授業における児童生徒中心の能動的な端末活用のポイントと注意点 基盤となる考え方からの再構築 基礎的なスキル習得も 東京学芸大学教育学部教授 高橋純

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 子供一人一人が能動的に学ぶ授業づくりのために何が必要なのか。うまく変化が続いている授業を振り返ると、教師にも子供にも、①「基盤となる考え方からの再構築」②「基礎的なスキル習得」――がポイントに思える。

 見た目に、端末をたくさん活用したり、複線型授業にしたりすることは比較的容易にできる。しかし、以前よりも子供が熱心に学ぶようになったと手応えを感じる授業には、これらの2つは欠かせない。

 その際の端末活用の基盤は、学習のパーソナライズである。スマホでも多くのアプリはIDを入れる。これはお客さま一人一人にパーソナライズするためである。当然、授業においても、子供一人一人の学習のパーソナライズ、つまり、個別化、個性化を支援するための活用が基盤になる。これらの結果、端末活用は、授業に埋め込まれている感覚になる。

 教師側の基盤となる考え方として最も重視すべきことは「子供一人一人が主語」であろう。中教審答申での「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の説明の際にも、より大きな概念として示されている。

 例えば、このことを真剣に考えていくと、従来の「発問」にも疑問が生まれる。発問は、子供A向けなのか、子供Bなのか、子供Cなのか、と考えていくと苦しい。一般に、大勢の子供に対して同時に一斉に行っていることが多い。発問のタイミングも内容も、平均的に行っていると言えなくもない。

 子供一人一人が主語であれば、子供一人一人に対して発問を考えることになる。となると、まずは子供一人一人の状況をリアルタイムに把握したくなる。そこでチャットや共同編集などの機能を使って子供に次々と書かせていく。把握できれば、子供一人一人に声を掛けたくなる。子供一人一人の考えを把握すれば、全体への平均的な発問は通用しないことを痛感する。

 もちろん、これらは理想であり、そのままできるわけもない。しかし、子供が主語という使い古された言葉から、発問すら疑ってみると、まだまだ検討の余地があったと気付かされる。端末があるからこそ変化もできる。常に慣例を疑って「本質を追究する」ことで、授業観や研修観といった「観」が自然と変化していく。

 子供側の基盤となる考え方として最も重視すべきことは「向上目標」であろう。思考力や表現力といった高次な資質・能力であるほど、達成はせず、望ましい方向への向上を追究することになる。そして、過去の自分より、どれだけ成長できたかが重要である。子供一人一人それぞれが、ベストを尽くすのである。

 学習課題に終わりはない。課題が「終わった」ようでも、当然、次の課題が見つかっているはずだし、もっと成果の精度を上げることもできる。「君の本気はその程度なのか」と教師が助言するイメージである。逆に、子供が充分な水準に達していなくても、ベストを尽くしていれば、学習プロセスを含め、前より何らかの成長ができているはずである。自分なりの小さな成長を認めて、さらに成長していく考え方を持てることが重要である。自己ベストを繰り返して、目標を達成していく。興味関心に基づいて自分なりの道を見つけ、歩んでいくとは、こうしたプロセスといえる。

 端末を活用すれば、学習プロセスも記録でき、過去の成果と比較することも容易である。自らの向上に気付きやすいように活用していく。例えば、過去の学習記録や振り返りなどが子供一人一人で一覧になっているだけでも、自らの成長を感じやすい。また、クラウド型のワープロには全ての作業記録が残される。いつも数十字しか書けていないと思った子供も、多くの試行錯誤の様子が残っていることがある。習得系の学習アプリでも、基本的に向上目標に基づいて制作されているものが多い。自分のペースで向上が繰り返されて達成する。

 基礎的なスキル習得のポイントもいくつもあるが、最も不足しているのは、自らが探究しながら学ぶための基礎スキルであろう。これらの習得が充分でなければ、穴埋め式のワークシートに頼る「穴埋め探究」や、教師の指示で調べたり、まとめたりする「一斉探究」を行いがちになる。

 主に4点ある。

 ①学習過程:どの順序で学習活動を行うかを自己決定できる。

 ②見方・考え方:筋道をもって思考するなど、学習活動の質を上げられる。

 ③学習形態:他者と協働するなど、よりよい学習活動のための工夫ができる。

 ④情報活用能力:これらを円滑に行うための情報の取り扱いが、端末の操作を含めてできる

 学習過程や見方・考え方は、学習指導要領などで示される内容よりも、より教科等に関わらない基盤に近いところから理解を深めるのがポイントである。