(円卓)食の危機管理と食育

東京都教職員研修センター東京教師養成塾教授
國分 重隆


先日、小学校3年生児童が、牛乳から食の大切さに迫っていく興味深い授業を見た。児童は、授業の導入で3種類の牛乳を試飲し、色、匂い、味の違いを比べた。驚いたのは、学級児童の約4分の3が、「これは、いつもの牛乳だね」と、給食の牛乳をすぐに当てたことだ。他の2種類の牛乳の風味特性も、ほぼ適切に捉えていた。

匂いや味に対する感覚は、12歳でピークを迎える。中でも舌にある五味を感じる味蕾(みらい)は、小学生時に急速に増える。まさに、その敏感さが実感できた。

もっと驚いたのは、味が違う訳を、児童が「産地」「牧場の施設や環境」「餌」「牛の種類、個体差」などの視点で予想したことだ。これらは風味の違いを特徴づける因子になる。この学年の教師は、優秀な栄養士とチームを組み食育を進めている。その成果の表れだ。

昨年、一部の地域で給食の牛乳の「異味異臭」騒ぎがあった。事の起こりは、普段と違う味への児童の敏感な反応だ。法的機関の検査の結果、品質や安全性に全く問題なし。当然である。なぜなら牛乳は、牧場で生まれ工場を経て消費者に届くまで、輸送も含め徹底した品質管理が行われる極めて安全な食品だからだ。「生乳」を何も混ぜずにそのままの状態で鮮度とおいしさを保ち、安全に製品にするまで、幾度も精密な検査が繰り返される。「薬臭い、ガソリン臭い」と言われたような、異物混入も到底あり得ない。食の「安全・安心」の模範事例として、家庭科や社会科でぜひ取り上げたい食品だ。

あの騒ぎの原因も、工場が契約している産地の数十件の牧場での集乳量バランスが、たまたま大きく変わったことによるものだ。酪農家は、おのおの餌にも飼い方にもこだわりがある。牛乳の味はそもそも牧場によって違うのだ。何より生きた牛から出る「生乳」に毎日同じ味などあり得ない。変わらない味に感じるのは、「風味」を大切にし、高度な技でブレンドする工場の努力のたまものだ。

最悪を想定して対応を考える教育現場の危機管理に異論はないが、命の源である食に対する大人の知識があまりに足りないのではないか。今や食育は児童を育てる大人にこそ何より必要だ。前述の小学校で、児童に同様の反応があっても「牛乳は生きているからだよ」で終わっているだろう。