【独自】教員勤務実態調査を開始、給特法見直しへ第一歩 文科省

 教員の長時間勤務が社会的な問題となる中、文科省は8月から、全国の小中学校、高校を対象とした教員勤務実態調査を開始した。8月、10月、11月それぞれの連続する7日間の勤務実態を詳細に調べるもので、2016年度以来、6年ぶりの調査となる。今回の調査では前回は調査対象としなかった8月を加えており、学校の長期休業期間中を含め、教員の年間を通じた勤務実態の把握を目指す。国会の附帯決議では、今回の調査結果を受け、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の「抜本的な見直しに向けた検討」を行うよう求めており、教員の長時間勤務の要因ともされる給特法の見直し作業の第一歩と位置付けられている。

 (教育新聞編集委員 佐野領)

働き方改革の取り組みを詳細に調査

 今回の調査は、対象となった学校に、管理職が回答する学校調査と、その学校に所属する教員が回答する教員調査を実施する。これにより、各学校の取り組みとそれに対する教員の勤務実態を一体的に把握することを狙っている。調査期間は8月、10月、11月のうち連続する7日間で、小学校が3回合計で1200校、教員3万2000人、中学校が同じく1200校、教員3万5000人、高校が同じく300校、教員1万4000人を対象としている。

 調査結果がまとまる時期は未定という。16年度に行われた前回調査では、速報値が翌年4月末、確定値を含めた最終報告がまとまったのは翌々年3月末だったので、それと同様のスケジュールならば、今回は速報値が23年4月ごろ、最終報告が24年3月ごろになるとみられる。回答は全てウェブ経由で行われる。前回はマークシート方式だった。

 学校調査では、年間総授業時数や雇用形態別の教職員数と1週間の合計勤務時間、スタッフの人数と1週間の合計勤務時間、設置している部活動の数、部活動指導員の人数と合計の勤務時間、部活動について教員が単独で指導・引率している合計時間、ICT活用のサポート体制、出退勤時間の管理方法、勤務時間の電子化などの基本情報を質問。

 今回調査の特徴として、学校の働き方改革について、前回調査よりも詳細に聞いている。具体的な取り組みを複数回答で選ぶようになっており、登下校時の地域との連携や、給食費など学校徴収金方法、地域人材との連絡調整、調査・統計への回答、児童生徒の休み時間における対応、校内清掃、部活動、給食時の対応などについて外部人材に委託できているかどうか、授業準備、学習評価や成績処理の補助的業務について支援スタッフの参画を図っているかどうかなど、質問項目は多岐にわたる。

 教員調査では、所持している免許状や教職歴、学級担任かどうか、校務分掌や1週間の授業コマ数、育児や介護の状況など基本情報を聞いた上で、前回調査とほぼ同じ質問項目で、1週間の業務記録を30分刻みで報告することを求めている。

 回答されたデータの集計では、教員の業務記録を前回調査と比較し、学校の働き方改革によって教員の長時間勤務がどの程度変化したのかを検証する。16年度に行われた前回調査では、教員の平日1日当たりの学内勤務時間は小学校で11時間15分、中学校は11時間32分で、06年度に行われた前々回調査よりも小学校で43分増、中学校で32分増となっており、10年間で教員の多忙化が一段と進んだことが明らかになった。前回調査以降の6年間には、学校の働き方改革の重要性が強調される一方、教員採用倍率の低下に象徴される「教員不足」も進んでおり、結果が注目される。

 また、最終的な調査結果では、教員の業務記録を学校調査に盛り込んだ働き方改革の各項目とクロス集計を行い、教員の長時間勤務の改善に効果のある働き方改革の項目を探り出すことも目指している。

 今回の調査では、8月を調査対象とすることも特色の一つ。16年度の前回は調査対象としなかったが、06年度の前々回では8月も実施しており、16年ぶりの調査となる。その狙いについて、文科省では「教員の勤務には長期休業があるところが普通の地方公務員とは大きく異なる。学校の授業はなくても、教員は研修とか教材研究をしているので、それも含めて、教員の年間を通じた勤務実態を把握したい」(初等中等教育局財務課)と説明している。

