図書館を利活用した探究活動 さまざまな社会の窓口として 教育活動の中に学校図書館を 山陽学園中学校・高等学校 

学校図書館特集【協賛企画】2025
協賛各社
教育新聞ブランドスタジオ
吉備津神社でフィールドワーク=提供:同校田中学校司書

 本校は岡山市にある私立の中高一貫校である。図書委員会は中学生と高校生が一緒に活動し、例年約60人が所属している。活動はカウンター当番、読書会やビブリオバトルなど読書行事の準備運営、お昼の放送やコーナー作りなどの係活動に加え、毎年、図書館の利用促進の一環で研究活動を行っている。

 過去には、「夏目漱石」をテーマにした年にゆかりの愛媛県を訪ねる研修を行い、漱石の人柄や考えを学び、漱石未完の小説『明暗』の続きのストーリーを考えて冊子にまとめた。この冊子は漱石山房記念館の図書室に所蔵されている。

 コロナ禍で研修が実施できない年は、岡山の偉人「石井十次」をテーマにして、地域の方に資料を提供していただきながら「石井十次マップ」を作成した。このマップは観光案内所で配布されたほか、現在は岡山県のホームページ内の地域福祉課のページで閲覧できる。

 本稿では図書委員が「桃太郎」をテーマに研究した2022年度の活動を紹介する。

図書委員会による探究活動

桃太郎サミットで展示発表=提供:同校田中学校司書
桃太郎サミットで展示発表=提供:同校田中学校司書

 テーマはアニバーサリー作家や旬の話題などから話し合い、年度当初に決定する。

 この年は新聞で「桃太郎サミット」が岡山県で行われるという情報を得たところからテーマの決定に至った。さっそく記事に掲載されていた団体に連絡を取り、サミットの展示参加を申し込み、桃太郎伝説に詳しい方を紹介していただいた。

 7月にその方を講師として招き、桃太郎の起源といわれる温羅伝説を学ぶ勉強会を開いた。夏休みには、講師から勧められた桃太郎ゆかりの地、吉備津神社と吉備津彦神社でのフィールドワークを実施した。吉備津神社では、社務の方から吉備津彦の尊と温羅にまつわる伝説の解説を聞いたり、鬼退治の矢を置いたといわれる矢置岩を見たりして、伝説の舞台を体感することができた。

 また、県立図書館の資料や国立国会図書館デジタルコレクションを活用し、関連書籍や論文を集めた。桃太郎の研究書は数多く執筆され、一般的にいわれる「桃太郎のモデルは岡山」とは違った説を唱えている研究者も多いことが分かったため、「桃太郎のルーツは岡山か」を問いに設定し、桃太郎の起源を岡山に求める考証を行った。

 研究を進めるなかで、桃が川を流れるオノマトペが「どんぶらこ」以外に「つんぶくかんぶく」など複数あることに興味を持った生徒もいた。絵本を出版年別に並べると、最近の絵本のオノマトペは「どんぶらこ」に統一されている。地域で違いがあることはすでに民俗学者の立石憲利さんが検証しているが、絵本の影響で年代別でも違いがあるのではないかと仮説を立て、文化祭でアンケートを実施した。

 他にも文化祭では、桃太郎の歴史的変遷、全国で語り継がれる桃太郎のストーリー、吉備団子の歴史、ゆかりの地のレポート、鬼の正体についてなど班に分かれて調べて、模造紙にまとめて展示した。模造紙の一部は公共図書館や系列大学の学園祭でも展示している。

 毎年、アウトプットして整理する手段として、校外で発表できる場を確保するようにしている。なかには間違いを指摘されることもあり、その多くの意見やアンケート結果をまとめ、桃太郎サミットで展示発表した。サミットには今まで参考にしていた書籍や論文の執筆者も全国から参加され、意見交換をすることができ、有意義な時間となった。

 最終的には11月の校内読書月間で、サミットの報告や文化祭で実施したアンケート結果、考察を図書館に展示して還元するという形でこの年の桃太郎研究は終了とした。

まとめ

文献やインターネットを使用した情報収集=提供:同校田中学校司書
文献やインターネットを使用した情報収集=提供:同校田中学校司書

 学校図書館法に「他の学校の学校図書館、図書館、博物館、公民館等と緊密に連絡し、及び協力すること」(第四条―五)とあるように、図書館はさまざまな社会の窓口となり得る。研究活動について生徒は「外部の協力を得て理解を深めていく作業は初めてで勉強になった」「さまざまな文献や史料を読んで考察することは大変だったが新しいことをたくさん学べた」と感想を残している。

 図書委員会の研究活動は書籍、論文、新聞、インターネットなどさまざまな図書館ツールを使いながら情報を収集し、本物に触れながら自分の考えを構築していく作業で、研究の基礎を楽しんで習得できている。多角的な研究には学校図書館が必要不可欠である。学習指導要領においても中学校、高校ともに「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、生徒の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること」(総則)と明記されるように、学校図書館が寄与する教育の役割は大きい。本稿を読んでくださっている先生方には、ぜひ教育活動の中に図書館を取り入れていただきたい。

 (山陽学園中学校・高等学校学校司書・田中麻依子)