Society 5.0に向けた人材育成 現場との温度差をどう埋めるか

中教審の教育課程部会は9月6日、今後の教育政策の方向性をまとめた報告書「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」について意見を交わした。各委員は報告書が示す内容の推進に賛同する一方、さまざまな課題を指摘した。

「Society 5.0」は、「IoT、ロボット、人工知能、ビッグデータ等の先進技術を活用することで、新たな価値を創出し、地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することのできる新たな時代」と定義されている。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会である。報告書ではこの新社会に対応しうる人材育成に向けて▽「公正に個別最適化された学び」を実現する多様な学習の機会と場の提供▽基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力を全ての児童生徒が習得▽文理分断からの脱却――の三つの方向性を示した。

この方向性に沿った施策を進めていくには当然財源が必要となる。先日発表された2019年度概算要求において、文科省は「Society 5.0に向けた人材育成」に37億8700万円を計上した。学校と企業が協働して行うEduTechの開発・実証事業に7億円、スーパーグローバルハイスクール事業の実績を生かし、高校生により高度な学びを提供する「ワールド・ワイド・ラーニングコンソーシアム」の創設に1億6700万円など複数の新規事業も盛り込み、その意気込みが伝わってくる。

ただ、学校現場の受け止め方とは温度差があるようにも思える。学校のコンピューター1台当たりの児童生徒数が5・6人(文科省調査、2017年度)という中で、先進的な取り組みを実践できる学校がどの程度あるのか。現状は大多数の学校が文科省の掲げる目標水準に達しておらず、自治体によっても大きな差が生じている。また、情報活用の知識・スキルを持った教員の育成も不可欠である。概算要求において当然これらも盛り込まれてはいるが、劇的な変化は期待できそうにない。現場の教員にとっては不安でしかないのではないか。

「Society 5.0」社会は子供たちのみならず、大人たち、学校教員にとっても未知の世界である。報告書でまとめた方針を具体策に落とし込み進めていくにしても、そのエビデンスは存在しない。これからつくっていくほかないのだ。冒頭の教育課程部会においても、委員からは「新しい教育をするには、国の財政支出を明確にすべきだ」「未知の分野が多く、現場教師の負担が大きすぎるのではないか」といった問題が提起された。

教員や学校に多くの負担を強いる従来のやり方では、この新しいチャレンジを成功に導くのは難しい。文科省はまず学校の人的・物的な環境整備に努め、現場が抱える問題や不安を軽減して温度差を縮めていく必要があるのではないか。

「Society 5.0」という未来を社会全体で育てていく考え方を持つことも重要だ。近年は豊富なメソッドを持つ民間企業と学校、自治体が連携した事業も増えつつあり、その成果も報告されている。実現すれば「教育の大変革」が想定されるだけに、文科省はそのかじ取りをしっかりと行ってほしい。