学校の授業で用いられる主な教材は、教科用図書(教科書)であるが、児童生徒の学習状況や教師の意図に応じて、教科書以外にもさまざまな図書教材が活用されている。ここで、図書教材とは、いわゆるドリル教材やワーク教材、資料集など、教科書を補完したり、教科書の内容を深化させたりするために用いられるものである。これらに加えて、副読本、評価教材やテスト、各種プリント類などもある。
このような図書教材は、学習指導要領や教科書の内容に関する検討、学力論や学習論、そして評価の研究などを基盤として開発・編集され、全国の小・中学校に供給され、教育の機会均等確保のための重要な役目を果たすとともに、児童生徒の学力の保障に貢献してきた。
現在は、2019年以降進められてきた文部科学省のGIGAスクール構想によって学校現場に1人1台の端末や高速通信ネットワークが整備されるなか、学校教育におけるICT活用や教材のデジタル化、生成AIの活用の試みなども始まっている。このような状況下で、従来から現場に浸透してきた紙媒体の図書教材の有効性の評価の一方で、紙とデジタルの双方の強みを生かした教材の役割が一層重要になってきており、特色ある多様な図書教材が開発されている。
上記のように、学校現場で活用されている図書教材は、教科書を補完したり、教科書の内容を深化させたりするために用いられている。その具体的な役割は、図書教材の活用によって、児童生徒が自分のペースで学習を進めることができるようになることで個別最適な学びが可能になったり、児童生徒自身が学習成果を点検しながら自己評価して学習を進めたりできるよう工夫されたりしている。
例えば、ワーク教材のように、学習内容の修得を主たる狙いとする修得教材は、児童生徒の多様な学習状況に応じて自学自習が可能なように丁寧に編集されており、学校での利用に加え、家庭学習の充実にも力を発揮する。また、児童生徒の誤りやすい内容が意図的に配置されたり、問題解決の形をとった教科内容の学習を通して、学習方略も身に付くよう工夫されたりしている。
評価教材では、いわゆる基礎・基本の内容の定着を短い時間で確認できるよう、児童生徒自身による自己評価が可能なモジュールを設定するなど工夫されている。大切なのは、児童生徒の学習状況に即した利用場面の選択とタイミングの見極めである。
24年度から用いられる新しい小学校教科書では、全教科の全ての教科書に2次元コードが掲載されているという。図書教材についても、紙とデジタルの効果的な組み合わせや場面による選択の提案のほか、学校での学習と家庭学習との連携が図られ、紙とデジタルの両方の強みを生かす教材が開発されてきている。
例えば、図書教材に印刷された2次元コードから計算や漢字練習のアプリにアクセスしてドリル教材に取り組むと、正誤の判定が自動集計されて、簡単に自己評価できる図書教材がある。同様に、2次元コードから問題場面の動画や解説動画にアクセスして自学自習できる図書教材もある。さらに、デジタル化された歴史資料や地図を自由に拡大して調べたりできるようになっている資料集もある。
このように、ICT活用が進む学校現場において、紙とデジタルの双方の強みを生かした質の高い教材が開発されて、すでに供給されている。今後も、このような「ハイブリッド」の図書教材が主流になっていくとみられる。
このようなデジタル化の一方で、従来から現場に浸透してきた紙媒体の図書教材の有効性も再評価されている。デジタル化時代だからこそ、あえてタブレットやパソコンに向かう時間から切り離し、紙媒体で設計され内容がコンパクトに網羅された評価教材にシンプルに取り組むことの意義を語る教師も少なくない。
上述の通り、教師の学習指導と児童生徒の学習活動や家庭学習を支える上で極めて重要な役割を果たす一方で、図書教材には、教科書の検定制度のような公的な点検のシステムが存在しない。そこで、日本図書教材協会では、昭和40年代から「学校教材調査会」を立ち上げ、協会に加盟する各出版社の図書教材の内容や構成、編集上の特徴などを多面的に分析し、教材の質の保証、内容の充実・向上を図ってきた。特に、教科書の改訂時期には、改訂された学習指導要領や指導要録、それに基づく新教科書との整合性、さらに新しい学力論や指導・学習方法の改善、新時代の学校教育において期待される図書教材の役割などを考慮し、小・中学校別、教科別に調査研究を行っている。この調査研究による図書教材の質の向上も注目されるところである。