教育創造研究センター所長
2021年度がスタートするが、学校は多くの難題を抱えることになった。前年度はコロナ禍のために、特に教科などの指導が十分ではなく、一部積み残しが生じたであろう。また、多くの行事などを取りやめただけでなく新教育課程の完全実施に向けて年間指導全般について立て直しが必要である。さらにコロナ禍の影響は残っていて、日常の子供の活動は十分に回復したとは言えない。
今年度の学校の指導計画はコロナの影響で修正・削除など、大幅な変更を強いられたであろう。通知表はどう変わったか。小学校は学習指導要領の改訂によって評価観点が従来の4観点から3観点である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」に変更された。そのため、通知表の大幅な改訂が行われている。
2020年度はコロナ休校による授業時間最優先のために、学校行事などの削減が大きかった。例えば、東京のある小学校は、どろんこフェスティバル、PTA自転車安全教室、企業体験、PTAデイキャンプ、水泳教室、中学校部活動体験、林間学校、地域行事を学ぶ会、ぶどう祭り、神社祭礼での鼓笛演奏、小中合唱交流会など、次々に取りやめにした。
ここに1冊の図書がある。『無理なくできる学校のICT活用』(長谷川元洋監修・著/松阪市立三雲中学校編著 学事出版2016)である。GIGAスクール構想が盛んに言われているが、その先駆けとして極めて参考になる図書である。この図書を私は最近知ったのだが、奥付をみると初版は16年で、その後版を重ねている。
コロナ休校中、多くの教師が気付いたことは家庭における学習格差であろう。オンラインを実施しても家庭が受け入れる機器に格差があっただけでなく、保護者の子供への生活や学習への関与に多様な傾向がみられたであろう。対面授業では表面化しない家庭の課題が教師の新たな教育の視点になったと考える。
新学習指導要領の完全実施がコロナ禍によって混乱状況にある中で、中教審は『令和の日本型学校教育』の構築を目指している。グレート・リセットを思わせるが、GIGAスクール構想の導入などによる学習のハイブリッド化を考えれば必然的な動きとして歓迎したい。その中心的な課題は「個別最適の学び」と「協働的な学び」である。
NHKの朝の連続テレビ小説「エール」の放送で古関裕而作曲の校歌が話題になるが、折口信夫の作詞の校歌を発見し、珍しかった。折口信夫と言えば、名前は知っていても、近寄りがたい国文学や民俗学者という印象が強いであろう。釈迢空の号を持つ歌人、詩人でもある。日経新聞の日曜版「美の粋」で、コロナ禍の最中、3月末から3回、「落日と浄土『死者の書』の謎を探る」が掲載された。
教育新聞編『FUTURE EDUCATION! 学校をイノベーションする14の教育論』(岩波書店)を読んだ。新聞紙上では断片的で印象の薄いものもあったが、今回は一挙に読み、それぞれが興味深かった。何よりもとても面白かった。冒頭は、ノーベル賞受賞者の野依良治氏である。氏は「今の教育に本気で怒っている」として教育の現状を断罪する。
2007年、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が実施され、沖縄県は最下位だった。学校関係者の落胆は大きかった。1972年に日本に復帰したあと全国学力テストがあって46位とかなりかけ離れて最下位だった悔しさから、国語と算数のワークを県教委が作るなどして指導に力を入れていたのである。その最下位が6年続いた。
中教審の答申『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して』の中間まとめを読んだ(初等中等教育分科会)。何よりも注目されるのは「日本型」とされる学校教育である。簡単にいうと、諸外国は知育は学校だが、徳育は教会や家庭などで、体育はスポーツクラブなど主に地域で育成されるが、日本はそれら全てを学校が担うとされる。
やはり心配だったことが起き始めた。休校で大幅な遅れとなった学習内容だが、今年度中に取り戻すことは不可能なことから、2年先までの指導で埋め合わせるとされた。しかし、教師の中には子供の理解はそっちのけで、ひたすら進度のみを気にしている教師がいるという。「先生一人で授業しているみたい」と、子供が言うほど「高速」で進む授業がみられると琉球新報(9月18日)は伝えている。
