小中高の各段階で「働き方改革」や「ICT化」が加速する中、その進学先に当たる大学や専門学校にも変革の波が押し寄せている。とはいえ、私学の場合は学校法人が複数の学校を管轄しているケースも多く、法人全体として改革を進めるのが難しいケースも見られる。そうした中、札幌市に拠点を置く学校法人・吉田学園では、全9校の大学・専門学校の校務システムやLMSをクラウド化し、業務や学びの効率化を図っている。クラウドに切り替えた経緯やシステム刷新後の運用状況について聞いた。
学校法人・吉田学園は札幌市に拠点を置く学校法人で、札幌保健医療大学と専門学校8校の計9校を設置している。建学の精神に「高度職業人の育成」を掲げ、医療福祉、情報ビジネス、動物看護、自動車整備など、幅広い分野において「即戦力」となれる人材の育成を行っている。総学生数は約2800人に上り、在学中に自動車整備士や基本情報技術者、愛玩動物看護師などの国家資格を取得する学生も多い。
長年、札幌市の地域経済を支える人材を輩出してきた吉田学園だが、法人本部 法人経営企画局 局長の今光昭氏は「コロナ禍以降、オンライン授業が日常化するなど、大学や専門学校の在り方も変わってきている。本学でもデジタル技術を活用し、学生の学びや教職員の働き方を変えていくことの必要性を感じていた」と近年の私学経営の課題について話す。
そうした中、吉田学園では2022年1月に新しい校務システムとLMSに関する学内チームを立ち上げ、外部のコンサルタントも加わる形で検討をスタートさせた。その後、同年7月には導入するシステム・アプリの仕様を決定したが、その際の大きな変更点はサーバーをオンプレ型(学内設置)からクラウド型に切り替えたことであった。法人本部 法人経営企画局コンピュータシステム部 副部長の嶌田史人氏は「オンプレ型のサーバーでは、定期的なメンテナンスが発生したり、5~6年での入れ替えが必要だったりと、何かと手間がかかった。適切な人員で運用していくためになるべく担当者の負担を減らしていく必要があると考え、学内のサーバーを順次クラウドに切り替えていくことにした」とその経緯を話す。
クラウド化したもう一つの理由は、システムの安定性だという。学内設置と異なり、クラウドの場合は学内から地理的に離れた耐災害性の強いデータセンターにサーバーはあり、その管理や障害対応はクラウドサービス提供者が行ってくれる。クラウドにシステムやデータのバックアップを置くことで、被災の可能性は少なく、万が一災害等で障害が発生してもすぐに復旧が期待できる。「オンプレだった頃は障害が発生すると復旧までにかなりの時間がかかっていたが、クラウドの場合はそうした心配もほとんどなく、安定的に運用することができる」と嶌田氏は話す。
さまざまなクラウドサービスの中で、吉田学園が採用したのはアマゾン ウェブ サービス(AWS)であった。AWSを勧めたのは、サーバー・システムの刷新をコーディネートしたクラスメソッド株式会社で、産業支援グループ文教ソリューションチームの今井茂樹氏だ。その理由を「吉田学園には学生と教職員合わせて約3000人が在籍するため、その人数が同時にアクセスしても安定的に稼働できることが条件だった。その点、AWSでは国立大学などで数万人規模での運用実績があり、安心して提案できた」と振り返る。また、吉田学園の嶌田氏も「AWSにはセキュリティーで脆弱な部分があるとそれを検知して知らせてくれるサービスがある。その点でも安心感があった」と語る。
2023年4月、吉田学園では無事にサーバーの切り替えが完了し、運用がスタートした。「開始から約1カ月で、サーバーの切り替えが完了した。通常であれば、ハードの調達だけでも数カ月はかかる。期限が決まっている中、このスピード感で切り替えができたことは非常にありがたかった。また、AWSに切り替えたことで、ウェブアプリケーションファイアウォール(AWS WAF)をはじめとする複数のアプリが、一つの管理画面で使用できるのも便利」と嶌田氏は語る。
サーバーの切り替えと同時に、吉田学園では校務システムも導入した。「以前は、9校がそれぞれ異なる形でデータを管理し、業務が属人化していた。それを一つのシステムに集約し、誰でもアクセス・利用できるようにしたかった」と嶌田氏はその経緯を語る。導入したのは、株式会社システムディの「Campus Plan」で、大学と専門学校の両方のデータを一つのプラットフォームで管理できる点が、決め手の一つになったという。
現在「Campus Plan」で管理しているのは、学生の学籍情報や履修情報、成績情報、出願者の情報など多岐にわたる。学生自身がマイページから履修漏れの有無をチェックしたり、保護者が子どもの出席状況を確認したりすることも可能だ。「休講や落とし物のお知らせなども、迅速かつ漏れなくできるようになった。以前は職員が手入力で行っていた学生の履修登録も、学生が自身でできるようになり、職員の負担が減り業務効率は大幅に向上した」と嶌田氏は語る。
「Campus Plan」では、卒業要件や資格要件を満たさない場合、システムがアラートしてくれる機能もある。国家資格を取得する学生も多い吉田学園にとって、このような行き届いたサービスが安定的に常に利用できるクラウド環境での運用メリットは大きいに違いない。
吉田学園では2018年頃から、LMS(Learning Management System)として「Google Workspace for Education」を活用し、遠隔での授業やオンデマンド動画の配信などを行っていた。そうした中でコロナ禍を迎え、管下の各学校でデジタルの活用が進む中、「より機能性・拡張性の高いLMSを導入すべきではないか」との意見が学内から出たことで、検討をスタートさせた。
そうした中、最終的に導入を決めたのは日本データパシフィック株式会社の「WebClass」であった。吉田学園情報ビジネス専門学校の橋本直樹校長は、「EDIX教育総合展に出向いてさまざまなLMSを見て、5社にデモしてもらうなどした上で、『医療系の実習管理を拡張機能として使えるのではないか』との意見があり、『WebClass』に決定した」とその経緯を語る。
現在は、学生が授業前に5分程度の動画を視聴した上で実習に臨む反転授業、国家試験の過去問ドリルを活用した演習などで活用され、学生の学びの効率化が図られたという。また、小テスト等を『WebClass』上で実施しており、「採点・集計が自動的に行われ、評価にも反映される。授業やテストなど、さまざまなことが『Campus Plan』の画面上から活用できる点も便利。教職員の業務効率も高くなった」と橋本校長は話す。
このように、校務システムとLMSの刷新で、学生の学習効率と教職員の業務効率を高めてきた吉田学園だが、約2年にわたりプロジェクトの舵取りをしてきた嶌田氏は「新しいシステムの活用度合いについては、まだ学校間で差がある。今後は、活用を学園全体に広げていくと同時に、残されたオンプレ型サーバーのクラウド化も進めていきたい」と今後の展望を語る。
大学・研究機関のためのAWS