京都大学准教授
利用者の好みに合わせて情報提供してくるオンラインショッピングやネット広告のように、関連するもの同士の効率的なマッチングにおいて、AIは強みを発揮します。故に、「個別最適な学び」に注目が集まるのは自然なことで、診断とリコメンドという学習支援ツールとしての可能性はあります。また、自動採点や学習ログなどの分析など、学びの可視化や学力の評価に関する研究と実践においても、AIは力を発揮するでしょう。
学びの遅れとその回復とは、どういうことでしょうか。授業を進められてないのが「遅れ」で、国が特例的な年間指導計画を示してくれたら、それを遂行して「回復」というのでは、形骸化した履修主義と言わざるを得ません。授業を通して、何がどのような形で身に付いていれば学んだと言えるのかという問いに向き合い、学習成果に注目してそれを保障していく修得主義寄りで考えていくことが必要です。
コロナ禍を経て、格差を生じさせないためにも、子供たちが自分で主体的に学んでいけるようにすること、「自己学習力」や「自己教育力」の必要性が強調されています。 今回の学習評価改革でも、形成的評価研究の近年の動向を踏まえて、教師が評価を指導改善に生かす「学習のための評価」のみならず、学習者自身が評価を学習改善に生かしたり、自らの学習や探究のプロセスの「かじ取り」をしたりする「学習としての評価」の意義が強調されています。
主題単元の形で構成され、PBLを軸に展開する「総合的な学習(探究)の時間」は、研究的な問いや社会的な問題などを巡って、時に専門家や地域の人たちと共に探究を深めるものです。そこでは、活動を通して生み出される作品(レポート、論文、提案書、スピーチ、身体表現、演劇、アート作品など)のみならず、子供一人一人の個性的な探究の物語(学びの履歴)に着目して、その試行錯誤のプロセスの中に学びの価値を発見し、支援していくことが大事になるため、ポートフォリオ評価法の活用が有効です。
思考・判断・表現の評価方法として注目されるパフォーマンス課題は、「使える」レベルの思考を試すものです。それは、「問題のための問題」(思考する必然性を欠いた不自然な問題)に陥りがちな、学校での学習や評価の文脈をより真正なものへと問い直すものです。
「見せ場」づくりとして観点別評価を実施していくことは、資質・能力ベースの新学習指導要領が重視する、既存の教科の「当たり前」を問い直す実践につながります。これまでの教科学習では、単元や授業の導入部分で具体例的に生活場面が用いられても、ひとたび科学的概念への抽象化がなされたら、後は抽象的な教科の世界の中だけで学習が進み、元の生活場面に「もどる」(知識を生活に埋め戻す)ことはまれでした。
試合、コンペ、発表会など、現実世界の真正の活動には、その分野の実力を試すテスト以外の舞台(見せ場)が準備されています。そして、本番の試合や舞台の方が、それに向けた練習よりも豊かでダイナミックです。
「関心・意欲・態度」の評価は、さまざまな問題を抱えてきました。それは多くの場合、挙手回数を数えたり、ノートや提出物を点検したりといった具合に、取り組みの積極性や努力度、授業態度を対象としており、主観的にならないようにと、教師は証拠集めに追われがちでした。
「主体的に学習に取り組む態度」について、文科省「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(以下、「報告」)では、「単に継続的な行動や積極的な発言等を行うなど、性格や行動面の傾向を評価するということではなく.....
「思考・判断・表現」の評価は、「ペーパーテストのみならず、論述やレポートの作成、発表、グループでの話合い、作品の制作や表現等の多様な活動を取り入れたり、それらを集めたポートフォリオを活用したりするなど評価方法を工夫することが考えられる」(文科省「児童生徒の学習評価の在り方について」)とされており、「パフォーマンス評価(Performance Assessment:PA)」の有効性が示されています。
「知識・技能」の評価は、「ペーパーテストにおいて、事実的な知識の習得を問う問題と、知識の概念的な理解を問う問題とのバランスに配慮するなどの工夫改善を図るとともに、例えば、児童生徒が文章による説明をしたり、各教科などの内容の特質に応じて、観察・実験をしたり、式やグラフで表現したりするなど実際に知識や技能を用いる場面を設けるなど、多様な方法を適切に取り入れていくことが考えられる」(文科省「児童生徒の学習評価の在り方について」)とされています。
新たな3観点による評価の在り方について、「知識・技能」において事実的で断片的な知識の暗記再生だけでなく概念理解を重視すること、「主体的に学習に取り組む態度」において授業態度ではなくメタ認知的な自己調整として捉え直し、知識・技能や思考・判断・表現と切り離さずに評価することなどが強調されています。
今回の学習評価改革における大きな変化の一つは、小・中学校で実施されている観点別評価を高校でも本格的に実施することです。高校からは不安の声も聞かれますが、その中身をよく聞くと、毎時間のきめ細やかな授業観察を通じて「主体性」を評価するものとして、観点別評価が捉えられているようです。
「評価」という言葉を聞いて何をイメージするでしょうか。些細な仕草からその日の子供の心理状況を感じ取ったり、授業中の子供のつぶやきをキャッチしたり、教師は授業を進めながらいろいろなことが自ずと「見える」し、見ようともしています(見取り)。しかし、授業中に熱心に聞いているように見えても、後でテストしてみると理解できていないこともあります。
コロナ禍において、学びの遅れを取り戻すことが課題となり、とにかく授業を進めることが重視されました。加えて、密を避けるなど、グループ学習もままならない状況があり、アクティブ・ラーニングどころではなく、資質・能力ベースの新学習指導要領の趣旨はどこか忘れられてしまっているかもしれません。
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