奨学金問題 逸脱せず本来の趣旨徹底を

安倍首相が提唱した「一億総活躍社会」の影響を受けてか、自治体による奨学金創設の動きが高まっている。ここでは2つの事例を示し、奨学金のあるべき姿を検証したい。

1つは、福岡県大川市奨学会(会長・鳩山二郎市長)の動きで、大学・短大に進学予定の生徒を対象に、30万円を無利息で貸与する奨学金を創設した。卒業後、1年以内に市内に居住し、継続して3年間住み続ければ返還を全額免除するシステムだ。

この制度は、若者の定住促進がねらい。卒業後に地元に残るのを返還免除とした奨学金の創設は、県内で初めて。対象は今年度に大学・短大に進学予定の市内の生徒で、保護者(父母など)が1年以上市内に居住し、前年の世帯収入が基準以下(2人世帯で325万5330円以下など)であることが条件。募集人数は30人程度。

同市にはこれまで、高校進学者を対象にした奨学金はあったが、短大・大学進学者については未整備だった。貸与額の30万円は、大学の入学金を想定している。

もう1つは、一昨年11月に、「難関大の合格者に100万円の奨励金を支給する」と決めた鹿児島県伊佐市(隈元新・市長)。市内の県立大口高校に入学者を集めるために導入した制度で、市議会の賛成多数で決めたものだ。

同市では、大口高校の志願者減の最大の理由を大学進学実績の低下と捉えた。東大合格者は平成15年度に1人出て、それ以降はゼロ。九大の合格者も平成8年度を最後に出ていない。進学実績を伸ばすために「インパクトがある支援策が必要」とひねり出した対策が、難関大合格者への奨励金だった。

予算規模は5年間で5千万円。東大、京大、九大など旧7帝大と、それに準じる国公立大の医学部医学科など難関学部、早慶など難関私大の合格者には100万円、それ以外の国公立大や、準じる私大の合格者に30万円を交付する。

この決定に各方面から「お金で釣る教育は間違い」などと批判的な声が殺到。教育評論家の尾木直樹氏は自身のブログで「100万円は奨学金制度とは似て非なるもの。奨学金は学びへのサポート。賞金ほしさに進学先を決めるのは間違い。その後の学びのモチベーションを保持できない」などと批判している。

これに対し、「尾木氏の意見は理想論にすぎない。学生にとっては、100万円の奨学金が支給されれば、入学金や授業料に充てられるし、親を少しでも楽にしてあげられる。入学後のアルバイトの時間も抑えることができる。大変ありがたい制度だ」と歓迎する声も出ているとか。

奨学金制度は「教育費負担の軽減」の観点から捉える必要がある。具体的な軽減策としては、奨学金制度の適応に大きな比重が置かれ、成果を上げている。その観点からも、同制度の拡充は評価すべきである。

問題は、その中身である。その本来の趣旨は、「奨学金とは、進学したいと考えている学生や進学の能力がある学生が、主に家庭の経済的な理由から進学・修学をあきらめることのないよう、民間団体・企業・大学・自治体などが主体となり、進学・修学に必要な金額の全額ないし一部を、学生本人に貸し付ける(あるいは給付する)ことによって支援するもの」とある。

この趣旨からすれば、福岡県大川市奨学会の取り組みは適合しているが、鹿児島県伊佐市の場合は、大きく逸脱しており、廃止を含めて再考することを提案したい。

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