神戸市教委のいじめ隠蔽 夏休み前に組織の振り返りを

2016年に兵庫県神戸市垂水区において、市内の中学校3年生だった女子生徒が自殺した問題で、神戸市教委の首席指導主事らが同級生らへの聞き取り調査のメモがあったにもかかわらず、当時の校長にメモの存在の隠蔽(いんぺい)を指示していたことが分かった。メモの存在について当時の雪村教育長には報告されていたが、雪村氏はこの4月に新たに就任した長田教育長には引き継ぎをしなかった。

神戸市といえば、1995年の阪神淡路大震災、97年の神戸児童連続殺傷事件を契機に、98年から多感な中学生への「心の教育」として中学校2年生による職場体験学習「トライやる・ウィーク」を現在まで積極的に推し進めてきた自治体である。全国から注目された同事業は視察団も多く訪れ、神戸市は受け入れ先として中核的な存在であった。当時の同市教委が作成した資料には、体験した生徒の感想文や、受け入れた事業所、生徒の保護者からの感謝の言葉が多数掲載されており、まさに子供の教育と市の復興を地域と学校、家庭が一体となって行っている情熱が感じられた。それがこの体たらくである。
教育委員会の隠蔽事案は数多く起きている。よく知られるのが、11年に滋賀県大津市で起きたいじめによる中学生の自殺である。市教委がいじめに関する調査結果等を市長に報告せず、市長から「教委には隠蔽体質がある」と糾弾され、これを受け国が「いじめ防止対策推進法」の策定、教委制度の改革を行う事態となった。

危機管理に怠慢で大きな事故を起こしやすい組織の特徴は、(1)「大したことにならないだろう」「よくあること」といった職場全体の危機意識の欠落(2)管理職の自己保身意識と部門内処理の横行(3)「何を言っても無駄」など問題を指摘しにくい職場風土――の3点だ。

神戸市教委の場合はどうであろう。文科省も職員を派遣し、関係者の懲戒処分の検討や組織体制の見直しをするよう異例の指導を行っている。

前述した「トライやる・ウィーク」事業の神戸市教委が作成した資料の中には、この事業の狙いの一つとして「人間としての在り方・生き方を改めて考えさせるとともに、社会生活上のルールや倫理観の育成、善悪の判断、自己責任の自覚や自律・自制の心の寛容など『心の教育』の充実を図ることの大切さを再認識させる」という一節がある。この事業を始めたころの先人が考え行ってきた気持ちを同市教委はもう一度振り返り、自殺した生徒の遺族への誠実な対応と、市民への信頼回復に努めてもらいたい。

組織の危機管理について、かつて東京電力福島原子力発電所事故調査検証委員会の委員長も務めた東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏(失敗学)は、組織を改善するためには「暗黙知の表出」しかないと指摘した。暗黙知とは、その分野に携わる人なら言葉で書かれたり言われたりしなくても当然持っている知識のこと。

組織改善には、誰がいけない、あのやり方がおかしいという前に、リーダー自らが「今のわれわれの実力はこの程度だ」と素直に認め、皆が気付かない雰囲気に気付いてそれを打ち破り、新しい段階に進むことが大切だとしている。

事故が多く発生するといわれる夏休みを控え、自分の所属する組織の振り返りは、神戸市教委だけでなく管理職であれば誰でも行っておかなければならない職務であり義務であろう。