「長崎県における校務DX推進について」 長崎県教育庁 義務教育課 課長補佐 鶴田 浩一氏

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長崎県教育庁 義務教育課 課長補佐 鶴田 浩一氏

 文科省が2022年9月に公開した「校務の情報化に関する調査」によると、73.4%の自治体が「統合型校務支援システム」を導入しているという。しかし、そのうち半数近くがオンプレミスで、クラウド化に至っていない。セキュリティやコスト面からもクラウド化を検討する自治体や学校は多い。そこで、全国に先駆けて、2018年から全県でパブリッククラウド型の統合型校務支援システム「長崎県推奨システム」の共同調達・整備を行っている長崎県教育庁義務教育課課長補佐の鶴田浩一氏に、導入の経緯やメリット、今後の課題などについて話を聞いた。

パブリッククラウドで、全県での共同利用を行う

――長崎県の統合型校務支援システムの特長と、導入の経緯について教えてください。

 長崎県推奨システムの大きな特徴とは、「県で共同調達、共同利用」「パブリッククラウド活用」の2点です。プロポーザルの結果、パブリッククラウドにAWS、校務支援システムに「EDUCOMマネージャーC4th」が採用され、帳票の整理や集約拠点から県外サーバーまでの接続等についての初期構築費用は県が負担しています。

 それ以前は、県独自の帳票作成システムを開発し、全市町に無償で提供していましたが、機能やアップデートの課題があり、新しいシステムに切り替えることになりました。また、教員の働き方改革の対策として県内で同じシステムを使うことのメリット、導入コストの削減、校務系情報のセキュリティ向上といった複数の面から、2017年(平成29年)当時、国において導入が推奨されていた統合型校務支援システムの共同調達を実施し、全県で使っていこうという流れになったのです。

――そして、2018年から、文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業」での取り組みを始めたというわけですね。

 はい。最初に、実証にあたってはモデル地域として、3つの市町に先行参加していただきました。ネットワークの負荷や学校での運用は学校規模により様々なケースが考えられることから、大規模、中規模、離島の自治体に先行して参加していただきました。年々、参加いただく自治体が増え、現在は、約90%の学校で同じシステムを利用しています。

クラウドへの共通理解からスタート

――2017年当時ですと、パブリッククラウドの活用については反対意見なども出たのではないでしょうか。

 当時はまだ「クラウド=危ない」というイメージがあり、「校務データを学校外に置いてよいのか」という意見もありました。そこで、各市町の担当者からなる委員会を立ち上げて、校務支援システムへの理解を図ることとしました。その中では、県内大学の情報セキュリティが専門の先生に、サイバー攻撃の高度化やその対策としてのクラウド利用についてお話していただいたりしてして、下準備を進めました。

――課題のひとつにセキュリティやコスト面があったと思いますが、そうしたところからも、クラウドの必要性は感じていらしたのでしょうか。

 そうですね。全国でUSBの紛失による個人情報の流出などの事例も見られたことから、セキュリティを高めることの必要性を感じていました。また、県内にサーバーを置くことも検討していましたが、それが難しいということもクラウド採用のひとつの理由でした。

――その際、セキュリティポリシーの策定なども新たに行ったのでしょうか。

 各市町の実態に応じて対応していただきました。特に個人情報保護審議会への対応などは、情報共有を行いながら進めていきました。

校務支援システムを入れた上での見直しが必要

――導入後の効果として、市町教育委員会や、現場の学校からはどんな声がありましたか?

 調査を行ったところ、校務支援システムを導入したことで、業務時間削減は大きな効果がありました。正直、初年度は操作を覚えるといった負荷が学校現場にかかってしまうのではないかと思っていましたが、初年度から結果が出て、例えば、教頭の業務は一日あたり50分程度の削減に繋りました。
 
 また、先生方が異動した先でも、同じシステムを使えることも非常に良かったようです。市町によっては先生方に個人アドレスを付与していないケースもありましたが、C4thの個人連絡機能で市町をまたいで連絡ができるようになったり、連絡掲示板で教育委員会からのお知らせが見られるようになったりするといったメリットもあります。

 以前、県が提供していたのが帳票を出力するシステムでしたので、グループウェアを含めたシステムに切り替わったことで、業務改善が行われていることを感じています。

――要望としてはどんな意見がありましたか?

