「教育DXの現状と未来」 文部科学省総合教育政策局主任教育企画調整官・教育DX推進室長藤原志保氏に聞く

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 GIGAスクール構想により、教育現場でのデジタル環境は整備されつつある。しかしその一方、「教育DXについてはまだ変化を実感できない」など課題を指摘する声も多い。

文部科学省総合教育政策局主任教育企画調整官・教育DX推進室長 藤原志保氏
文部科学省総合教育政策局主任教育企画調整官・教育DX推進室長 藤原志保氏

 教育DXは、教育をどのように変えていくのだろうか。また校務支援DXなど業務効率化への取り組みや教育データの利活用は今後どのように発展していくのか。

 教育DX現状や期待できる教育への効果、今後の展望について文部科学省総合教育政策局主任教育企画調整官・教育DX推進室長の藤原志保氏に聞いた。

――学校教育の中で、教育DXが果たす役割に注目が集まっています。教育DXが「主体的・対話的で深い学び」や「カリキュラムマネジメント」に及ぼす影響はどのようなものでしょうか。

 デジタル庁・総務省・経済産業省・文部科学省が令和4年1月に公表した『教育データ利活用ロードマップ』では、DX後の教育として、“誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会”が描かれています。教育DXによりデータの活用が進むと、データを活用して、一人一人の特性や、興味・関心に応じた学び方を先生が判断し提案することで「個別最適な学び」が可能になります。また、データの共有が容易になるので、子供たちが協働的に学習を進める「協働的な学び」も充実させることができると考えています。

 教育データ利活用は、子供たちの学びだけでなく、校務や教育行政の分野でも力を発揮します。データをフル活用すれば学校働き方改革が進み、より充実した学びを実現することが可能です。例えば、教科間のデータを共有することで、より機動的なカリキュラムマネジメントが可能になりますし、その結果もデータで即時にフィードバックされることができます。また、こうした経験や勘に裏打ちされた、学校や先生方の豊かな実践のノウハウは、これまで閉じた形でしか継承されてきませんでしたが、データを使えばそのノウハウを簡単に共有することができます。

――教育データの利活用についてはどのようにお考えでしょうか。現状と今後の取り組みについて教えてください。

 教育データの利活用については、多くの教育委員会、学校において、標準化されたデータが集まり始めている段階だと認識しています。これらのデータを子供たちのために、学校のために活用していただきたいと思っています。

 そのため、文部科学省においては、データ利活用を推進するための取組を行っています。例えば、昨年度からいくつかの教育委員会のご協力を得て、どういうデータをどのように分析したら何が知りえるのか、教育委員会等が所有するデータを用いて分析する実証研究に取り組んでいます。これらの実証研究の成果は公表してまいりますので、ご参考にしていただければと思います。

 また、データの利活用に当たっては、個人情報の適正な取扱いやプライバシーの保護は大切です。そのため、子供の教育データを取り扱う際に留意すべきポイントを整理し、令和5年3月に公表しております。デジタル教材を導入してみようかなとお考えの際、地域の子供たちのデータを分析してみようかなとお考えの際など、ぜひ一度、ご参照いただければと思います。

 文科省が開発運用しているMEXCBTでは、国や自治体等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができます。全国の学校で良問の共有・活用が可能になるとともに、各学校において子どもたち学習状況をこまめに把握し、指導の改善に生かしていただけますので、ぜひニーズに合わせて多様な場面でご活用いただければと考えています。今後は、掲載問題の増加、機能の改善等を通じて、より学校現場にとって役に立つツールにしてまいります。

――学校現場での働き方改革や業務効率化が話題です。校務支援DXの現状や展望について教えてください。

 文部科学省ではこれまで、教員の長時間勤務を解消し、教育の質の維持向上を図るための解決策の1つとして統合型校務支援システムの導入を推進してきました。統合型校務支援システムの整備率は81.0%(令和4年3月)まで上昇し、校務効率化に大きく寄与してきましたが、多くの自治体ではネットワーク分離(閉鎖系ネットワーク)による自組織内設置型運用であり、校務用端末は職員室に固定されているため、学習、校務、福祉系データとの連携が困難、自宅や出張先での校務処理ができない、教育データを可視化するダッシュボードが実装されていないなど、GIGA時代・クラウド時代の教育DXに適合しなくなっています。

 このため、文部科学省では現状の課題を解消するために次世代の校務のデジタル化モデルの実証研究を全国各地で実施し、モデルケースを創出することで、事業終了後の全国レベルでの効果的かつ効率的なシステム入れ替えを目指しています。

