探究学習と情報活用能力の育成における学校図書館の役割 学校図書館と関わりの深い各方面の識者からの提言

学校図書館特集【協賛企画】2025
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 1人1台端末環境が整い、効果的な活用事例を積み重ねる次のステージに入った。学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」の実現には、探究学習と情報活用能力の育成は不可欠である。自ら課題を見つけ、情報を調べ、それが正しいことか否かを判断しながら学習していく上で、学校図書館が果たす役割は重要となる。そのような背景を踏まえ、「探究学習と情報活用能力の育成における学校図書館の役割」をテーマに、学校図書館と関わりの深い各方面の識者から意見を聞いた。

探究と情報活用の拠点としての学校図書館

文部科学省総合教育政策局地域学習推進課長 髙田 行紀

 大学に入学したとき、大学図書館の使い方を日本史の須崎先生の講義で詳しく説明していただいたことがありました。講義内容である「牧野伸顕日記の講読」を学生がきちんと予習できるよう、日記に出てくるトピックや関連図書の検索方法、近現代史の年表や人名録の在り処など、最初の講義1コマを丸々充てて、懇切丁寧な指導を受けるとともに、その場で司書を紹介していただいた記憶があります。

 このガイダンスのおかげで、日記が記録された当時の時代背景や人間関係を図書館で確認しながら講義に臨むことができ、初めて探究的な学びを実感することができました。卒論の作成をはじめとする学生生活全体の学びを充実するものにできたとも感じています。

 現在では、探究学習は大学入学前に教育課程の中で着実に実施されるとともに、人名やキーワードなどはウィキペディアやChatGPTなどで簡単に検索できる世の中になりました。図書館に行かずとも、自宅や教室で調べられる内容は格段に増えています。一方、端末から得られる情報はその画面の制約上一面的であり、図書館の空間のように他の関連図書が映像で目に飛び込んで来たりするようなことはありません。何より、伴走的な支援を行う司書教諭や学校司書がいません。子どもたちには、リアルな学校図書館で、時には友達とも知恵を出し合い、協力しながら、図書資料を広げ、さまざまな情報を掛け合わせて、思いがけない発見や新たな発想を得てほしいと願っています。

 最後に、私が教育委員会に出向していたときの話を紹介します。そこでは、学校訪問の際には、必ず図書館や図書室を見学するようにしていました。学校図書館がその役割を効果的に発揮するためには、図書の充実、司書教諭や学校司書の配置はもちろんのこと、ちょっとしたレイアウトの工夫やセンスの良いポップなども重要です。視察を通じて、図書ボランティアの方々がこのようなきめ細かい活動を担っていることも知りました。

 探究学習や情報活用能力の育成における学校図書館の重要性は昔も今も不変的であり、その機能や活用の最先端は、司書教諭や司書、そして現場の教員やボランティアの方々が、DXなどの進展に応じて、日々アップデートしています。こうした皆さまのご尽力に厚く感謝申し上げるとともに、国として精いっぱいの支援に取り組んでまいりたいと思います。

情報活用能力育成の指導計画を立てること

札幌市立平岡公園小学校 司書教諭 山田 佳子

 3学期の学校図書館はにぎやかでした。館内の机に6年生がまとめた日本の伝統文化についてのパンフレットと、4年生がまとめた伝統工芸についてのリーフレットが並び、壁には読書クラブの子どもたちが描いたお勧めの本のポスターが貼られていたのです。机上には、感想を書くための付箋が置かれ、調べた成果を認め合う姿が見られました。これらの成果物は、貴重な資料として学校図書館で保管する予定です。

 学校図書館は、校内全ての子どもと教職員のための場所です。子どもたちにとって、自分より先輩の作った成果物を見ることは、学習への関心を高め、学びの手掛かりとなります。また、授業を行う教員にとっても、学習計画を作成する上で道標となるものでしょう。子どもたちのさまざまな学びが詰まった成果物は、学校図書館をみんなで学び合う場にしてくれると思います。

 しかし、残念ながら今回の成果物には、出典があいまいなものや内容を消化しきれずに書き写したものがありました。各学年で身に付けるべき情報活用能力は何かをまとめ、育成していくことがこれからの課題です。

 情報活用能力は、一度の指導で身に付けられるものではありません。必要な情報の探し方や出典の書き方といった基本を知るとともに、自ら課題を決め、集めた情報をまとめて発表するまでの体験を繰り返すことで、知る喜び、分かる楽しさを感じながら学びを進めることができるのです。それには、入学から卒業までを見通した計画が必要です。教育課程に合わせた情報活用能力育成の指導計画を立てるのは、司書教諭であり、学校図書館の大切な役目です。

