今話題の「生成系AI」。われわれの生活においても身近なものとなりつつある。活用に前向きな教育現場が増える一方、不安視する声も聞かれる。生成系AIとはそもそも何なのだろうか。また生成系AIを使うことで教育・研究の場にはどのようなメリットがあり、どのような課題が想定されるのか。アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社パブリックセクター技術統括本部 統括本部長として生成系AIの最前線を知る瀧澤与一氏に聞いた。
「生成系AIによって得られるのはわくわくするような新しい体験です」瀧澤氏はそう語る。これまでのAIは学習済みのデータから適切な答えを探し出力するが、生成系AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを創造できる。
生成系AIの活用場面を、瀧澤氏は「画像の生成」で説明する。「たとえば『馬に乗った宇宙飛行士の画像を作って』という指示を出します。普通ではあり得ない場面ですよね。でも生成系AIでは蓄積されたデータから宇宙飛行士と馬を組み合わせて、指示通りの画像を生成できるのです」膨大なデータを元に、無から有を生み出すのが生成系AIの特徴なのだ。
生成系AIを理解する上で重要なのが「ファインチューニング」だ。取り込んだデータに対し追加の情報を入れることでさらに目的に合う形にチューニングされた状態になる。よりアウトプットの精度が上がるという。
生成系AIを支えるのが基盤モデル(FM:Foundation Model)である。膨大なデータで訓練された大規模なAIモデルを指す。この基盤モデルによって、文章、画像や動画、音楽など多様なコンテンツの生成が可能になった。
生成系AIといえばChatGPTを連想する人が多いが、これはあくまでもGPTという基盤モデルを活用したサービスの1つである。実際に現在我々が利用できる基盤モデルは多数あり、教育現場でも目的に合わせ最適な基盤モデルを選んで使うことが今後は当たり前になっていくという。
たとえばAWSが提供する生成系AIアプリ開発を可能にする「Amazon Bedrock」では、Amazonや最先端スタートアップ企業が提供する厳選された基盤モデルから選択できる。
さらに「もっと多くの選択肢から選びたい」というニーズに対しては「Amazon SageMaker JumpStart」がある。既存の基盤モデルにアクセスして生成系AIの開発・運用ができるもので、Amazon Alexa、Meta AI、stability.aiなど多くの選択肢を擁している。
基盤モデルを選ぶ基準としてはコストパフォーマンスも重要だ。データの大きな基盤モデルを使用すれば人間相手のような自然なやり取りが可能になるが、コストがかかる。「試しながら選べるのがAWSのサービスの長所です」と瀧澤氏。現在、教育業界を含めた10万以上の事業者・施設でAWSのサービスが使われているという。
学習範囲や生徒の理解度に応じた問題作成には多大な時間がかかる。しかし生成系AIを使えば、過去の問題や教材から新たなテスト問題を生成することができる。習熟度を分析して最適な問題や解説を生成することも可能だ。生徒が自分自身で問題を作成して解けるようなアプリを作成することも考えられる。
教材やWebサイトの作成などの場面で、既存の画像がクオリティや著作権の問題で使えないという悩みがよく聞かれる。しかし生成系AIなら用途に合わせた画像を生成できる。
深刻な悩み相談は人間の出番だが、軽い質問ならチャットの方がいいという学生も多い。生成系AIではユーザーが入力した質問内容を分析し適切な回答を生成することができる。この機能はすでに多くの通信教育などで使われている。後述するAWSの「検索拡張生成(RAG: Retrieval Augmented Generation)」を使えばユーザーの属性によってアウトプットをコントロールすることも可能。教職員自ら学生の質問や相談に対応する場合にも、補助的に生成系AIを利用することができる。知識や経験を補強する幅広い視点からのヒントが得られるのは心強い。
プログラミング学習でもAWSのサービスは威力を発揮する。AIコーディング支援サービス「Amazon CodeWhisperer」だ。一般公開されており、学生を含む個人開発者は無料で使用が可能。「プログラミングのスキルがなくても、自然言語でコメントを書けばコードの候補をリアルタイムで生成できます。学習者にとっては、アドバイザーがそばでフォローしてくれるようなものです」と瀧澤氏はいう。セキュリティの脆弱性やオープンソースの盗用も検知できるため、教員側が学生のコードをチェックする際にも有用だ。
