(円卓)三だけ主義

東京都多摩市立青陵中学校長 千葉 正法

「三ない運動」なら知っているけれど、というベテランの先生方も、すでに少数派になってしまった。

では、「三だけ主義」という言葉をご存じの方はいらっしゃるだろうか。「今だけよければ」「金だけもうかれば」「自分だけよければ」という生き方や考え方を指す言葉で、数年前から有識者の間で言われているという。

ますます巧妙化する振り込め詐欺、企業の性能データの偽装や改ざん、果ては大学医学部入試まで。大人は何をしているのか、何のために仕事をしているのか、という子供たちからの問い掛けに、「そんな大人ばかりではないよ」と言っても説得力に欠けるようだ。

残念ながら、日本社会においてはすでにごくありふれた風潮とも思え、こうした話は枚挙にいとまがないけれど、その対極にあるのが、ESDやSDGsやその根底に流れる思想であろう。

しかし、社会の中にこれだけ「三だけ主義」が蔓延(まんえん)すると、時に生徒は大人を模倣して通り一遍のきれいごとを並べ課題解決を図ったふりをすることもある。夏休みの宿題がネット上で売買できる時代でもある。

だから、ユネスコスクールである本校では、実際にやってみることに重きを置き、学習成果としての実践と同等に課題設定の段階でも実践を経た課題把握を重視している。

企業や団体等もSDGsを掲げた経営に着手し、そのことを広報や資料で周知し、消費者にも働き掛ける動きが広がっている。

そうしたものを多く目にすればするほど、本当なのかと疑いたくなる。なぜならば、この社会がそんなに短時間に簡単にシフトできない状況に陥っていることは明白だからだ。課題に目を向ければ向けるほど、その深刻さと手ごわさに直面せざるを得ないはずである。

しかし、全ては始めの一歩から始まる。だからこそ、学校教育の世界でESDやSDGsを広く深く行き渡らせる必要がある。けれども、それが教員や子供たちにとって表面的な流行ものであったり、やらされたりしているものであったりしては決してならないと思う。

ゲルマニウムラジオからは、シンガー・ソングライター・NakamuraEmiの「Don’t」が、かすかな音で聞こえている。

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