【新春インタビュー】馳浩文科相に聞く

〈訂正〉「【新春インタビュー】馳浩文科相に聞く」で、「エビデンスに着目」と「児童生徒を支援」の小見出しの順が誤っており、両者を入れ替えました。(1月8日)

pf20160101_011馳浩文科相は、教員、ロス五輪のレスリング日本代表、プロレスラー、国会議員と、異色の経歴をもつ。新年にあたり、次期学習指導要領や高大接続、教員へのメッセージなどについて、本紙インタビューに応えた。

やる気スイッチが重要

――次期学習指導要領への改訂に向けて具体的な審議がされているなか、重要性が指摘されているアクティブ・ラーニングについて。

学ぶ力とは何か。そのために環境整備をどのようにするべきか。この2つに集約されると思う。

学ぶ力とは「知識・教養」と、「思考力・表現力・判断力」などの認知的能力だ。そしてやる気スイッチが必要である。いかに成長し学校を卒業して就職するか。何の職業でもよい。自営業、農業、漁業、芸術家でもいい。自立し、生活するときに本当に必要な実力、それが学力ではないか。 さらに想像力や創造力、忍耐力といった人間力を身に付けるのが学校である。

そういう観点からアクティブ・ラーニングが着目されている。小学校ではアクティブ・ラーニングを展開している教員は多いと思う。担任が全教科を受けもつことで、子どもたちの向き不向きとか、能力や性格が把握できる。子どもの特質を踏まえたアクティブ・ラーニングを展開しやすいポジションにあるからだ。中・高校になると教科担任制となるので、全人格的な対応や得意不得意を把握しての授業の展開は難しいのではないかと思う。

したがって、小学校の教員にとってみれば、普段やっている当たり前の指導かもしれない。専門性を高めていく中高段階では、意識的にアクティブ・ラーニングの技術を身に付ける必要がある。そして評価の規準・基準は国が示し、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に生かしていく。

今は、アクティブ・ラーニングを総体的に学習指導要領に位置付けて、実践に移していく段階に入っている。

児童生徒を支援

――文科相就任前は、超党派議連で不登校対策に取り組んできましたが。

不登校の児童生徒に対する学習支援と経済的支援は一定の基準によってなされるべきであるというのが、私の終始変わらぬ信念だ。これは憲法第89条で私的な教育や福祉には公的資金を出すのが禁じられている。そこをいかに乗り越えるか。それには立法が必要である。その立法も残念ながら文科省は艱難辛苦の末、手を付けられなかった。ならば「議員立法でやるべきだ」として条文化までこぎ着けた。その最中で文科相になった。議員立法「多様な教育機会確保法(仮称)」は、各党持ち帰りになった。自民党内では現在、調整中である。それを踏まえて各党が対応すると思う。

もう一つは、さまざまな事情を抱えた児童生徒がいる。憲法第26条で、すべての国民は、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有すると明記されている以上は、公的な責任を果たすべきである。学校以外の場所で教育を受けざるを得ない児童生徒のためには、適応指導教室やフリースクールといった施設に着目するのではなく、児童生徒に着目した学習支援と経済的支援の在り方を考えるべきだ。立法化されれば、より具体性が増す。

成立させられなかった場合でも、こうした子どもの居場所で、本来学ぶことができる教育的価値観といった一定の支援ができるようなモデル事業を検討する。特に中学校夜間学級では、「一億総活躍社会」という政府の方針から考えると、安定的に運営を支えていく必要がある。都道府県と市区町村、教委が連携し、実態を踏まえた上で、最低でも1校の夜間中学校を各47都道府県に設置されるような議論を加速化させる必要がある。

エビデンスに着目

――大臣が「センスのないがく然とさせられる提案だ」と語った、財務省・財政審の打ち出した教職員定数削減の合理化計画について。

20160101_00財政審の意見書を踏まえた財務省の対応はセンスがない。これは一刀両断にして終わるものでない。文科省が財務省の立場を考えなければいけない時代となっている。財政健全化は子どもたちに借金を残してはいけないという意味がある。

しかし、よりよい教育環境を整え、提供するのが、よりよい社会人として送り出すのにつながる。経済成長に資する子どもたちを、基礎基盤である教育で支えるのが重要である。そう考えると、極端にいえば、1クラス45人でもよい。教員がよい授業をすれば、子どものたちの学力が伸びている事例もある。したがって、全国学力・学習状況調査などのビッグデータを活用してよりよい指導法を工夫する必要がある。総体的なエビデンスに基づく教育成果に着目していかないといけない。

これは教員の資質向上にも関連する。養成から採用までの段階を踏まえ、初任者研修や各種教員研修、免許更新制など教員の資質向上に関わる政策を横串で貫き、理念に基づいて一体的に行うべきである。それを踏まえて戦略的な教職員の定数の改善を練り上げていく。

特に着目するのは「義務標準法」の改正である。今後、基礎と加配定数の在り方について、見直しが必要ではないかと思っている。現在、義家弘介副大臣の下でタスクフォースを設け、議論している。教職員や地域の支援、専門家人材の採用など「チーム学校」の考えで、教職員の体制をどのようにしたらいいのか。議論を踏まえた上で、法改正に取り組む必要がある。

人口減少社会の影響で、子どもやクラスの数も減る。それに応じて機械的に減らすべきだとの議論には疑問がある。同時に財務省の立場に立てば、限られた財源で、教職員の人件費を賄う以上は教職員にもがんばってもらいたい。それを支える処遇改善も考えないといけない。

国際的相互理解が重要

――就任会見では、高大接続改革について「少し急ぎすぎたかな」と。

下村博文前文科相が、改革工程表を作成している。その通りに進めていくが、具体案を示してから、賛同や異論をパブリックコメントなどを通じて現場などからさまざまな声を聞く。それを慎重にやるという意味だ。全ての意見をもらい、よりよい具体的な作問や、スケジューリングを組んでいきた。

――教育再生実行会議が検討課題として挙げた「情報化時代に求められる『多様な個性が長所として肯定され、生かされる教育』への転換」について。

まずは肯定的な意見を言いたい。わが国の義務教育は素晴らしい。寺子屋教育という言い方で、輸出したいくらいだ。ヨーロッパに目を向ければ、近年、ホームグロウン・テロリズムの脅威にさらされている。この問題は深刻だ。自分の国に育った若者に、移民問題や貧困問題といった不満が募り、テロリストになっていく。それは教育格差となり、自分の居場所を求めてISIL(イスラム国)のような集団に染められていく。

そうならないためには、国際的な相互理解が大きな役割を果たす。そういう事案を勉強する必要がある。日本の置かれている平和で安全な環境や日本の義務教育が優れている状況を、改めて理解するべきだ。その上で、わが国も同様に、貧困格差が教育格差につながっている事実を認識し、救い上げていくような議論を教育再生実行会議でやっていきたい。

――教員経験のある文科相として、教員に向けてメッセージを。

とにかく家族を大事にしてほしい。多忙のなかで限られた時間ではあろうが、教員の生きる力のモチベーションは、そこから生まれると思う。教員は自己犠牲の思いが強い。クラスの子どもたちや部活動のためにがんばっている。

まずは、自分の妻や子どもや親のために、一生懸命に仕事をしているとの原点を忘れないでほしい。学校を最優先にしてしまうと、家族との時間が無くなる。最悪の場合は過労死もあるほど多忙を極めているのが教員の仕事だ。教員としての使命感をもって教育に携わってほしい。同時に、家族に対する使命もある。

教員をサポートするために、あらゆる努力を行うのが文科省の仕事だと思っている。それを引っ張っていくのが文科相の役割だ。

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