「教育の強靱化に向けて」 深い学び指導できる教員に期待

5月10日に馳文科相から出されたメッセージ「教育の強靱化に向けて」は、現在改訂作業が行われている次期学習指導要領への方向性や教職員定数の改善、教員の養成・採用・研修の一体改革、学校が心理や福祉等の専門家と連携・分担する新たな体制「チーム学校」の実現、コミュニティ・スクールの推進など「地域とともにある学校」への転換を文科大臣として表明したものであった。

これらは、すでに公表されている中教審の各答申内容をポイント的に述べた範囲のものであり確認事項に過ぎないが、次期学習指導要領に向けた改訂のポイントについて述べた箇所に注目が集まったようだ。

それは、メッセージの中の「学習指導要領改訂のポイント」として示された3つのポイントのうちの第一の方向性だ。「『ゆとり教育』か『詰め込み教育』かといった、二項対立的な議論には戻らない。知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育むという基本を踏襲し、学習内容の削減を行うことはしない」といった箇所である。

振り返れば、戦後の教育界はアメリカ教育視察団や東西冷戦の影響下にさらされ、学習指導要領の内容も常にイデオロギーやその時の政治・社会状況と決して無関係ではなかった。例えば、前述のメッセージに関連する「経験主義」か「系統主義」かの議論のほか、学習指導要領の法的位置付けも曖昧で、法廷でその法的拘束力の有無が争われた歴史もある。学校現場も改訂のたびに指導法や教材作成等での混乱がたびたびあった。したがって、少なくとも平成10年に告示された学習指導要領までの改訂の歴史は、まさに前述の学習指導要領改訂のポイントで馳文科相が指摘した「二項対立」の歴史そのものであったといえる。

こうした状況を変えたのが平成18年12月の教育基本法改正であり、その翌年の学校教育法等の教育関連法の改正である。これにより、学校教育や各教科等の目標、学力の定義、学校・家庭・社会教育の各役割などが法令に明記され、まさに「地に足のついた」教育の推進が図られる基盤が整ったといわれている。

こうして改訂された平成20年の学習指導要領について、学力に関していえば、PISAなどの国際学力調査や国の学力・学習状況調査で、わが国の子どもたちの学力が世界のトップレベルにあるのが証明されたことは記憶に新しい。こうした「お墨付き」のある現行の学習指導要領を大幅に改訂する必然性はどこにも見いだせないと判断しての今回の大臣メッセージではないのか。そして、冒頭に述べたこれまで公表した中教審各答申の実現に向けての同省の意欲の表れではないかとも受け止められる。

学習指導要領は、10年に一度改訂作業を行っているが、子どもや教師にとって、指導内容や指導方法が10年ごとに大幅に変わる状況は決して好ましいとは考えられていない。現行のよさは大臣がいうように「知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育む」点にある。むしろ課題は、「ゆとり教育」のときにも指摘されたが、子どもの発言を促したり気付いていない点を提示したりするなど学びに必要な指導や環境を設定できる教員がまだ多くないという点だ。そういう意味で、知識と思考力のバランスのとれた指導は高校・大学等の高等教育段階も含めた第2ステージに向かうべきであろう。

今後は「深い学び」を指導できる教員の養成・育成について、国や都道府県教委に大きな期待を寄せたい。

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