 今年5月に内田良・名古屋大学大学院教授らがまとめた教員アンケート調査によると、学内の勤務時間数を正確に申告するかとの質問に、土日の場合には小学校教員の43.0%、中学校教員の27.6%が「正確に申告しない」と答えた。また、上司から書類上の勤務時間を書き換えるように求められた経験のある教員が、小中学校を合わせて全体の16.6%を占めた。勤務時間管理への認識が甘い学校現場の実態があることについて、同省では「ちゃんと正しいことを書いてほしい。今回はウェブ調査で、PCやスマホから直接回答できる。回答内容を事前に管理職や教育委員会が見ることは一切ない。文科省からどの学校の誰がどう答えたか校長や教育委員会にフィードバックすることはないし、回答が開示されることも回答者が特定されることもない」(同課)と話している。

法改正へ 長い長いプロセスの始まり

 今回の教員勤務実態調査の大きな意味は、この調査結果が給特法の見直しに向けた法改正論議のスタートラインとして設定されていることだ。中教審が19年1月にまとめた答申「令和答申」で、16年度の前回調査と比較できる形で「3年後を目途に勤務実態の調査を行うべき」とされ、19年12月に臨時国会で変形労働時間制の導入を可能とした給特法改正案が成立したときには、附帯決議で「3年後を目途に教育職員の勤務実態調査を行った上で、給特法その他の規定について抜本的な見直しに向けた検討を加え、その結果に基づき所要の措置を講ずること」と議決されている。

給特法見直しに向けたスケジュール

 今回の調査結果がまとまる時期は未定とされるが、16年度の前回調査の日程を踏襲すれば、速報値が23年4月ごろ、最終報告が24年3月ごろになるとみられる。その後の給特法見直しに向けたスケジュールについては、何も確定したものはない。ただ、次に給特法を抜本的に見直すとすれば、臨時国会ではなく、政府予算案が審議される通常国会が法改正の舞台になるとみられる。

 給特法の抜本的な見直しが必要とされる背景には、給特法が「公立学校の教員はどこまでが職務であるのか切り分けがたいという教員の職務の特殊性」を理由に、月額給与の4%を「教職調整額」として支払う代わりに、超過勤務に対する残業代を支払わないことなどを定めていることから、学校現場の勤務時間管理があいまいになり、それが当たり前のように教員が長時間労働を続ける実態につながった、との見方が広がっていることがある。これを是正するためには、文科省が予算要求を行って政府予算案に必要な措置を盛り込み、予算と合わせて審議する予算関連法案として、給特法の改正案あるいは廃止案の国会成立を図るのが常識的な見方だろう。

 今回の調査結果の速報値が23年4月末にまとまるとすれば、そのころから政府や与党でさまざまな議論が本格化し、政府の予算編成の方向性を示す「骨太の方針」の議論を経て、文科省が23年8月末の予算要求に必要な措置を盛り込み、12月末に政府予算案が決定。24年1月に始まる通常国会で予算案とともに給特法の改廃を巡る法案の成立を図るというスケジュールが浮かんでくる。

 もし仮に、長時間勤務が常態化している教員の残業代をちゃんと支払った場合、いくらくらいの負担になるのか。これについて、今年4月6日の衆議院文部科学委員会で、文科省の伯井美徳初等中等教育局長は「現状の勤務実態をもって直ちに教員の時間外勤務の給与上の評価を行うことは困難」と前置きした上で、16年度の前回調査を基に過去の中教審で当時の担当課長が説明した推計について答弁している。それによると、月額給与に対する残業代を「16年度の教員勤務実態調査の結果などを基に推計すると、小学校は30%、中学校は40%に相当する」として、「(義務教育費国庫負担金として3分の1を負担する)国庫ベースで3000億円、国と地方を合わせると9000億円を超える金額が必要」という。

 国の予算で3000億円という金額がどのくらい大きいのかというと、例えば、大学や専門学校などへ進学・就学する低所得世帯の学生に、授業料の減免と給付型奨学金の支給を行っている高等教育の修学支援新制度は、22年度予算に5196億円を計上している。高等教育の修学支援新制度は、制度開始から2年目となる21年度に31万9000人への支援を行い、住民税非課税世帯の進学率は54.3%となり、制度開始前に比べ、13.9ポイント増えるという成果を上げた。この制度の財源となったのは、消費税増税だ。政府与党はいま、この制度の中間所得層への拡充に取り組もうとしている。限られた予算の優先順位を考える中で、財源問題一つをとっても、給特法の見直しが容易な議論ではないことが分かるだろう。

 今回の教員勤務実態調査の開始によって、最初の一歩を踏み出した給特法の見直しだが、これは法改正に向けた長い長いプロセスの始まりでもある。

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