原発風評いじめ考 信頼関係を不断の努力で

先日、文科省から平成27年度児童生徒の問題行動調査の結果が公表された。いじめ認知件数は22万4540件で、過去最高となった。25年に施行された「いじめ防止対策推進法」の効果がようやく表れてきたとの見方もあるが、その矢先、耳を疑うような報道がされた。東日本大震災に伴う福島原発事故により横浜市に自主避難して地元の小学校に転校した男子児童が、周囲の児童から「菌」を名前に付けられただけでなく、原発事故の賠償金までたかられるといったいじめを受け、不登校となった、現在中学校1年生男子生徒の報だ。

この件で耳を疑う点は大きく2点ある。1点は、福島原発事故に伴う数々の風評による被害住民へのいわれなき中傷がいまだに存在する点だ。もう1点は、この被害生徒が小学校時代、担任の教師や学校関係者にいじめの相談をしていたにもかかわらずほとんど対応してもらえなかった点だ。

1点目の原発事故に伴ういわれなき中傷については、学校だけでなく社会全体でも発生し、多くの事例が報告された。いわゆる風評被害である。平成24年には全国学校音楽コンクールで金賞等を獲得した福島県の各学校に対し「放射能を吸っている生徒を入賞させるのはおかしい」といった中傷記事がブログに載ったという中学校長会の報告もある。このときは、人権擁護委員連合会などの団体や関係機関が迅速に対応し、その後の類似事例はなくなったと聞いたが、そうではなかった。それを象徴するのが、このたびの横浜市の被害生徒が昨年書いたとされる手記である。「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった」。この問題の根が深いのをあらためて認識させられる。

もう1点の学校の対応については、同市の第三者委報告にあるように、まさに「教育の放棄に等しい」。被害生徒の手記の言葉を借りれば「いままでいろんなはなしをしてきたけどしんようしてくれなかった。だからがっこうはだいきらい」。学校関係者からすれば、ここまで子供を追い詰めた当該校の対応に首をかしげざるを得ない。

「いじめ防止対策推進法」には、いじめに対する措置をはじめ学校や教育委員会が行うべき方策が事細かく規定されている。当然、同法を受け、各教育委員会や学校でさらに細かで具体的な方策が立てられ実施されている。事件が起きた当該校でもおそらく、いじめに関する組織や対策が規定されているはずだ。それがこのような事態になった原因は、組織を動かし対策を実行に移せないでいる管理職や教職員、教育委員会が存在するということである。

いじめはどの学校でも発生しうるものである。それを踏まえ、学校はその早期発見・対応と未然防止に努める義務がある。早期発見にはきめ細かい調査も大切だが、もっとも重要なのは全ての生徒が教師を信頼しているといった土壌を築くことだ。生徒指導だけでなく学習指導でも生徒からの相談を定期的・恒常的に行っているか、わずかな生徒の心身の変化を家庭の協力も得ながら全校体制で発見・共有できる状態になっているか、いじめ発生時には教育委員会も含む組織的な対応が校長主導で行われる体制か、家庭には定期的に情報提供がされているかなど「学校が自分たちを見守ってくれる」という意識を子供に持たせることである。子供と教師の信頼関係づくりは不断の努力から生まれるものであり、教育の基本である。これをいま一度、教育関係者は自覚してほしい。

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