 教育課程の展開に寄与する目的を持つ学校図書館。子どもたちのさまざまな「知りたい」を答え、広げる探究学習を支えるためには、豊富な図書や新聞、ファイル資料、もちろんデジタル資料も大切です。そして、その使い方を教え、学びを支える人はさらに重要であると思います。どの地域、どの学校でも等しく学びを進めていけるように、人のいる学校図書館の整備が求められていると考えます。

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に学校図書館の活用を

(公社)全国学校図書館協議会理事長 野口 武悟

 学校図書館と聞くと、読書活動をイメージする教員が多いことでしょう。確かに、読書活動の推進に学校図書館は深く関わります。

 しかし、今日の学校教育において学校図書館が担う役割は、読書活動の推進だけにとどまりません。「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す学校教育においては、児童生徒自らが課題を見出し、その解決に向けてさまざまな情報を収集し、分析していく探究学習などのアプローチが重視されています。また、必要な情報の収集、分析の遂行には情報活用能力の育成が不可欠です。

 これらを支えることも学校図書館の大切な役割です。そのためには、学校図書館にさまざまなことが調べられ、学べるように多様な資料・情報源を整備する必要があります。文部科学省の「学校図書館ガイドライン」(2016年)では、次のような資料・情報源を例示しています。

 「図書資料のほか、雑誌、新聞、視聴覚資料(CD、DVDなど)、電子資料(CD―ROM、ネットワーク情報資源(ネットワークを介して得られる情報コンテンツ)など)、ファイル資料、パンフレット、自校独自の資料、模型などの図書以外の資料が含まれる」。

 紙の図書資料はもちろんのこと、1人1台端末で利用可能な電子書籍などの「ネットワークを介して得られる情報コンテンツ」も意識して整備していくことが大切です。学校図書館には、信頼度の高い情報コンテンツをデジタルでも活用できる環境づくりが求められています。合わせて、これらの資料・情報源の整備と活用の促進には、専門人材である司書教諭と学校司書の配置が欠かせません。

 そして、何よりも、教員一人一人が担当する教科などのなかで学校図書館を活用するかどうかが重要です。現行の全ての学校種の「学習指導要領」では、総則において「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童又は生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、児童又は生徒の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること」としています。

 教育委員会などの学校設置者と館長でもある学校長は、学校図書館の整備・充実を計画的・継続的に進めるとともに、研修の機会などを通して全ての教員に「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に学校図書館を活用するように働き掛けてほしいと思います。

情報活用方法を考える

日本児童図書出版協会会長 岡本 光晴

 探究学習とは、児童生徒が自ら問いを立て、情報収集や意見交流などを通じて解決に向かう学習活動であり、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目指すとされています。

 その目指すところの実現に向けては、学校図書館を活用した学習は重要な学習方法の1つであります。まず、ICT活用と紙の本との併用ということですが、ベストミックスを探りながら双方の良いところを生かすということが求められます。

 例えば、本は著者、編集者、校閲者など多くの人の手を介し制作されるため、情報の信用性というものはネット情報と比較すると高いものになります。他方、ネット情報はより多くの情報を短時間で集められるといった特性があります。ただ多くの人が簡単に情報発信できますので内容の信用度ということでは疑問視されます。それぞれの内容の比較、相違の確認などを切っ掛けにより学びを深めてほしいものです。実践の中で子どもたちがこのような学習方法を体験することにより、情報活用能力やより深い学びにつなげてほしいと願っています。

 さて、探究学習の目標の中で、「主体的、協働的に取り組み…」とあります。まずは、主体的に課題を立て、情報を収集・分析し答えを導き出し表現する力を育てることが大切だと思います。自らが生きる道を切り開いていく能力は、「生きる力」に必要なことの1つです。主体的に物事に取り組むことでそのスキルを伸ばしていってほしいものです。また「協働的」に取り組むことも重要です。対話的に学ぶことで、1人では解決できないことや、コミュニケーションをとることの大切さを感じ取ることができると思います。時には、自分と全く異なる考え方、想像もしていなかったような考え方と対峙しなければならない場面もあります。自分の考えを推し進める、異なる考えを自分の中で消化していく、お互いの考えの良いところを探り答えを見つけていく。このような経験を積む中で実社会や実生活での「生きる力」が培われていくものと思います。

 学校図書館はさまざまな可能性を秘めています。子どもたちのより良い学びにつながることを願っています。