非常時の報道と子どもたち 教師や保護者ができること

 参院選の街頭演説中に安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件から約2週間。絶えずメディアでは関連ニュースが報じられ、衝撃的な映像などが目に飛び込んでくることも多い。こうした事件や事故、災害、紛争など、ショッキングな出来事が起きたときに、教師や保護者は子どもたちの心のざわつきにどう向き合えばいいのか。スクールカウンセラーの経験もある臨床心理学が専門の池田美樹桜美林大学准教授に聞いた。池田准教授は、子どもたちがこうした非常時に対してどう感じているのか、率直な気持ちを話せる場をつくることが大切だとアドバイスする。

子どもは自分が受けた印象そのものの方が残りやすい

――今回の安倍元首相への銃撃事件の報道について、どのように感じていますか。

 私自身、事件発生直後は仕事中だったこともあって、全てのメディアに目を通したわけではないのですが、事件が起きてから非常に速いスピードで全国に広まり、繰り返し報道されていた印象があります。それと同時に、私も含めたトラウマに関する専門家に対してメディアが早い段階から取材を開始し、事件が起きた夜には事件そのものや報道の視聴に対するメンタルヘルスについて、専門家の見解を紹介したニュースがすでに出ていたことも特徴的だったと思います。

――この事件は、子どもたちの心にどんな影響を及ぼす可能性があるでしょうか。

災害や紛争など、非常時の子どもの心のケアに詳しい池田准教授(本人提供)

 事件直後の映像がテレビやインターネットで流れていますが、身近な人が亡くなるという経験があったとしても、人が亡くなる場面そのものを直接見聞きした体験がある子どもは多くはないと思われます。今回のような突然起きた人為的な事件で、人が襲撃される場面を映像で見たことで、強い驚きや恐怖、不安を感じるといった心理的な反応は起こって当然と言えます。

 心の準備ができていないところに、衝撃的な映像が突然目に飛び込んできます。大人であれば、ナレーションやテロップなどから報道の内容を理解できますが、小さい子どもは、言葉や文字の情報よりも、映像や音から得られる情報により注意が向きやすく、印象が残りやすい側面があります。正しく事態を理解するための情報が不足するため、大人に比べて、より自分が受けた印象そのものの方が印象に残りやすいと言えます。

子どもと接する大人自身も映像との接し方に気を付けて

――子どもの発達段階やメディアの使い方によっても違いはあるのでしょうか。

 今やSNSやインターネットで一つの情報を探すと、自動的に関連する情報が出てくる時代です。その結果、情報を自分で検索できるようになる小学校中学年・高学年くらいになると、意図せずにそういう情報が集まってきてしまうため、繰り返し衝撃的な映像にさらされてしまう事態に陥りやすいと思われます。

 また、中高生も興味本位でニュースを見ていくうちに、気付かないうちに心理的にネガティブな影響を受けていたということは起こり得るでしょう。

 小学校低学年の子どもがいる家庭では、テレビのニュースを見る時間帯をコントロールしたり、そうした映像が出てきたらチャンネルを変えたりするなど、できるだけ子どもの目に触れないようにすることが大事です。私が所属している日本トラウマティック・ストレス学会でも、ロシア軍によるウクライナへの侵攻が報じられるようになったことを受けて資料を発信していますが、特に「ながら見」をしないということがポイントです。勉強や家事をしている後ろで映像が流れている状態にしない。食事をしながらテレビをつけない。そういったことに気を付けていただけたらと思います。たとえ意識的に映像を見ていなくても、音や視界の端に入れば、メンタルヘルスに影響を与える可能性があります。

 それから、子どもが見ていなかったとしても、大人自身もそうした映像を見て、驚きや恐怖、不安といった感情を抱くことは当然です。子どもは、周りの大人の反応に影響されやすいところがあるので、「何かただごとではないことが起きているんだ」と、周囲の緊迫した様子を感じ取って、結果的に子どものストレスが高くなってしまうこともあります。