――クラウドの活用が推進される一方、利用方法に戸惑いを抱えている自治体や教育現場もあります。「どうすれば良いかわからない」といった声への対応はどのようなものになるでしょうか。

 学校現場におけるクラウドの活用は教育環境の改善や教員の業務効率化につながるものと考えており、実際にクラウドツールを使って業務の効率化を進めている自治体もあります。

 文部科学省が行っている次世代の校務デジタル化推進実証事業では、今後、次世代の校務DXの推進に向けてモデルケースを創出するとともに、校務におけるICTの利活用を前提とした執務環境の整備などを推進する「次世代の校務DX」を進める上でのガイドラインとなる文書を策定します。

 上述のガイドラインとなる文書を広く周知することにより、自治体や教育現場の戸惑いの解消に努めていきます。また、過渡的な取り組みとして教員の負担軽減の観点から「汎用のクラウドツールを活用した教員間での情報交換」「スケジュール管理」「保護者への連絡・情報交換」など、できることから校務の情報化を進めていくことも有効だと考えます。

 文部科学省では、そういった自治体や教育現場でのクラウドの活用を含めたICT活用や環境整備の支援として、専門的知見を有する「学校DX戦略アドバイザー」を教育委員会へ全額国費で派遣しております。また、現場の実情、ノウハウを熟知している「GIGA StuDX推進チーム」による、取組が遅れている自治体への助言・支援や事例紹介等も行っておりますので活用いただければと思います。

――今年5月に東京ビッグサイト行われた「第14回EDIX(教育総合展)東京」にて、教育DXの方向性を「デジタル技術とデータを活用して、知見の共有と新たな教育価値の創出を目指すこと」とお話されていました。「新たな教育価値」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

 教育DXについては、3段階でご説明しています。

 第1段階はアナログをデジタルに変えることで業務の効率化を図っていく段階。一人一台端末が整備されて子供たちの学習状況がデジタルで記録できたり、名簿や指導要録をデジタルで記録・作成したり、というのはまさにこの段階です。

 第2段階はデータ等を活用して教育の最適化を図っていく段階。例えば、子供一人一人の学びの記録を手元の端末でいつでも振り返ることができるようになることで、子供自らが自分の苦手を認識し、繰り返し問題にチャレンジしてみようという行動につながるかもしれません。例えば、先生方は、スタディログを見て子供の学びの特性(この子は問題に繰り返しチャレンジすることで身につくことが多そうだ、この子はじっくり時間をかけて説明を聞くことで理解が深まりそうだ、この子は周りの子とディスカッションをすることで知識が身につくようだ、など)を知ることができ、それぞれの特性に合った教材を与えることができるようになるかもしれません。学びだけではなく、デジタル化した多様なデータを掛け合わせて、例えば生活の記録と学力の記録の変化を合わせてみることで、この子は困っていることがあるかもしれない、という気付きを得られるかもしれません。これはあくまで例で、これ以外にも先生方や子供たちの助けになる場面があるでしょう。

 このような取組がさらに進んでいくと、新しい学びの形、教育価値というのが生まれてくると考えています。既存の制度の枠組みにとらわれずに、デジタル技術を含めた学校内外の様々な教育リソースを活用しながら、場所や時間・言語等にとらわれない学び、個人の特性に応じた学びなどが実現し、学習モデルの構造が質的に変革することが期待されます。これを第3段階のデジタルトランスフォーメーションと言っています。

 ただ、「これが第3段階の形」という決まったものはありません。それは、第1段階、第2段階と進む中で蓄積される先生方の知見と経験の積み重ねから生まれるものだからです。また新しい技術が出てくれば、今は想像できない新しい学びの方法も生まれてくる可能性があるからです。

 ここまで教育DXについて述べてまいりましたが、デジタル技術やデータの利活用、教育DXは手段であって、目的ではありません。教育DXにより、変化の激しいこれからの時代を生きる子供たちに、個別最適な学びを、協働的な学びを実現する、そして誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会を実現する、それが目的です。この目的に向かって、みなさまとともに、アイディア、知見・経験の「集合知」で新しい学びの価値づくりに取り組んでまいりたいと思います。

――8/24に東京、8/28に大阪で開催される「教育と研究のDXフォーラム」では「小・中・高校と大学の教育&研究DXの課題解決を探る」がテーマになっています。この企画に対しての思いや期待についてお聞かせください。

