主体性ラグビーで花園へ 部活改革の旗手、静岡聖光

実践によるシミュレーションを重ねる

雨上がりのグラウンドには、緊張感が張り詰めていた。静岡市の静岡聖光学院中学校・高校(岡村壽夫校長、全校生徒437人)は、今年度の第98回全国高校ラグビー大会に静岡県代表として出場。年末年始にかけてラグビーの聖地・花園で戦う。同校ラグビー部は週に3回、各1時間という少ない練習時間の中で優れた実績を残しているだけでなく、今年は部員自らが「部活動サミット」を開催するなど、部活動改革の旗手としても知られる。

■主体的なチームづくり

取材に訪れたのは、全国大会を目前に佐々木陽平監督が練習を見る最後の日だった。ちょうどテスト期間中ということもあり、練習に参加していたのはレギュラー選手のみ。

監督が選手らを集め、モニターに1回戦の対戦相手のプレーを映し出した。佐々木監督は相手の戦法を簡単に解説すると、「相手のこの動きに対して、どうするか」と選手に投げ掛けた。選手らは対応策を次々と挙げ、速やかに作戦を立てた。「では、その動きを確認しよう」という監督の合図で、早速、実践形式でのフォーメーションを確認する。

その後、今度は選手同士が円陣を作り、トライされた直後に与えられる作戦タイムと同じ90秒間で改善点を話し合った。このとき、フィックスリーダーと呼ばれる部員が課題となるポイントを一つに絞り、その対策をまとめ上げていく。こうすることで、実践での対応力を高めるのだ。限られた時間で課題を整理する。これを訓練するために、同校ラグビー部ではリーダーシップを指導するコーチが入っている。

練習では実践形式を重視し、基礎練習や体力づくりに時間を費やすことはほとんどない。その代わり、集合や給水の際に走ることでダッシュ練習を兼ねるなど、短い時間で効率の良い練習をすることが長年の伝統になっている。佐々木監督は「週3回、1時間しか練習がない中で、他と同じことをやっていたのでは全国に届かない」と強調する。

■主体性重視の部活動がタッグ
生徒が発案し、実現した部活動サミット(佐々木監督提供)

「静岡聖光学院に来て4年目。前任の北海道の公立高校では大声を張り上げて指導することもあったが、特にこの1年ほどは、あまり教え込まなくなった」と佐々木監督。そのきっかけこそが部活動サミットだったと言う。

今年の4月、3年生の部員たちが中心となり、部活動サミットを企画した。サッカー、バスケットボール、吹奏楽など、種目や分野の違う部活動の指導者や部員を同校に招き、効率の良い練習や部活動の在り方を語り合った。

その過程で佐々木監督も全国の優れた実践をしている学校を訪れ、「自分の指導方法を変えなければ」と刺激を受けた。

そもそも生徒が部活動サミットを発案したきっかけは、2006年に全国高校総合体育大会サッカー競技大会(インターハイ)に初出場で初優勝という快挙を達成した、当時、広島県立広島観音高校サッカー部監督の畑喜美夫教諭(現・広島県立安芸南高校サッカー部監督)の練習を、ラグビー部の中心メンバーが安芸南高校に行き1泊2日で見学したことだった。生徒たち自らがクラウドファンディングで資金を集め、参加校の候補リストも作成。佐々木監督が交渉のため各学校を訪れることになった。

部活動サミットを主催し、ラグビー部で部員の授業態度の向上や環境整備を担うオフ・ザ・グラウンド・リーダーを務める風間悠平さん(3年生)は「見学した安芸南高校サッカー部が練習前にする3S活動(整理、整頓、清掃)を実際に取り入れたら、練習の集中力が高まった。主体的に活動している部活動が情報共有する場をつくりたいと思った。この経験を生かして、大学で経営学を学び、将来はメディアなど、人を動かしたり、いいものを広めたりする仕事をしたい」と話し、その意義を振り返った。

主体性を重視した指導に切り替えた効果について、佐々木監督は「選手がプレーの選択に責任を持つようになった。戦術を教え込んでいた去年のチームは、県大会決勝で対戦相手がこちらを分析した上でディフェンスを工夫してきたことにうまく対処できないまま負けてしまった。今年のチームは相手の動きに対して話し合う習慣を身に付けているので、全国大会でも対応できると思う」と分析する。

また、日常の学校生活でも、ラグビー部の部員が学年ごとに毎朝集まり、今やるべきことや授業態度などを話し合う「朝礼」がいつの間にか始まっていたという。

部活動サミットがきっかけで指導方針を変えた佐々木監督

このような生徒の主体性を重視した練習を取り入れるには、どのような点に気を付けなければならないのか。

佐々木監督は「指導者にとっては我慢が求められる。他の学校や地域を見ると、もっと練習しなくていいのかと不安になる。しかし教師が管理すると、その枠の中でしか育たない。生徒が1日24時間の使い方をしっかりマネジメントできるようになれば、限られた時間で主体的に練習するようになる。3日間のオフをどう使うかを生徒に考えさせれば、教師の期待以上に伸びる」と強調した。