10代の投票率も上昇 襲撃事件で政治との距離開く懸念も

 投票日の前々日に安倍晋三元首相が銃撃されて死亡する事件が発生し、国民の投票行動への影響が指摘される中で行われた第26回参院選は、投票率52.05%で、前回参院選よりも3.25ポイント増加したものの、過去4番目の低さだった。総務省が7月12日に公表した10代の投票率(速報値)は34.49%で、こちらも前回より3.16ポイント上昇。若い世代にとって、首相としての連続在任期間が歴代最長だった安倍元首相のイメージは強い。今回の銃撃事件と参院選をターニングポイントに、若い世代は政治とどう向き合い、学校は民主主義の担い手をどう育てていくべきなのか。若い世代の声を政治に反映させる活動に取り組んできた日本若者協議会の室橋祐貴代表理事と、日本シティズンシップ教育学会会長の水山光春京都橘大学発達教育学部教授に、今回の襲撃事件が日本の主権者教育に与える影響を聞いた。共通して返ってきた答えは、この事件がきっかけで子どもや若者と政治が離れてしまうことへの危惧だった。

今回の参院選の10代投票率
若い世代と政治家が直接対話する機会をどう守るか

 「民主主義は、暴力ではなく、対話と合意によって社会の在り方を決める、人類が発明したツール。この機会に改めて、なぜ民主主義は重要なのか、選挙は何のためにあるのか、そうした議論をしてもらいたい。その上で、こうした暴力はどうしたらなくせるのか、意見の異なる人との対話はどうしたら増やせるのか。そうしたことをみんなで話し合っていくことが重要だ」

 日本若者協議会の室橋代表理事は、安倍元首相の襲撃事件から、まずは学校で民主主義の意義を再確認してほしいと呼び掛ける。

 投票率が前回参院選よりもやや上昇したことは、安倍元首相の襲撃事件で民主主義への挑戦が叫ばれ、国民が投票への意識を高めた結果とみる。特に若い世代の傾向を「18歳選挙権が浸透し、高校1年生の段階から主権者教育を受ける世代が増えてきた。学校でも実際の事例を取り上げるようになったのと、いわゆる『ブラック校則』の見直しといった身近で実践的な取り組みも広がるなど、質は上がってきている。若い世代は選挙への投票だけでなく、ロビイングや署名活動など、さまざまな方法で政治に参加しようとしている」と分析し、前回参院選よりも確実に若い世代の政治への関心は高まっていると手応えを感じている。

 一方で、安倍元首相の銃撃事件は、せっかく政治に関心を持ち始めた若い世代を再び遠ざけてしまう可能性もはらんでいると懸念する。「今回の事件の背景や安倍元首相の評価はあくまでファクトベースで、是々非々で議論してほしいが、何よりもこういう事件が起きたことで『やっぱり政治って怖い』と若い世代が思ってしまうのはよくない」と室橋代表理事。さらに「街頭演説は政治家と国民が直接接することのできる数少ない機会だったが、この事件をきっかけに警備がとても厳重になったり、政治家が街頭演説を避けてクローズドな場で主張を伝えたりする傾向が強まれば、ますます若い世代が政治家と対話するチャンスが減ってしまう。どうやって政治家と国民が直接対話する空間をつくるかが、今後の政治の在り方として課題になるのではないか」と問題提起する。

動機と結果を分けて、慎重に見極めることが問われている

 日本シティズンシップ教育学会会長の水山教授は今回の襲撃事件を「これまでの歴史上の政治家の暗殺・襲撃事件とはちょっと違うのではないか」とみる。「五・一五事件や二・二六事件、浅沼稲次郎襲撃事件などは、政治を変えたいという明確な動機があったが、今回の事件ではそうした政治的な意図があまり見えず、個人的なものであるように思える。その点からも、今回の事件とこれまでの歴史上の政治家の暗殺・襲撃事件を一概に同列に扱ってはいけないのではないか」と、報道などの論調に疑問を投げ掛ける一方、「結果としては選挙期間中に政治家が殺され、今後の政治に大きな影響を与えることになる。事件の動機と結果を分けて議論することや、この事件を誰が何のきっかけにしようとしているのかなど、伝える側であるメディアも、教える立場である教員も、慎重に見極めていく必要がある」と指摘する。

 その上で、この事件が子どもたちの行動面に負の影響が出ることを危惧。「政治家が公衆の面前で撃たれるという映像はとてもショッキングだった。これを見た子どもたちが『政治は命をかけないとできないことなんだ』と考えてしまい、人前で自分の意見を言うことが怖くなるといったことが出てくれば、教育面でも、主権者を育てていく上でもマイナスになる。いかにトラウマにしないようにケアしていくかが大事になる」と警鐘を鳴らす。

 また、「民主主義は変化することを恐れない」として、「この事件をきっかけに、日本の社会をより良い方向に変えていくことが大事になる。そのためにも、安倍政権が行ってきた政策や長期政権の中で指摘されてきたさまざまな問題について、きちんと総括する必要がある。決して単に美化したり、うやむやにしたりしてはいけない」と強調した。

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