データを基に次の部活動を議論する 内田良准教授らが新著

今日の部活動問題にいち早く警鐘を鳴らしてきた教育社会学者の内田良准教授が編著者となり、これまでにない調査から部活動の実態を浮き彫りにした『部活動の社会学―学校の文化・教師の働き方―』が7月10日、岩波書店から刊行される。学校現場では、部活動ガイドラインや土日の地域移行などの改革が進む一方で、なかなか思うように変わらないという声もある。これからの部活動の姿をどう描いていけばいいのか。内田准教授に、データを基に部活動を議論する意義を聞いた。

部活動をデータで語る
――ここ数年、部活動を巡っては、大きな改革のうねりの中にありました。この本ができるまでを振り返って、いかがですか。

この調査は、22都道府県の約4000人の中学校教員の回答を基に分析しています。部活動に対する教員の意識や関わり方など、実態をここまで掘り下げた全国調査はこれまでなかったのではないでしょうか。

実は、この本が出る前に、同じ執筆陣で岩波書店から2018年12月に『調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える』というブックレットが出ています。これはいわば速報のようなもので、まずは出てきたデータを示したという感じです。

調査は17年11~12月に実施したものなので、調査研究としてはあり得ないくらいのスピードで出しました。それだけ、当時はガイドラインの策定など、部活動改革の議論が活発だったのです。

そして、改めて腰を据えて分析したのが、今回まとめた『部活動の社会学』です。ブックレットのときと違って、この本では部活動改革と学校の働き方改革の関連性をそこまで強く打ち出さず、部活動そのものを見つめることを全面的に強調したつもりです。

なぜなら、4年前はまだ、部活動を巡る問題はそれを批判する側と守る側の二項対立の状態でした。「学校の働き方改革」という側面を強調してやっと、教育界でこの部活動の問題を語れるような状況だったのです。

しかし、この間に議論が進み、部活動は教員の働き方の問題だけではなく、子どもの問題でもあることがクローズアップされるようになり、多くの教員が問題意識を持つようになりました。

だからこそ、今、部活動をデータで語ることが重要になっているのです。

単なる地域移行では部活動問題は解決しない
――各章の分析の視点がとてもユニークだと感じました。

この本では、まず、学習指導要領における部活動の位置付けや、新聞記事などからの部活動を巡る言説をたどり、部活動の問題は決して新しいものではなく、変遷しながらもずっと語られ続けてきたものであることを指摘しました。

その上で、全国調査を基に、どうして教員は部活動の指導にのめりこんでしまうのか、その過熱するメカニズムを明らかにしました。また、教員のジェンダーや家族構成による違いにスポットライトを当てたことも、新しい視点だと考えます。

さらに、部活動が勝利至上主義を生み出す背景にも切り込みました。小学生のうちに、どれくらいの子どもが地域でその競技を経験していたかや、「楽しむことが優先」と言いつつ「成績を向上させたい」という教員の本音、地域のSES(社会経済的背景)の影響を取り上げています。

最後には、私自身の専門である学校リスクとも関わりが深い、熱中症事案の分析も行いました。

これらの視点は、いずれも部活動が「そのまま」地域移行した場合、必ず付いて回る問題であると言えます。

――それはどういうことでしょうか。

地域移行の議論の問題点を指摘する内田准教授

部活動改革では、部活動指導員を導入したり、地域に移行したりする「外部の活用」こそが抜本的な解決の鍵であるかのように語られています。しかし、私は現行の部活動をそのまま外部に移すことには疑問を感じます。

例えば、外部の指導者が勝利至上主義を掲げてどんどん練習時間を増やすようなことをすれば、部活動は再び過熱することになります。学校内ですらも体罰や暴言などの問題はなかなか明るみに出ないのに、学校外になればそうした実態把握はますます困難になるでしょう。

民間委託によりビジネスとして責任の所在が明確になり、安全・安心な活動環境が確保されて、限られたリソースの中でできることをやるということになれば、過熱はある程度抑えられるかもしれません。一方で単に自治体が活動主体を学校から地域にスライドさせただけでは、部活動の課題はほとんど解決されないままとなるでしょう。

部活動を外部化することで、確かに教員の負担は減ることは期待できますが、子どもたちへのリスクはむしろ高まる可能性があるのです。部活動を巡る問題は、外部に移行しただけでは解決されないものも多くあるということです。

したがって、地域移行を進める上では、よりそうした観点を厳しく問うた上で、慎重に制度設計をしていかないといけないはずなのですが、そういった話があまり聞こえてこないのが気がかりです。

部活動の未来に向けて、今こそ何が必要か
――部活動改革の議論では、どんな問題があると考えていますか。

7月10日に発売される『部活動の社会学』(岩波書店提供)

教育界ではよく「子どものため」というフレーズが用いられてきました。しかし、この「子どものため」というフレーズこそ、その時代ごとに大人の都合のいいように使われてきたと言えます。

現在、そしてこれからの部活動改革でも、「子どものため」という聞こえのいい言葉でいきなり価値論争を始めるのではなく、まずはリアルに何が起きているか、現実を直視することが大切です。

そのためには、データで実態を見える化して、エビデンスに基づいた議論や施策を展開していかなければ、部活動の未来はありません。
部活動に教育的な価値があるのは、多くの人にとって異論のないことだと思います。

しかし、過熱によりリソースが枯渇しているのが部活動の現状です。肥大化してきた活動を縮減しない限り、誰も引き受け手がいないのは目に見えています。

この本が、これから部活動を変えていこうとしている地域や学校現場にとって、考える材料となるデータや視点をもたらす一冊になることを願っています。

【プロフィール】

内田良(うちだ・りょう) 名古屋大学准教授。専門は教育社会学。学校事故や教員の長時間労働について研究・発信を行う。主な著書に『教師のブラック残業』(学陽書房、共著)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)など。

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