千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師
最終回は「勇者の旅」プログラムの展開についてお話しします。「勇者の旅」は、2017年以降に日本全国の学校で実施できる体制が整い、現在までに100以上の学校で実践されています(写真参照)。当初は小学生向けにワークブックを作成しましたが、中学校や高校からも実施を希望する声が増えたため、中高生向けのワークブックも新たに作成し、現在は中学校や高校でも実践されるようになりました。
ステージ5~7にかけては、認知行動療法の「認知」について扱っていきます。「認知」という言葉は小学生には難しいので、「勇者の旅」では「考え」と表現しています。
前回は、「勇者の旅」の授業で大切にしたいことについてのお話をしましたが、今回からは、各ステージで子どもたちが学ぶ内容について、2回に分けてご説明したいと思います。
私たちのこれまでの研究から、SCAS(スペンス児童不安尺度)のカットオフ値を超える子どもは約1割、つまり30人学級であれば約3人は高い不安を持つということが分かっています。
「勇者の旅」を開発した当初から、私は「このプログラムには本当に効果があるのか」「効果があるとすればどの程度なのか」に注目してきました。
「勇者の旅」と名付けた予防教育プログラムでは、子どもたち一人一人が勇者となって、「勇者城」を目指して旅をするというストーリー仕立てにすることで、興味関心を持ってもらえるよう工夫しました。
子どもたちのメンタルヘルスの問題に対し、認知行動療法を用いて「予防」するという発想は2000年ごろに誕生し、ここ20年ほどの間、西欧諸国を中心に数々の研究が行われてきました。中でも効果が高いとして世界的に有名になったのが、オーストラリアで開発された「FRIENDSプログラム」(以下、FRIENDS)です。
認知行動療法とは、不安やうつといった「感情(気分)の問題」を維持させている「認知」や「行動」の非機能的パターンに焦点を当て、それらが機能的なものへ変化するようクライエントをサポートすることで、気分の問題の改善を図ろうとする心理療法です。
不安は、誰もが抱く自然な感情です。私たちは、自分の身に危険が迫れば不安を感じます。もしも不安を感じられなかったら、身を守れずに危ない目に遭ってしまうでしょう。生きていく上で、不安を感じることはとても大切です。しかし、不安が強くなると、生活上のさまざまな問題に発展し、時には不安症(不安障害)と診断されることもあります。
初めまして。千葉大学の浦尾です。本連載では私が取り組んでいる、認知行動療法に基づく不安の予防教育プログラム「勇者の旅」(図参照)についてお話できればと思っています。第1回は、私がなぜ認知行動療法に基づく予防研究に取り組むようになったのかについてお話しします。
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