人工知能(AI)と教育

アメリカや日本でかまびすしくなった人工知能(AI)議論。これについて、次代を担う子供たちがAIを使う人間になるのか、逆に使われる人間になるのか、教育問題と関連付けて考えたい。

アメリカでは、保護主義貿易による国内産業の活性化と雇用増強を政策の柱の一つに据えるトランプ新政権がスタートした。

皮肉にも、政権移行の1カ月前に、オバマ政権(ホワイトハウス)自らが、AI普及による経済への影響を考察した報告書を発表し、18世紀半ばから19世紀までに雇用を一変させた産業革命以来の変化をもたらすと警鐘を鳴らしたのは一顧に値する。

AIはコンピュータやロボットなど、いろんなテクノロジーの複合体で、単一のテクノロジーではない。だから、その影響は徐々に、さまざまな職業へと波及する。同報告書は、AIの脅威を受ける割合を、職業全体の9%から47%と幅をとっている。

初めに影響を受けるのは自動化の容易な職業で、学歴の低い人たちほど仕事を失いかねず、新たな職業に転身する技能の習得が欠かせない。ホワイトハウスの報告書は、自動運転の分野にページを割き、アメリカの220万人から310万人の雇用に影響すると分析している。トランプ新政権は、一方で雇用を増やしても、他方でAIの普及で雇用が減るという、自家撞着のジレンマを抱える。

日本はどうか。人口の減少と労働力の不足を、AIやロボットなどを活用して補う時期が迫りつつある。野村総合研究所と英オックスフォード大学が共同研究で、それぞれ国内601種類の職業について、10~20年後にAIやロボットなどが取って代わる確率を試算し、日本では2030年頃、労働人口の49%が代替可能という予測がすでに出ている。アメリカと同様に、特別の知識や技能が要らない職業の人たちは、やがて職を奪われそうだ。

囲碁のトップ級棋士に勝ったように、AIは、暗記はもとより、データの分析や秩序的、体系的な処理が得意だ。どこまでその能力の開発が進んだのか。人間は、うかうかしていれなくなった。

国立情報学研究所などが開発した「東(とう)ロボくん」という愛称のAIの能力には目を見張る。2011年から5年間で、名の知れた私大に合格する学力レベルに達している。だが、まだ非常に苦手な分野がある。長い文章の文脈を理解して読み解く力である。私大には合格できても、東大はやはり難関で、東大受験に関してはひとまず凍結となった。長文読解がたいへん不得意だとしても、東ロボくんよりも読解力の劣る中・高生はたくさんいる。

読解力といえば、OECDが、72カ国・地域の15歳を対象に実施した、2015年「国際学習到達度調査(PISA)」で、日本は前回の4位から8位に順位を下げている。スマートフォンやSNSなどの普及で断片的な短文とスポット画像に慣れ、新聞や本を敬遠する読解力の低下が指摘されている。

AIが読解力を身に付けるには、人間の脳の神経回路に似た多層的な回路を作り、ディープラーニング(深層学習)をさせる必要がある。AIはもっと人間に近づく。同研究所の新井紀子教授は、次代を担う子供たちが、AIを使う側になるか、使われるかは教育にかかっていると言う。

AIを作ったのは私たち人間だ。AIも子供たちも、ともに読解力とディープラーニングを磨かなければならないというのは、何とも皮肉な現象ではある。

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