 つまり、大人自身もまた、心が安定して過ごせるかどうかがとても大事なのです。保護者や先生方も、映像との接し方には気を付けていただきたいと思います。

話す機会は提供するけれど、強要はしない

――コロナ禍で最初の長期休校をしていたときに指摘されていたことと共通しているように思います。

 そうです、コロナ感染拡大の始まりのときと似ていますよね。大人であれば「こんなことを感じている」「怖い」などと言葉で表現できますが、子どもは認知的にも発達している途中の段階なので、自分が見えるところから部分的に情報を得て、子どもなりに理解しようとします。どんな情報がその子の頭の中に入っているかは、周りからも見えづらいですし、強いストレスを受けていたとしても、それを言葉で表現するのが難しい年齢の子どももいることを考えないといけません。子どものストレスは、言葉ではなく、「ご飯が食べられない」「眠れない」「勉強や遊びに集中できない」という形で出てくることも多いです。

 一方で、中高生になってくると、自分の感情や考えを言葉にできるようになってきていますが、家族や先生に伝えるというよりは、どちらかといえば友達同士で共有することが増えます。しかし、大人の言うことを全く聞かないかというと、そうではないので、「こうした映像の見方には注意しましょう」「知らないうちにストレスをためてしまうこともあるよ」とアドバイスできますし、「映像を見ていて嫌な気持ちになったときは、ストップしよう」「スマートフォンのフィルター機能も活用しよう」といったことを教えられます。ちょっとでも不安や不快な気持ちを感じたときは、うまく入ってくる情報を自分でコントロールすることを学んでもらえたらと思います。

 同時に、こうした事件に関心がある子どもも当然いると思います。そんな子どもたちには「どう思う?」と、直接聞いてみるのもいいかもしれません。子どもの心を知る上では、それが一番大切だと思います。今回の事件が大きな出来事だったのは確かなので、それを何事もなかったかのようにするのはかえって不自然なことです。「こんなことがあって、どんなふうに感じた?」と自然な感じで問い掛けてみて、子どもたちが思い思いのことを表現する場があるといいと思います。授業やHRで時間を確保するのが難しいのであれば、保護者や先生が子どもとのちょっとした会話の中で聞いてみるといいでしょう。

 ただし、このときに無理に話を聞き出そうとしないように注意が必要です。子どもの心のことを気に掛けるあまり、大人の側は「聞きださなければいけない」という気持ちが先行してしまって、言葉にしたり表現したりすることを促そうとしてしまうこともあるのですが、話す・話さない、表現する・しないは、その子自身に任せてあげてほしいです。子どもの中には、大人が思っているほどストレスを感じていなかったり、今はまだ話したくないと思っていたりする場合もあります。「話す機会は提供するけれど、強要はしない」ということを意識していただければと思います。

――今回の事件に限らず、大きな災害や事故、紛争が起きれば、衝撃的な映像を目にしてしまうことはどうしても避けられません。前もってそういうときにどうするかを知っておく必要があるのではないでしょうか。

 知りたいからずっとテレビをつけっぱなしにしておくということが、東日本大震災のときにはとてもよく起こっていました。そうした経験が私たちにはあるので、今回のような事件が起きたときに、メンタルヘルスの観点からどう向き合えばいいのかを早くからメディアが伝えることができれば、一人一人が気を付けられると思います。知った方がよい情報ですが、いつも見張っている必要はないのです。不必要に不安やストレスを大きくしなくていいのです。情報を把握しておかなければという気持ちが強くなり過ぎると、結果的に落ち着いて状況判断をすることもしにくくなります。

 もう一つ、こうした大きな出来事が起きたときに、いろいろな意味で心がざわついたり、不安になったりするのは、通常の反応です。だから、少し落ち着かないと感じたら、あえて意識的にいつもと変わらないように寝て、起きて、ご飯をしっかり食べるといった、普段通りの生活を心掛けることで、徐々に落ち着きを取り戻せるようになります。

【プロフィール】

池田美樹(いけだ・みき) 東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科臨床心理係長を経て、桜美林大学准教授(臨床心理学)。公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士。赤十字こころのケア、DPAT(災害派遣精神医療チーム)事務局支援として、東日本大震災、熊本地震災害など、多数の災害支援活動に従事。DPATインストラクター、DPAT先遣隊員、セーブ・ザ・チルドレンジャパン「子どものための心理的応急処置」指導者。日本公認心理師協会災害支援委員会委員長、日本臨床心理士会災害支援PT副代表。著書(共著)に『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』(南山堂)、『こころに寄り添う災害支援』(金剛出版)など。

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