 県域で共同利用するということで、帳票等については基本的にノンカスタマイズで行っています。運用に関する部分で要望が多いものは、児童生徒の市町をまたぐ転入出の際に、電子を原本として電子データのやり取りを行うというものです。これまで、C4thを導入していない市町とのやり取りが難しかったことから実施できていませんでしたが、各市町の要望を受け、実施の方向で調整しています。

 県では協議会を定期的に開催し、各市町の意見を聞いたり、運用面での工夫を事例発表していただいたりして、よりよい運用を目指しています。大事にしているのは、「校務支援システムを入れたから働き方改革につながる」ではなく、「校務支援システムを入れたのと同時に、改めて、運用ルールや業務フローを見直していかないと真の業務改善には繋がらない」という考えです。

今後の課題はロケーションフリー

――C4thを導入した際、市町に向けての研修はどのように行ったのでしょうか。

 C4thを提供しているEDUCOMが、プロポーザルの時に提案していただいた内容をもとに、各市町で研修会を開催しています。基本操作から、保健管理機能、年度末、新任者異動者向け、フォローアップのほか、教育委員会や管理職向けの研修などを、コロナ禍もあり、オンライン中心に開催していただきました。

 機能のアップデートに合わせた研修会や、アクセスログの報告などもあり、運用面では非常に助かっています。

――そうしてきた中で見えてきた活用における課題、そして今後の展開について教えてください。

 GIGAスクール構想が実施されたことで、これまでのグループウェア機能が、Google for Education等の学習系システムでもできるようになり、機能が重複しいるという意見は多く出ています。

 現在の長崎県における校務支援システムは、パブリッククラウドを利用していますが、VPNの閉域網で構築されているため、学校のネットワークを通じて校務用端末からアクセスする必要があります。カレンダーや施設予約等は、学習系のシステムでも利用でき、かつ、スマホや自宅からでもアクセスできるため、そちらの方が利便性が高いという状況になっています。

 私は中学校の教員ですが、セキュリティを担保したうえで、教員が自宅で所見を作成したり、出張中の管理職に決裁の承認を得たりといった、校務のロケーションフリー化による、柔軟な働き方ができるようになるといいと思います。さらには、指導計画や、個別の指導ログの共有、高校入試における出願や進学におけるデータでのやり取りなど、市町間や教員間の横のつながりや、校種といった縦のつながりの中でデータの利活用などができると、教員の負担も軽くなる。そうしたシステムの運用が、目指すべき姿のひとつではないかと個人的には考えています。

――7月27日の「教育と研究のDXフォーラム」のご講演では、さらに詳しいお話や、県内の最新の活用などもお話いただけるのでしょうか。

 はい。現場の先生からのご意見や、運用の中で見えてきたクラウド活用の利点などについてもお話していきたいと思います。

――ありがとうございました。講演も楽しみにしております。

教育と研究のDXフォーラム詳細

【福岡会場】

  • 日時:2023年 7月27日(木) 午前10時受付開始、午前10時30分~午後5時
  • 場所:西南学院大学 コミュニティセンター
  • 参加対象:教育委員会の方々、教員の方々、学校関係者、
  • 詳細・申込:
    https://www.kyobun.co.jp/event2023_edudx_summer/

<小中高トラック>
10時30分~10時35分
■ご挨拶・登壇
文部科学省 総合教育政策局 主任教育企画調整官・教育DX推進室長 藤原 志保

10時35分~11時15分
■基調講演
「教育データの利活用による次世代の学びの姿」
ICT CONNECT21 会長 赤堀 侃司

11時15分~12時
■パネルディスカッション
「令和の日本型学校教育」構築のためのクラウドへの期待と課題
~個別最適な学び 実現に向けて~
・鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 所長 木田 博
・長崎県教育庁 義務教育課 課長補佐 鶴田浩一
・ICT CONNECT21 会長 赤堀 侃司
・アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

12時~13時
■お昼休憩

13時~13時30分
■講演
「鹿児島市における、教育データ利活用への取り組みについて
鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 所長 木田 博

13時30分~14時
■協賛社セッション
キヤノンITソリューションズ株式会社

14時00~14時30分
■事例発表
大刀洗町教育委員会 三渕 剛
(前半10分事例発表/後半20分参加者とのディスカション/仮)

14時30分~15時
■コーヒーブレイク/交流

15時~15時30分
■協賛セッション
コニカミノルタジャパン株式会社

15時30分~16時
■講演
「長崎県における校務DX推進について」
長崎県教育庁 義務教育課 課長補佐 鶴田浩一


主催: 株式会社教育新聞社 教育新聞ブランドスタジオ

特別協賛: アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

協賛:キヤノンITソリューションズ株式会社、エクスジェン・ネットワークス株式会社 、株式会社Fusic、コニカミノルタジャパン株式会社、ライフイズテック株式会社、MEGAZONE株式会社、Okta Japan株式会社

後援: 文部科学省、一般社団法人 ICT CONNECT 21、株式会社科学新聞社