大阪府豊中市では50年も前から、どんな状態の子どもでも、保護者と子どもが望めば地域の学校に通い、通常の学級で過ごすことができる「ともに学ぶ」教育を維持、発展させてきた歴史がある。障害の有無、発達の特性、国籍の違いなどによって子どもを「分ける」ことをしない。近年では、「豊中のインクルーシブ教育」として注目を集めている。
本書で紹介される豊中市立南桜塚小学校には、全盲の子、車いすに乗っている子などさまざまな状態の子どもが通い、周囲も当たり前に受け入れ生活している様子が描かれる。同小学校の校長のもとには、学区外から「豊中の小学校に入学するために就学相談をしたい」という問い合わせや、「転居は難しいが、今住んでいる地域の学校に入学させたい」という相談が多数寄せられるという。
他方、全国から多くの学校関係者が視察に訪れ、豊中のインクルーシブ教育に共感し取り組みを進めようとしても、そうは簡単にいかないという声も多い。
豊中市が当たり前に取り組んできた「ともに学ぶ」教育が、なぜ全国では当たり前とはならないのか。元校長がつづる南桜塚小学校の日常からは、豊中市の教職員が日々いかに熱意を持って子ども、保護者と関わり、個々に工夫して柔軟な対応に努めてきたかが伝わってくる。
増加を続ける不登校の問題にも、大きな示唆を与えてくれるだろう。