(円卓)猫とのひととき

作家 渡辺眞子

 

昨年の夏、ある巡り合わせから、生後3週間の子猫2匹を預かることになった。数時間ごとの哺乳と、まだ自力では排泄できないために、おしりを刺激して促すことと、栄養をきちんと吸収して体重が増加しているか毎日確認しなければならないのとで、それなりの心構えが必要だ。

猫初心者の私は、身近に眺めることすら初めてながら、おっかなびっくりの日々がスタートした。

片手のひらにすっぽり収まるサイズの生きものが、ミルクをごくごく力強く飲む音は、いのちの音に聞こえた。真夜中すぎや、明け方の哺乳は、神聖な儀式のように感じられた。

時間ごとの世話が面倒だったり、休みたいと思ったりしたことは、ただの一度もなかった。

黒猫きょうだいは心身ともに健康に、順調に育ち、トイレを使い始め、離乳食を食べ、活発な動きが増えて、一丁前の猫らしくなった。

3カ月半が経ち、優しい家族のもとへ引き渡す準備に忙しい午後、子猫たちはことごとく邪魔をした。届かないはずの場所に飛び乗って物を落とし、普段は手を出さなかった物を散らかすなどの狼藉三昧。彼らを運ぶキャリーバッグに使い捨てカイロを入れておいたところ破いて中身を振り散らかし、片付ける私の背後で床に粗相をした。

それは、最初で最後の粗相だった。

子猫たちとの同居は楽しくて、朝の目覚めのあいさつから始まり、走って帰宅したとき騒いで歓迎してくれる姿と声は、人生のエールに思えた。だから、彼らの不在で心にも家にもぽっかり空間ができたみたいで、この上なく淋しかった。

猫がいない生活に慣れたころのことだ。引き出しを開けると、他の物の間に小さなフェルトボールがあった。それは彼らの一番お気に入りのおもちゃで、新しい家にも持たせようと、移動の出発ギリギリまで探しても見つからなかったのだ。

手芸用の小さなボールは羽のように軽く、両手で包むと、ほのかに温かい気がした。

冷たい路上で息絶えていたかもしれない2匹は今、永遠の住処を得て、これから家族にたくさんの笑顔をもたらせるだろう。私のことは早く忘れて、愛されただけ幸せになりなさい。私は君たちを、ずっと忘れない。

関連記事