さまざまな可能性を秘めた生成系AIだが、現場からは不安の声も聞かれる。生成系AIの課題は何だろうか。
この話題について考える際おさえておきたい用語が2つある。それは「ハルシネーション」と「入出力のコントロール」だ。
ハルシネーションとは「誤った回答」のこと。「この『ハルシネーション』の抑制が生成系アプリケーションを作る際の一つの課題となっています」と瀧澤氏は話す。また「入出力のコントロール」も重要課題だ。たとえば入力時に不正な情報や情報漏えいがないか、ユーザーの属性に適した回答を出力できているかのチェックが必要となる。「この2点は私たちAWSが重要としてきた観点であり、広く議論されはじめています」と瀧澤氏は問題の重要性を強調する。
これらのソリューションとしてAWSが提供しているのが、「検索拡張生成(RAG; Retrieval Augmented Generation)」だ。AIアプリケーションの出力をその組織のデータのみに制限したり、高精度な文書検索のできるAmazon Kendraの機能と大規模言語モデル(LLM: Large Language Model、基盤モデルの1種)の機能を組み合わせたりしてより正確性の高い会話を可能にする。
生成系AIの課題について、国レベルではどう議論されているのか。2023年5月26日に行われた内閣府 AI戦略会議では、7つの具体例と対応が協議された。「生成系AIによって誤情報が世の中に出るリスクをコントロールしなければいけない。また教育現場では、先生や生徒、研究者など立場に合わせた利用方法のガイドラインが必要です。著作権侵害も留意しなければならないポイントです」と瀧澤氏は指摘する。
教育現場では利用リテラシーをどう身につけさせれば良いのだろうか。「これは個人的な見解ですが」と前置きしつつ、瀧澤氏は「そもそも『新しい技術は止められない』が前提。教育現場で使用を禁止しても子どもたちは日常生活でアクセスするでしょう。それならば授業で積極的に触れさせながら理解を促すことがスタートラインでは」と語る。
学生や生徒がテクノロジーとの向き合い方を学べば、結果的に日本全体のICTリテラシーが向上するだろう。
生成系AIは業務を効率化し、生産性向上を可能にするだけでなく、新しい洞察や想像力を提供し新たなイノベーションを生み出す可能性も秘めている。
生成系AIの活用に加え競争的研究費を利用したクラウドによる研究、学生エクスペリエンス向上、セキュリティ強化を実現する校務 DXなど業界大注目のトピックが満載の「教育と研究のDXフォーラム」(参加無料、申し込みはこちら)は、東京で8/24(木)、大阪で8/28(月)に開催される。AIアルゴリズム、AIクリエーション、ソーシャルイノベーションを三本柱とした独自のカリキュラムを実現している武蔵野大学 データサイエンス学部学部長 教授 清木 康氏による講演「国際研究コラボレーションを指向したデータサイエンス教育の実現」、理化学研究所計算科学研究センター センター長 松岡 聡氏によるバーチャル富岳に関する基調講演(東京)など大学研究分野における先端事例やベストプラクティスを多く紹介。
アンテナの高い大学関係者には必見の内容となっている。
詳細、申し込みは下記より
https://www.kyobun.co.jp/event2023_edudx_summer/
【大学・研究トラック】
■ご挨拶・登壇
10時30分~
文部科学省 研究振興局 参事官(情報担当)嶋崎 政一
■基調講演
10時35分~11時15分
「バーチャル富岳が実現するサイエンスプラットフォームの広がり」
理化学研究所計算科学研究センター センター長 松岡 聡
■講演
11時20分~11時50分
「国際研究コラボレーションを指向したデータサイエンス教育の実現」
武蔵野大学 データサイエンス学部 学部長 教授 清木 康
■協賛社セッション
11時50分~12時20分
「オープンサイエンスを支えるクラウド認証基盤 Extic」
エクスジェン・ネットワークス株式会社
■講演
13時20分~13時50分
「クラウド活用で生物学の基礎研究を加速する」
自然科学研究機構基礎生物学研究所 進化ゲノミクス研究室 教授 重信 秀治
■協賛社セッション
