子どもの心のケア 東日本大震災後の私立校研修

東日本大震災から5年目に、常識を覆す連鎖地震が熊本一帯を襲った。阪神淡路大震災以降、新潟中越地震など全国的に大地震の発生が増えた。震災で子どもたちが負う恐怖や不安の傷跡を癒す「心のケア」に、国の教育現場での本格的な取り組みが必要となった。大地震は、子どもに大きなストレスを与える。

阪神淡路大震災(平成7年)では、小・中・高校の児童生徒の「心のケア」が問題化した。心のケアをする時期は震災後の1年間が重要で、子どもたちのその後の発達に大きな影響を及ぼす。中には5年後、10年後に影響が現れた事例もある。

東日本大震災の被災県では、子どもたちの心のケアが重要な課題となっている。文科省初中局は、昨年度の復興教育支援事業に、江戸川大学(市村佑一学長)の「福島県と周辺県の私立学校の教職員」を対象とした「児童・生徒の心のケアを支える学校支援事業」を採択した。

大震災の激甚な被害地域には、私立の小・中・高校が岩手、宮城、福島3県に42校、茨城県に22校ある。私立校では廃校したり、児童生徒の減少に苦しんだりしたところもある。専門のカウンセラーや教員を配置する学校は少なく、支援が求められている。

同学は同事業の運営委員会(事業統括・山路進・准教授ら委員兼講師10人)を編成し、これら4県の私立55校にアンケートを行い、さらに9校を直接訪問して、主に教員を対象とする「心のケア校内研修会」を1年間実施。年度末に報告書をまとめた。

東日本大震災は、巨大津波や原発事故まで伴った。大人と違い、子どもたちは恐ろしい体験の苦悩を心に秘めやすい。時間が経ってからPTSD(心的外傷後ストレス障害)なども現れる。

「心のケア校内研修会」では、(1)カウンセリングと学校教育相談(2)学校の危機管理とリスク対応(3)登校時の学校安全教室の3テーマに取り組んだ。

(1)のカウンセリングでは、東洋大学京北幼稚園の川合正園長が、子どもたちに接する際、初対面時の緊張や不安からくる硬さを解かす「アイスブレイク」手法を勧めた。これは、ひとの気持ちを和ませ、コミュニケーションを取りやすくし、やる気を引き出すのによい。同園長は、女子マラソンの有名3選手を育てた小出指導法を引き合いに、個人の性格に合った指導をし、その能力を引き出して伸ばした実例を挙げた。

(2)の学校の危機管理では、堀切忠和弁護士が、「法律問題、議論、クレームに弱い学校」を取り上げた。同氏の「小さな危険と大きな安全」には教員から、「危ないからやめようと、すべての危険を取り除くのではなく、教員がコントロールできる範囲の危険は、いろいろな経験の少ない今の時代だからこそ必要だ」との感想が寄せられている。

社会には震災だけでなく、交通事故や防犯など危険があふれている。(3)の登校時の学校安全教室では、NPO日本ガーディアン・エンジェルスの若い会員と同学の学生たちが、福島市の小学校1~4年生、担任教員らと歌やゲームにも興じ、震災前の楽しい学校生活を取り戻した。児童らは五器官を使って、「気づく(目・耳)「逃げる(足・手)」「知らせる(声)」「あきらめない」といった、危険から逃れる実地訓練もした。

(公財)東京都私学財団の大森隆實理事は「教科書はあくまで教材の一つであり、教材化は、各教員の工夫に任せられている」と、人間力を取り込んだ、この学校安全教室を評価している。参考になる取り組みばかりだ。