【変わる教員研修】 学校の日常に「人材育成をビルトイン」

 来年4月からスタートする新しい教員研修制度を見据え、学校現場では教員不足や多忙化といった課題を抱えながらも、教員の学びの模索が始まっている。埼玉県戸田市立美女木小学校(山田一文校長、児童699人)では、全教員が一律で参加するこれまでの校内研修を改め、それぞれの教員が学びたいことを学ぶ「個別最適な校内研修」に取り組んでいる。また、東京都品川区立豊葉の杜学園(二宮淳統括校長、児童生徒1024人)では、学習指導や保護者対応を学年チームで協働的に行う組織づくりや校務分掌の工夫により、「学校の日常に人材育成をビルトインする」仕組みを構築した。両校の教員研修の姿を追うと、今後、管理職に求められる資質能力も見えてきた。

教員の思いや熱意と校内研修を結び付ける

 美女木小学校の勝俣武俊教頭は、学校で毎年1つのテーマを決めて、全教員が同じアプローチで取り組むような校内研修の在り方を変えたいと、数年前から考えていた。「そのテーマにはまる教員にとっては良いが、はまらない教員にとっては“やらされ感”の強い学びになってしまう。それぞれの教員の思いや熱意と校内研修を結び付けることができれば、もっとワクワクする、主体的な研修や学びになるのではないか」と話し、昨年度から個別最適な学びを実現する校内研修に取り組んでいる。

自分たちが学びたいことについて話し合う美女木小学校の教員ら

 昨年度は、まず全教員でそれぞれの教育観を対話しながら共有していくことに注力した。そうして組織の共通言語となる最上位目的を共有した上で、そこまでのアプローチはそれぞれの教員に任せるようにした。今年度は、「自由進度学習」や「SEL(社会性と情動の学習)」「PBL」「GBL(ゲーム・ベースド・ラーニング)」などのテーマで、教員が自ら研修企画を立て、学んでいる。

 これらの学びは、学年団で1つのテーマに取り組むケースもあれば、個別に取り組む教員や、いくつかのテーマに参加する教員もいるという。研修は外部講師を招いたり、日々の授業に取り入れたりしながら進められている。そのテーマにおけるトップランナーから学ぶことも大事にしており、外部講師は教員自らが探し出して交渉している。また、同じテーマで取り組む教員同士が授業を見合うなどして、普段から校内でも学び合う体制がつくられている。

勤務時間内に個別最適な学びを実現

 今でこそ多くの教員が主体的に学び始めているというが、「スタート当初はかなり厳しかった」と勝俣教頭は振り返る。すぐに自分がやりたい学びに向けて走り出す教員もいれば、こうした校内研修に戸惑いを見せ、何をどうすればいいのかが分からずに動き出せない教員もいた。後者に対して勝俣教頭は、「○○っていうのがあるけど、ちょっとやってみる?」と、あえて緩い声掛けをしていき、少しずつ学びの種まきをしていった。

 「研修の企画・運営など、オーナーシップは全て各教員に渡している。そうすることで学びがどんどん自分ごとになっていき、学びへの意識が変わっていった」と、教員らの変化を語る。また、授業にも少しずつ変化が出てきている。

 「一番分かりやすいのは、総合的な学習の時間。例えば、1から10まで決めていた教員が、子どもに任せるようになった。任せてみると、教員は子どもたちが持っている力に驚く。そうして、どんどん子どもたちが主体の授業に変わっていっている」

 これまでを振り返り、勝俣教頭は「勤務時間内に、教員の個別最適な学びを実現することは可能だと感じている。ただ、そのためにはさまざまな視点から学校のシステムを変えていかなければいけない」と指摘する。同校では、毎週行われていた職員集会をウェブ上の掲示板でのやりとりにしたり、数あるアンケートを全てICT化したりするなどして、工夫を重ねている。

 文科省がまとめた教員研修のガイドラインの最終案では、「教員の資質向上を実現するために、誇りを持って主体的に研修に打ち込むこと」と示されている。勝俣教頭は「教員が当たり前に学びたいことを学べる環境をつくっていくことが、人材育成につながっていく。自分の学びは自分でつかみ取る、教員一人一人が自走するような学びの環境をつくっていきたい」と展望を述べた。

日常に人材育成をビルトインする

 豊葉の杜学園(義務教育学校)の二宮統括校長は「教員の多忙化は、新たな策を導入しないと解消は難しい」と厳しい現状を訴える。その上で、「限られた時間の中でどう学んでいけばいいのか。研修も含め、全てのことと働き方改革は両輪で進めていかなければいけない。研修で学んだことは、学校現場ですぐに役立つものであるべきだ」と指摘する。

