(円卓)EU離脱と異文化共存

地球システム・倫理学会理事、文明論講座座長 清水良衞

 

私は、欧州諸国に移住した東欧や中東、アフリカからの人々の、移住先の各国での共存不調を眺めていて、英国のEU離脱に決した国民投票の結果に、さして驚かなかった。

特にそれを期待していたわけではなかったが、いずれはこんな事態になるのだろうと思っていた。
とはいえ、この現実が、国際社会に生じさせるであろう大きな変動は分かっていた。事態は英国に限った問題ではない。日本の対応も、極めて慎重を要する局面となっている。

EU(欧州連合)の前身といえるEC(欧州諸共同体)は、もとをただせば、石炭や鉄鋼資源のあるアルザス=ロレーヌ地方で繰り返された独仏間での資源の奪い合いに端を発している。その争いにばからしさを感じ、この地方を両国が共同管理しようとなった。そこから、欧州諸共同体が生まれ、欧州共同体(EC)へと発展し、欧州連合(EU)へとつながり、今日に至った。

組織の変化は時間とともに大きくなる。その管理機構が今日のように巨大化すると、官僚に牛耳られ、彼らの利益が優先され、規則は複雑化する。日本も他山の石としなければならない。

EU発展に伴う多様な変化は、文明史の視点からは異文化共存の難しさとしてすでに分かっていた。大きな変化はいずれ必ず来る。こうした見方の背景には、京都大学の根岸卓郎名誉教授の文明史的展望があった。同教授はこれを『環境論』(平成16年)と『文明興亡の宇宙法則』(19年)の中で示していた。そこには、遅かれ早かれ避けがたい、文化の衝突のあることが指摘されていた。

文化の違いによる民族対立で核となるのは、信仰に基づく宗教的信念であり、それが支えている生活文化といえるだろう。
英国にもあるテロの不安は、難民移住者が増加した欧州全域にある。そこで生じている就業差別や経済格差は、共住に関わる問題をさらに複雑にしていくだろう。人道主義や哲学や倫理観では解決不能なところまで来ているのである。日本が今後学ぶべき課題はたくさんある。
生活文化の争いが縮小していく期待はあるのか。私は残念だが悲観論に立つ。

それでも私たちは、少しでもよい方向に進むよう努力を怠ってはならない。その実現に近づく手立ては、教育であり、家庭での対話であると考える。

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