高校の道徳教育 人間理解や洞察力涵養を

高校学習指導要領の改訂に向けた審議が進められ、道徳教育に関連する教科の公民科については、新科目「公共」(仮称)の検討が行われている。昨年8月の中教審教育課程企画特別部会の「論点整理」によると、「主体的な社会参画に必要な力を、人間としての在り方生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目」としている。

翻って高校における道徳教育は、昭和30年代に小・中学校に「道徳の時間」が設置されるなどの動きの中で、社会科に倫理・社会が設置されたことで、科目としての位置付けが行われた。同時に、小・中学校と同様、道徳教育は学校の教育活動全体で扱うことが明確にされた。その後、平成元年の学習指導要領改訂で、高校における道徳教育は、その発達段階を踏まえ「人間としての在り方生き方に関する教育」として行うことが明確にされた。それに伴って「人間としての在り方生き方」の語句は、公民科現代社会および倫理、特別活動の目標に明記された。つまり、高校における道徳教育は、教育課程の構造上、学校の教育活動全体で行うとともに、公民科および特別活動が重要な役割を果たしてきた。

さらに、平成21年の高校学習指導要領の改訂で、道徳教育の全体計画を作成することが示された。なお、小・中学校の道徳教育については、平成27年3月に「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」に改められ、教育課程における位置付けが強化されている。

このような流れを受けて、今後、高校における道徳教育、即ち人間としての在り方生き方に関する教育を、どのように位置付けて実施するのか、これまでの取り組みの検証も踏まえて検討する必要がある。

一方、一部の都県では、道徳教育や人間としての在り方生き方に関わる教育を実施している例も見られる。茨城県は平成19年度から県立学校で、「道徳的価値や人間としての在り方生き方に関する自覚」を深めることなどをねらいとした「道徳」を県立高校で実施している。東京都は、平成28年度から「道徳性を養い、判断基準(価値観)を高めること」などを目標とした、人間としての在り方生き方に関する教科「人間と社会(仮称)」を全都立高校で実施予定としている。

高校段階の生徒は、かつての時代の青年像とは異なっている面もあるものの、共通しているのは、常に揺れ動きながら自己像を求め続ける点である。この時期に必要なのは、将来の生き方の基盤になるさまざまなものの見方や考え方に触れておくことである。また倫理的価値の観点から、生活や社会の出来事を考える訓練をしておくことも大切である。高校の時期の、深い思索と思考のヒントや視点が、卒業後の人生の中で生かされていく。

今後、新科目「公共」(仮称)の検討の中で「人間としての在り方生き方」についても検討されるものと考える。ただ、「公共」という枠の範囲に「人間として」の内容が収まりきるのか、この点についてもしっかりした吟味を求めたい。「人間としての在り方生き方」とは「公共」のようなやや社会的な側面にとどまらない性格をもっている。倫理的価値は、社会的課題に関する価値だけではなく、さまざまな場面における人の行為そのものに関わる価値の側面を持っている。ともすれば「主体的」や「判断」「選択」「参加」が強調されるが、それらの根底に位置付く人間性の理解や深い洞察力を培うことに配慮する観点が重要と考える。

関連記事