NPO法人CANVAS理事長/一般社団法人超教育協会理事長/慶應義塾大学教授
私が理事長を務めるNPO法人CANVASでは、毎年「全国小中学生プログラミング大会」(JJPC)を開催しています。大会といっても、主としてプログラミングのスキルを競うものではありません。実装力としての技術力も評価項目の一つではありますが、特に重視しているのは発想力と表現力です。
世界で5600万人の子どもたちが使うScratch。その開発背景を知ることが、プログラミング教育必修化の意図を理解する手掛かりになるのではないかと思います。 MITメディアラボで「Lifelong Kindergarten」チームを率いるミッチェル・レズニック教授。通称ミッチは、生涯にわたり幼稚園のように学べるようにしたいとの思想の下、Scratchを生み出しました。
プログラミング教育の導入に当たり、「Scratch」を使用する学校は多いことでしょう。私はかつて、Scratchが生まれたMITメディアラボで研究をしていました。
「STEAM(STEM)教育」という言葉を目にする機会が増えました。文部科学省も「Society5.0に向けた人材育成」としてSTEAM教育の重要性を指摘しています。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(アート)、Mathematics(数学)の頭文字をとった広い概念の言葉です。
身の回りの電化製品の仕組みを学ぶことで、コンピュータの知識を得ることもできます。例えば炊飯器。「初めチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いてもふた取るな」。炊飯器が普及する以前に、かまどでおいしくご飯を炊くための火加減を伝える言葉です。初めは弱火でかまど全体を温め、その後強火で沸騰させる。
子どもたちはプログラミングでつくった作品をアップロードして、世界中の子どもたちと共有しています。お互いの作品を鑑賞し、教え合い、学び合う。友達の作品に自分のアイデアを追加して、改定して、新しい作品を生み出す。友達の作品を見て、発想を得て、新しい作品をつくる。さらには、その作品についてネット上で議論をする。
プログラミング教育を各教科に導入することの醍醐味(だいごみ)は、手を動かし、試行錯誤して、つくりながら学ぶ学習が入ることだと考えます。 手足を動かして考えることにより、思考が身体化する。抽象的な思考から一歩飛び出し、自分でも気が付かなかったことに気付かされ、アイデアを生み出しやすくなる。そのような経験は誰もが持っているのではないかと思います。
今後はコンピュータを使わない仕事はなくなると言っても過言ではないでしょう。農業では、作物の生育状況をコンピュータが管理し、夜間に農業機械を走行させ、ドローンで農薬をまくなどして、効率的に高品質の作物を育てることが可能となりました。
新しい技術の発明は社会を変化させてきました。18世紀末の蒸気機関の発明は第1次産業革命を起こし、世界に機械化、工業化の波を起こしました。19世紀後半には電力を用いた大量生産化をもたらす第2次産業革命が、そして、20世紀後半にはコンピュータ技術の発達により自動化を促す第3次産業革命が起こりました。
社会の構造が大きく変化する中で、その変化に立ち向かいながら情報技術を使いこなし、世界中の多様な価値観の人と協働し、新しい価値を創造する力が今まで以上に必要となります。そのような考えの下、2002年にNPO法人CANVASを設立し、プログラミング教育など、子どもたちの創造力とコミュニケーション力を育む活動を産官学連携で推進してきました。
広告ブロック機能を検知しました。
このサイトを利用するには、広告ブロック機能(ブラウザの機能拡張等)を無効にしてページを再読み込みしてください