最近のコロナ感染者は徐々に少なくなりつつあるのだろうか。しかし、世界的にみると終息の気配はない。米ジョンズ・ホプキンス大学の「世界各国のコロナ感染者数(死亡数)」(日経新聞)を毎日見ているが、世界全体で感染者は1日二十数万人増加し、総数が3000万人を超えた。死亡数も100万人に迫ろうとしている(9月20日現在)。
『初等教育資料』(東洋館出版社)の最後に「NEWS」というささやかで目立たないページがある。その7月号を読んで目を見張った。「難民×地球の未来を守り隊」という4年生の実践である。それを1年間指導した神奈川県鎌倉市立小坂小学校の川坂俊一教諭は持続的な指導力がかなり高いのではないか。
2月29日に出された安倍総理の学校への休校要請への疑問が最近目立っている。確かに「要請」が「強制」と受け止められて、科学的根拠が不明確なまま、感染者のいない地域でも一斉に休校した。3月からの3カ月に及ぶ休校期間は学校教育に大きな損失をもたらした。残りの期間での回復は到底望めない。
子供が帰った教室を、学級担任が一人で黙々と掃除をし、そのあと一人一人の机や椅子などを消毒用の雑巾で丁寧に拭いていた。疲れがたまっている様子だった。だが、その後も、明日の6時限ある授業の教材研究や与えられた事務的な仕事をこなす必要があった。コロナ禍は教師に一層のストレスフルな状態をもたらしている。
今年度の学校は、年間指導計画などが大きく変わる、次々変わる実態に遭遇したであろう。極めて異例である。それが今なお続く。異例はたくさんある。通常、学校は3月末終了だが、そのゴールが確かであろうか。何よりも、終了に至る年間指導計画を作成するのが困難である。3密を防ぐための分散登校では、指導のロスが大きすぎる。
本紙に3回連続掲載された東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾教諭の「新しい自立的学習者」に注目したい。その理由は子供に必要な学習基盤を「一斉休校でも学びが止まらない子を育成する」として、教育実践の重点を設定していることである(本紙7月2日ほか)。また、新渡戸文化中学校の山本崇雄教諭はオンライン授業で育む自律型学習者を提示しているのにも注目したい(本紙6月29日)。
最近、コロナの影響で会社員が家などで仕事をするテレワークが急速に進んだ。働き方が大きく変わる可能性がある。わが国のICT教育も極めて遅れていた。OECDのTALIS2018が示した「ICTを活用させる指導を頻繁に行っている中学校教員の割合」であるが、48カ国中47位で17.9%、調査国平均は51.3%であった。
来年度の9月入学が見送りになって、今年度の残った期間で学年の指導内容の履修を行うことになった。しかし、3密を防ぐ分散登校が長引くなど内容の完全履修は無理で、文科省は次々年度まで繰り越しを認める指針を示している。年間指導計画を絶えず見直すことが必要になる。だが、最も影響を受けるのは、当然ながら小6・中3の卒業学年である。
大学入学共通テストで英語民間試験活用延期のみでなく、記述式も見送りになった。特に記述式は受験生の思考力を測る上で重要な意味を持っていた。最近発表されたPISAの調査で読解力が15位まで急激に低下した事実により、情報機器の使用に慣れていなかったという課題はあるものの、以前から日本の生徒は読解力が弱いという考えがさらに強まっている。
教育創造研究センター所長 髙階 玲治<hr />最近、学校の「当たり前」をやめよう、という声が強くなっている。学校の古い体質が残っていて、新たな教育実践の妨げになっている例を多く聞く。ただ、校長の同一校在職期間が短く、学校改善に十分注力できない状況があるのではないか。
中教審が「学校の働き方改革」を論議していたとき、「指導要録と通知表を連動させることが教師の勤務負担軽減につながる」という意見が出された。数年前から子供個々の学習状況をデータ化して、指導要録の記載事項を通知表にそのまま転記する電子化が進んでいた。ただ、「転記」すること自体はかなり前からみられたことである。
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