を繰り返し見ないことの重要性を指摘する藤森教授(Zoomで取材)

 テレビでは当初「これから銃声が流れます」などのテロップの準備が追い付かず、いきなり映像を流していましたし、SNSでは個人が撮影した動画がそのまま投稿されています。近年の子供たちは、テレビよりSNSに触れ合う機会も多く、保護者が気付かないうちに何度も見てしまうことがあります。周囲の大人は、きちんと「見ない方がよい」と伝えてください。

 学習用タブレット端末などでインターネットにつながる環境になっていたら、事件直後は使わせないという判断をしたり、下校時に子供や保護者に対し、関連する映像や情報を繰り返し見ないよう伝えたりすることも有効です。

――今後1~2週間、子供の様子で気を付けるべきことはありますか。

 もともと不安の強い子や、家庭環境に困難を抱えている子などは特に、落ち着かない、いらいらする、眠れない、お腹が痛いといった症状が出てくるかもしれません。今回の事件をきっかけに症状が出てきたとしても、その子がもともと抱えていたものに注目したトラウマケアが必要です。もし子供が何か訴えてきたら、「がんばって」などと簡単に流さず、「辛いね」「先生がお家の人と相談しようか?」など、丁寧に対応することが必要です。

 実際に事件を目撃してしまったなどの場合は、どきどきする、眠れないなどの症状が出てくることもあるかもしれません。事件現場の付近を通るだけで不安になることもあるでしょう。教員は「そうなっても不思議ではないよ」と受け止め、もし1カ月経っても改善されないようなら、スクールカウンセラーや医療機関など、専門家につなげることが望ましいでしょう。

――子供の年齢に応じて、気を付けるべきことは違いますか。

 低年齢の子供は身体症状が出たり、大きな音におびえたりという症状が出る可能性もあり、そうした不安に丁寧に向き合うことが重要になりますが、思春期以降は特有のアプローチが必要です。加害者の家庭環境などが報道されることで境遇を自分自身と重ね、自分の不満や憤りを、他者への攻撃や、自傷行為という形で表出させてよいのだ、と学習してしまうと非常に危険です。

 思春期以降は気持ちを言語化することもできるようになりますので、とにかく苦しい気持ちを抱え込まず、相談窓口につながることを伝えてほしいと思います。子供が何も言わなくても、教員の側から「眠れている?」「イライラしてない?」「受験のことで、何か心配ある?」などと聞いてあげてください。「元気?」「大丈夫?」という声掛けは、子供にとっては何も聞いていないのと同じようなものですから、できるだけ具体的に声掛けするのがポイントです。

 子供たちだけでなく、教員自身も注意が必要です。もともとストレスを抱えている、暴力を受けた経験があるなど、ハイリスクな要因のある人は特に気を付けてください。

夏休み中は保護者と連携して見守りを

――間もなく夏休みを迎えますが、その期間の心のケアについては。

 1~2週間も過ぎれば状況は落ち着いていくと思いますが、ちょうど夏休みに入るので、保護者に子供の様子を注意して見守ってもらうことが望ましいでしょう。怖い夢を見るなどの症状は、学校や教員まで伝わりづらいこともあります。夏休み前に、インターネットやSNSの適切な使い方などを周知するなら、合わせて今回の銃撃事件の映像や、ウクライナ情勢などの悲惨な映像を繰り返し見ないよう、伝えておくのもよいと思います。

 また8月、9月は子供の自死が増える時期と重なります。誰かの死が目の前でさらされたことが引き金になる可能性もあります。学級担任だけでなく、部活動の顧問など、夏休み中でも子供たちと会うチャンスのある教員は、注意して見守ってほしいと思います。

――子供に事件について聞かれたり、クラスで事件のことが話題になっていたりする場合は、どうすればよいですか。

 「怖かったね」「先生も嫌な気持ちになったよ」「先生も映像を見ないようにしているんだ。あなたも見ない方がいいよ」などと答えてあげてください。すでに映像を見たということなら、「どんな気持ちになった?」「怖かった? そうだよね、怖くなるから見ないほうがいいよ」といった声掛けがよいでしょう。

 子供たちは事件の話をすることで、自分の素直な感情を話し、友達と共有しているという側面もありますから、子供たちがクラスで話題にしていても「その話はやめなさい」と言う必要はありません。教員の側から「大人でも怖いんだよ。繰り返しテレビで見ると余計怖くなるからやめようね」などと伝えるのがよいと思います。子供の関心はあっという間に別のものに移っていきますから、他に夢中になれることを作ってあげるのもよいでしょう。

(秦さわみ)

【プロフィール】

藤森和美(ふじもり・かずみ) 2001年、筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻修士課程修了。05年、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。公認心理士、臨床心理士。研究領域は臨床心理学、災害臨床心理学、学校への緊急支援。編著に『学校トラウマの実際と対応 児童・生徒への支援と理解』(誠信書房)、『学校安全と子どもの心の危機管理』(同)など。

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