13時50分~14時20分
「学術・研究機関におけるAWSクラウド活用事例~お支払い方法からGakuNin導入まで幅広くサポートします~」 株式会社Fusic
■協賛社セッション
14時20分~14時50分
「調達も運用も「安全」に ~大学・研究機関でのクラウド活用によるDXの
最初の一歩をお手伝いします~」MEGAZONE株式会社
■協賛社セッション
15時20分~15時50分
「教育DXを加速するID管理とアプリケーション管理のモダナイゼーション」 Okta Japan株式会社
■講演
15時50分~16時20分
「クラウドを活用した次世代型研究者データベースの開発と運用」
東北大学 工学研究科副研究科長・総長特別補佐 髙村 仁
■AWS講演
16時20分~16時50分
「生成系 AI の課題と解決策 –学術・研究機関ユースケースからのAWSの考察」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
パブリックセクター技術統括本部 統括本部長 / プリンシパルソリューションアーキテクト
瀧澤 与一
【大学・研究トラック】
■ご挨拶・登壇
10時30分~(オンライン登壇)
文部科学省 研究振興局 参事官(情報担当)嶋崎 政一
■基調講演
10時35分~11時15分
「量子コンピューティングと量子ソフトウェアが実現する未来」
大阪大学 基礎工学研究科 教授 藤井 啓祐
■講演
11時15分~11時45分
「関西学院が進めるDX ~「デジタル『に』トランスフォーメーション」からの脱却~」
関西学院 情報化推進機構 システム管理・情報セキュリティ担当課長補佐 北島 大助
■協賛社セッション
13時30分~14時00分
「教育DXを加速するID管理とアプリケーション管理のモダナイゼーション」
Okta Japan株式会社
■講演
13時15分~13時45分
「東海国立大学機構デジタルユニバーシティ構想」
名古屋大学 情報連携推進本部 情報戦略室 教授 青木 学聡
■協賛社セッション
13時45分~14時15分
「オープンサイエンスを支えるクラウド認証基盤 Extic」
エクスジェン・ネットワークス株式会社
■講演
14時15分~14時30分
「OCAにおける「産学連携による高度IT人材育成」
OCA大阪デザイン&テクノロジー専門学校
■協賛社セッション
15時15分~15時45分
「調達も運用も「安全」に ~大学・研究機関でのクラウド活用によるDXの最初の
一歩をお手伝いします~」MEGAZONE株式会社
■協賛社セッション
15時45分~16時15分
「学術・研究機関におけるAWSクラウド活用事例~お支払い方法からGakuNin導入まで幅広く
サポートします~」株式会社Fusic
■AWS講演
16時15分~16時45分
「生成系AIの課題と解決策-学術・研究機関ユースケースからのAWSの考察」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
パブリックセクター技術統括本部 統括本部長 / プリンシパルソリューションアーキテクト
瀧澤 与一
【主催・協賛】
主催: 株式会社教育新聞社 教育新聞ブランドスタジオ
特別協賛: アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
協賛:キヤノンITソリューションズ株式会社、エクスジェン・ネットワークス株式会社 、株式会社Fusic、コニカミノルタジャパン株式会社、ライフイズテック株式会社、MEGAZONE株式会社、Okta Japan株式会社
後援: 文部科学省、一般社団法人 ICT CONNECT 21、株式会社科学新聞社
【会場】
東京会場
TKP新橋カンファレンスセンター
〒100-0011東京都千代田区内幸町1-3-1幸ビルディング 16階
大阪会場
大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス(B1棟)
〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1番1号
【参加対象】
・小中高トラック:教育委員会の方々、教員の方々
・大学/研究トラック:大学関係者、研究室関係者
※お申し込み時に参加トラックをご選択ください。
【参加方法】
本サイトのお申し込みフォームから事前エントリーが必要です。参加費は無料です。