「教育無償化」は税のムダ使いか 評価したい個別支援の政策

「教育無償化」問題の扱いを巡り、国会では、与野党間の対立状況が続いているが、この最中に、作家の橘玲氏による「教育無償化は税金のムダ使いだ」と題する提言(副題・「『子どものために』は偽善。教育関係者を利するだけ」)が文藝春秋3月特別号に掲載され、話題を呼んでいる。

橘氏は、「教育無償化で押さえておかなくてはならないのは、それが『教育関係者への補助金』だということだ」と述べた上で、「(教育は子どものためという)人的資本理論から導かれる合理的な政策は、(返済の必要な)奨学金制度であり、教育無償化ではない」と言い切る。

また、「教育無償化」の根拠とされるのは、ノーベル経済学賞を受賞した米経済学者のジェームズ・ヘックマンによる教育の投資効果を巡る研究だとした上で、「教育投資は社会的なリターンがあるが、それは5歳までの貧困層の幼児教育を無償化したケースでしか証明できていない」と指摘する。

その上で「ヘックマンの知見を日本に当てはめて政策として正当化できるのは、母子家庭など貧困層の子供たちへの支援だろう」と分析、「日本の母子家庭の平均年収は一般家庭の4割程度しかなく、そうした世帯に対する支援を手厚くすることは将来の納税者を増やすことになる」としている。

一方、日本の母子家庭の貧困率に言及、「先進国の中で群を抜いて高く、しかも就労率が極めて高いことが特徴だ」とし、「一人親世帯の就労率は、日本が85・4%で、女性が働くのが当たり前のデンマークやスウェーデンより高く、先進国では最高(米国、ドイツは70%弱、英国は50%)である」としている。

さらに、日本のシングルマザーのもう一つの特徴は、生活保護受給率が1・6%と際立って低いことで、「ドイツや英国の生活保護利用率は約10%、スウェーデンでも4・5%だから、こうした国では(いいか悪いかは別にして)母子家庭が生活保護で暮らすのは特別なことではない。

ところが日本では、『あそこは生活保護だ』といううわさがたつと子どもがいじめられるので、たとえ生活保護の受給資格があってもシングルマザーは、働こうとする。これが『高い就業率なのに最貧困』の理由になっている」と指摘している。

その上で、母子家庭への公的支援の必要性について言及、「母子家庭の母親は多くが20代から40代だから適切な支援があれば仕事をして収入を得、税金を納めることができる。子供は学校を卒業して働きはじめ、納税者になる。このような理由から欧米の研究では、母子家庭への公的支援には、プラスの投資効果があるとされている」としたあと、「だが、奇妙なことに、『リベラル』な教育関係者は、教育無償化を撤回して貧困家庭の子供への支援を充実させようという提言は、お気に召さないようだ。

自分たちの懐に入ってくるはずの税金が他のことに『流用』されてしまうからだというのは、もちろん私の邪推だろうが」と皮肉っている。

この提言は、「教育無償化」を材料に、「教育への税の投入がどこまで正当化できるか」を論じたもので、税金のムダ使いになる可能性のある「教育無償化」ではなく、貧困率が高い母子家庭への支援など、投資効果が期待できる個別支援に切り替えるべきだとしているもので説得力がある。

「教育無償化」問題は、政党間の政争の具に化そうとしている。各政党は、この提言に耳を傾け、政策論議に徹してもらいたい。