子どもの「待つ」力、文化特有の習慣が影響 京大ら研究チーム

 京都大学大学院教育学研究科の齊藤智教授らの国際研究チームは7月19日、今すぐに報酬を得たいという衝動的な欲求を抑えて、将来の大きな報酬や目標を優先する「満足遅延」について、日本の子どもは特に食事に関して、その能力が高いことを明らかにした。齊藤教授は研究結果について、「みんながそろうまで食事をするのを待つ」といった、給食に代表される日本人の食事習慣を例に、「子どもの満足遅延は単に生まれついた能力ではなく、日本の文化で蓄積された、報酬を待つという習慣に支えられている可能性がある」と指摘。「子どもたちを取り巻く他者、集団、文化といった環境を、教育・福祉の中でどう形成してゆくかが、子どもの満足遅延にも大きな影響力を持つと考えられる」とした。

 満足遅延は自制心や勤勉性につながることから、子どもの発達や能力開発において重要とされ、心理学の分野で注目されている。研究では子どもが日常生活で積み上げる「待つ」という習慣が、満足遅延を大きく左右するという可能性を検証した。

 マシュマロやおもちゃなどを1つ差し出し、「今すぐにこれを食べてもいいが、食べないで待っていたら、後でもう1つもらえる」という条件で、15分間待てるか確かめる「マシュマロテスト」を利用した。研究チームは日本の子どもの待つ習慣として、食事に着目。日本では家族やクラスメートなど、他の人の準備ができるまで待って、全員で「いただきます」を唱えてから、初めて食事を始める食卓習慣がある。このことから、日本の子どもは食べ物において、マシュマロテストの結果が良く、満足遅延の能力が高いのではないか、と仮説を立てた。

 研究では日本の4~5歳児80人を半数ずつに分け、ラッピングされたプレゼント(ギフト条件)とマシュマロ(食べ物条件)のどちらを、子どもたちが我慢して長く待てるかを比較。ギフト条件では半数が5分以下の待ち時間だったのに対し、食べ物条件では6割近くが15分待つことができ、仮説と一致した。

 また、他の人の準備ができるまで待つ食卓習慣が弱いと想定される米国の4~5歳児58人にも同様の実験を行ったところ、米国の子どもは、食べ物条件では半数以下が4分以下の待ち時間だった一方、ギフト条件では半数が15分程度待つという結果になった。米国の子どもがギフト条件で長く待つことができるという結果は、事前の予測と異なったが、研究チームは「米国の子どもは、友達が帰るまではもらったプレゼントを開けない、クリスマスツリーの下にプレゼントが用意されてから何日も待って開けるなど、プレゼントを開けることを待つ経験が多い傾向にある」と説明。これらの結果から、子どもの満足遅延は自らの注意や思考を制御する能力の高さではなく、文化特有の「報酬を待つ」という習慣を反映していることが示唆されたとした。

 齊藤教授は研究の意義について、「我慢や勤勉といった能力は生まれつき備わったものと考えられがちだが、習慣に培われた経験によって、場面や状況に応じて変化する可能性がある」と述べ、今後は、子どもの満足遅延がどのように形成され、その個人差や発達差が将来的に重要な意味を持つのか長期的視点を持った研究が望まれるとした。

 同成果は、京都大学大学院教育学研究科の齊藤智教授、東京大学大学院教育学研究科の柳岡開地(かいち)日本学術振興会特別研究員PD(現・大阪教育大学特任講師)、米・カリフォルニア大学デービス校のユウコ・ムナカタ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、心理学協会(元・米心理学会)が刊行する心理学全般を扱う学術誌「Psychological Science」に掲載された。

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