保健授業の未履修問題 学校への不信感が危惧される

先日、東京都東村山市の市立中学校で、2年余りにわたり保健の授業を実施していなかったことが判明し、当該校の校長と市の教委幹部が謝罪会見を開いた。
概要は、保健体育科の保健分野で、本来は中学校3年間で48単位時間を使い教えなければならない内容を、少なくとも2年余り、教員によっては10年間、一度も実施していなかったというものである。

学習指導要領では、1年生で思春期の生殖機能の発達や性に関する適切な態度、ストレスとの向き合い方など。2年生で交通事故や自然災害の要因を知り、身を守る方法や心肺蘇生の応急手当など。3年生で生活習慣病予防や喫煙・飲酒・薬物乱用が健康を損なう原因になるなどを教える。

いずれも中学生にとっては身近で重要な問題を扱っている。自分で自分を守る「生活の知恵」が多くある内容である。実際に、総合的な学習と連動させ、警察署などと連携して危険ドラッグに関する授業を行ったり、消防署の指導でAEDを使った救命救急の練習を行ったりするなど、中学生に、より実践的な力を身に付けさせようとする事例も数多くみられる。「実施しなくともよい」内容では決してないはずだ。
学習指導要領で定められた内容を実施しない、いわゆる未履修問題は過去にもあった。記憶に新しいのは、平成18年、富山県の県立高校で発覚し、全国に問題が波及した地理歴史科の世界史や情報科を中心とした必履修科目未履修問題だ。

多くの学校では、授業をやらなかった時間分を他科目や学習に振り替え、受験対策などに使っていたが、問題発覚後は、放課後などに補習を行うといった対応で、一時期、生徒・保護者に多くの混乱や学校への不信感を招いた問題であった。これは、当時の生徒の卒業認定にもかかわる問題ともなり、文科省だけでなく総理官邸も巻き込み、結局、レポート提出などをもって単位認定・卒業認定をするといった超法規的措置と呼ばれる特別救済措置が行われた。

このたびの問題は、学習指導要領を順守すべき立場にある公立中学校で発生した点が特徴である。学校が荒れていたからという理由を優先して、長らく保健の授業をやらない状態を歴代校長を含め、学校ぐるみで放置していたのである。

校長は通常、教員による学習指導の状況を把握し指導助言するために、授業を年間数回にわたり観察する。そこには当然、授業の内容や指導が、学習指導要領に定められた内容に則しているか、学校で定めた学習計画に沿って行われているかなど、教育課程の適正な履行を点検する意味も含まれている。また校長は週に1回、教員が持っている週ごとの授業計画・実施・評価簿である週案簿を点検し、必要な指導助言を行う。それを怠るどころか、歴代にわたり知っていて黙認したという事態は、もはや教育者としてのモラルを自ら放棄したと言わざるを得ない。
これにより、当該校の生徒や保護者の学校・教員に対する不信感が生じた。学校が機能不全に陥る、そんな状況が発生しかねないと危惧される。

中教審ではいま、次期学習指導要領に向け、学校に対して「社会に開かれた教育課程」の必要性を説き、管理職による「カリキュラム・マネジメント」を大きな柱に据えている。校長など管理職は、保健未履修問題を己の問題としてとらえ、自校の教育課程が何のためにあり、管理職が何のために存在するのかを、授業の点検と評価によって、改めて考えるべきであろう。

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