 来年4月からの新たな教員研修制度の在り方について、「日常の中に人材育成をビルトインし、教員の質を保障していくことが一つの道ではないか」と話す。同校のそうした仕組みの一つが「ハウス方式」だ。これは学習指導や生活指導、保護者対応など、全てを学年教員チームで協働的に行う仕組みで、例えば学習指導においては小学3年生から教科担任制を取り入れるなどして、学年全体で学力向上を目指している。常に複数の目で学年の子どもたちを見て、関わっているため、生活指導や保護者対応もチームで相談しながら対応している。

「日常的に学校内で学び合いながら伸びていける」と二宮統括校長

 「どこの学校でもそうだと思うが、若手教員の割合は急速に増えている。こうして何事においてもチームで対応することで、若手が悩みや課題を抱え込まずに済むし、日常的に学べている」と話す。ハウス方式により、同校は義務教育学校という大規模校にも関わらず、ここ何年も学級崩壊は起きていない。

 また、二宮統括校長は「子どもたちに協働的な学びが必要とされているが、そもそも教員が他者と力を合わせて、チームで協働するような経験を重ねていくべきだろう。自分の中の価値観だけでは、成長が遅くなる」と指摘する。

新たな課題に合わせて校務分掌を立ち上げる

 もう一つの大きな柱が、校務分掌だ。同校には「授業力育成部」「子ども健全育成部」などの校務分掌がある。「授業力育成部」では、前期課程と後期課程の教員がペアとなってお互いの授業を観察し合う「授業力ペアリングシステム」を構築し、授業力育成に関わる校内研修や研究授業をしている。「子ども健全育成部」では、発達段階に合わせた育成という視点から、校則を見直したり、授業のルールを考えたりしている。

 文科省が示したガイドラインにおいても「求められる知識・技能が変わっていくことを意識して、継続的に新しい知識・技能を学び続けていく」ことが求められているが、同校では新たな課題を感知すれば、校務分掌を新たに立ち上げるようにしている。

 例えば、昨年度からは「教育システム開発部」が立ち上がった。授業でのタブレット端末の活用や、コロナ関連で児童生徒が休んだ時のICTの活用などについて、通信で共有したり、校内研修を実施したりしている。さらに今年度からは「ESD推進部」を立ち上げ、教育課程にSDGsをどのように取り入れていくかなどを検討している。

 二宮統括校長は「ハウス方式で学年という横系列を、校務分掌で学校全体の縦系列をつないでいくイメージ。こうすることで、日常的に学校内で学び合いながら伸びていける」と強調する。堀之内真理子統括副校長は「ハウス方式によって、経験のある教員は自分のことのように若手の成長を喜んでいる。自分さえよければいいという意識の人はいない。若手にも校務分掌の重要なポジションを積極的に任せているが、その裏で中堅やベテラン教員がさりげなくフォローしてくれている。相互に成長していけるような環境の素地ができてきている」と実感を込める。

校長に新たに求められる資質能力

 また、文科省が示した教員研修の指針の中では、校長に求められる資質能力として、新たにデータや情報を分析して共有する「アセスメント能力」や、学校内外の関係者と連携して学校の教育力を最大化する「ファシリテーション能力」が加えられた。

 二宮統括校長はまず「アセスメント能力」の大事なポイントを、校長が現在の学校が有するリソースを適確に把握することだと指摘する。「校長の理想があっても、現実に存在しないものを望んでいたのでは、実働的な学校経営は不可能だ。今あるリソースを把握した上で、その強みや弱みを分析していくことが重要で、私は強みを生かしていくことを考える」と話す。

 具体策として、それぞれの教員の強みを生かした人材配置を上げる。「全国的に教員の欠員が出ている状態で、全ての業務に対応できることを、全ての教員に要求するのは無理がある。一人一人の強みを生かして、チームとして成果を出せたら良い」と考えを示す。

 また、「ファシリテーション能力」について、その土台にあるのはコミュニケーションだと捉えている。「コミュニケーションとは、一方的に何かを伝えるのではなく、相互理解すること。保護者や地域関係者が、どのような考えを持っていて、どのようなリソースがあるのかを把握することが大切だ。学校の教育活動についても、なぜこのような取り組みを行っているのか、考えや方針を説明し、共有していくようにしている」と話す。

 同校では「品川コミュニティ・スクール」の制度を活用して、学校内外の関係者が協働して子どもたちの教育活動に取り組む仕組みを構築している。放課後に「科学研究所」や、「Advanced English Club」「計算道場」「文芸倶楽部」「陶芸工房」などの取り組みを行っている。

 来年度からスタートする新たな教員研修制度では、校長の力量が大きく問われることとなる。二宮統括校長は「学校に存在するリソースを把握し、これらを効果的に位置付けていく力や、一つ一つのパーツを組み合わせながら、一つの作品を創っていくような感覚が必要ではないか。時代の流れを読み、次のビジョンを創っていくような力も必要だろう」との見方を示した。

(松井聡美)

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