 各学校等に端末が整備され活用が進んできて、データが集まり始めており、このデータ等をどのように活用するのが、子供たちのため、学校のため、地域の教育政策のために効果的か、というお悩みを抱えている学校、教育委員会は多くあると思います。

 このような中、先進的にデジタル技術やデータの利活用を進めてこられた教育委員会の方から、それぞれのお取組みについて、これまでに乗り越えてきたチャレンジ、子供たちや先生にどのような変化・効果があったのか等を含め共有いただけるこの機会は、とても貴重な機会だと思います。また、ご参加されている方が相互に情報交換する中で、新しい気付きや発見が生まれることも期待しております。

――ありがとうございました。講演も楽しみにしております。

 「教育と研究のDXフォーラム」(参加無料・申込はこちら)は8月24日に東京、8月28日に大阪で開催される。藤原氏は小・中・高校トラック(8月24日・東京会場)にて登壇予定。教育DXの最先端がわかる「教育と研究のDXフォーラム」。教育関係者必見の内容だ。

 「教育と研究のDXフォーラム」

申し込みはこちらから
https://www.kyobun.co.jp/event2023_edudx_summer/

東京会場 8月24日(木)
午前10時30分~午後5時
TKP新橋カンファレンスセンター
小・中・高校(K12)トラック

■10時30分~
文部科学省 総合教育政策局 主任教育企画調整官・教育DX推進室長 藤原 志保

■10時35分~11時15分
放送大学客員教授 佐藤幸江

■11時15分~12時
「令和の日本型学校教育」構築のためのクラウドへの期待と課題 ~“個別最適な学び”実現に向けて~
市川市教育委員会 教育センター 伊勢 太惇
葛飾区教育委員会 事務局 学校教育推進担当課長 江川 泰輔
放送大学 客員教授 佐藤幸江
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

■13時~13時30分
「教育ICT環境のフルクラウド・ゼロトラスト化」
新座市教育委員会 教育総務部教育総務課 仁平 悟史

■13時30分~14時
「教職員の働き方改革を推進し教育の個別最適化を支援する新サービスのご紹介」
キヤノンITソリューションズ株式会社 文教ソリューション営業本部 第二営業部 岸 由里絵

■14時~14時30分
「AI時代に必要なイノベーション人材育成と教育の変化」
Life is Tech  取締役 讃井 康智

■15時~15時30分
「全国学力調査テストのデータを活用した傾向分析~指導・学習の個性化に向けた新サービスのご紹介」
コニカミノルタジャパン株式会社 DXソリューション事業部 ICW事業統括部 教育DX事業開発部 部長 石黒 広信

■15時30分~16時
「相模原市におけるプログラミング教育の実践~生活や社会の問題を解決する『Alexaスキル』を活用した授業実践~」
相模原市教育委員会 教育局 学校教育部教育センター 須藤 雄紀

大阪会場 8月28日(月)
午前10時30分~午後5時
大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス
小・中・高校(K12)トラック

■10時30分~
文部科学省 総合教育政策局 教育DX推進室 室長補佐 稲葉 めぐみ

■10時35分~11時15分
「学習データを活用した個別最適な学びと協働的な学びの充実に向けた現状」
園田学園女子大学 人間教育学部 教授 堀田博史

■11時15分~11時55分
鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 教授
教員養成DX推進機構長 藤村 裕一

■13時~13時45分
「令和の日本型学校教育」構築のためのクラウドへの期待と課題~“個別最適な学び”実現に向けて~
枚方市教育委員会 学校教育部教育研修課 主幹 浦谷 亮佑
鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 教授 教員養成DX推進機構長 藤村 裕一
園田学園女子大学 人間教育学部 教授 堀田博史
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

■13時45分~14時15分
「教職員の働き方改革を推進し教育の個別最適化を支援する新サービスのご紹介」
キヤノンITソリューションズ株式会社
文教ソリューション営業本部 第二営業部  岸 由里絵

■14時15分~14時45分
「AI時代に必要なイノベーション人材育成と教育の変化」
Life is Tech  取締役  讃井 康智

■15時15分~15時45分
「全国学力調査テストのデータを活用した傾向分析~指導・学習の個性化に向けた新サービスのご紹介」
コニカミノルタジャパン株式会社
DXソリューション事業部 ICW事業統括部 教育DX事業開発部 副部長  松末 育美

■15時15分
「アマゾンエコーを活用した、プログラミング教育について」
枚方市教育委員会 学校教育部教育研修課 主幹 浦谷 亮佑