静岡市は、市の中心部にかつて徳川家康が大御所時代を過ごした駿府城公園があり、城下町として栄えた街並みが今も繁華街としてにぎわいを見せている。本校は、市の中心部からほど近い閑静な住宅街に位置する市内でも比較的規模の大きな学校である。
本校の学校図書館は、数年前に大規模な移転・改修工事を行った。それまで、学校図書館は、普通教室棟とは離れた特別教室棟に位置し、廊下にまでぎっしりと本が並んでいる上、子どもたちの導線上にないため利用する児童が限られていた。改修工事を機に、子どもたちの導線上に図書館を移転し、静岡市の目指す学校図書館の方針「学校図書館は全ての教育活動の基盤」を踏まえた学習センター機能を備えた新しい図書館づくりを目指そうとプロジェクトを立ち上げた。
これまでの学校図書館の現状と課題について見直し、「子どもたちが安心して読書活動ができる場作り」そして「先生たちが授業をしたくなるような図書館」をコンセプトに新図書館作りを行った。完成した新しい図書館は、木のぬくもりあるエントランス、木製展示架の配置・木製フロアの張替え、冷暖房完備・騒音吸収天井パネルの設置、温かな光の間接照明などにより、今まで以上に子どもたちにとってぬくもりあふれる読書環境となった。図書館完成後も、より授業での使いやすさを求めて改良を行っている。黒板に代わる可動式の大型のホワイトボードの設置、吊り下げ型の大型モニター・実物投影機などICT機器を導入し、授業での積極的な活用を図った。
GIGAスクール構想により1人1台端末が導入され、より学校図書館を活用した授業が行いやすくなった。本校でも、クロムブックが導入され、授業や学校生活、家庭学習などで頻繁に活用している。6年生の国語『海の命』(光村図書)においてICTを活用した授業実践を行った。この教材文では、主人公がさまざまな人たちとの関わりを通して生き方を学び、自己の生き方について考えを深めていくという教材である。子どもたちに「誰が一番、太一(主人公)の生き方に影響を与えているか」の問いを投げ掛け、フォームで回答させた。回答入力後、クラスの結果が瞬時にグラフ化され、大型モニターに映し出される。円グラフには、「おとう」と「与吉じいさ」の2人がほぼ同数という結果が示された。これに子どもたちは、驚きの声を上げた。
このように視覚化された情報の共有により気付きが生まれ、次の学習問題が派生する。また、記述によって選んだ理由についても入力させた。それをテキストマイニングにかけると、多用された単語がその数に比例した大きさの文字で表示される。画面には、命・殺す・生きる・海・瀬の主などの言葉が大きく表示された。ここから、子どもたちは、「おとう」も「与吉じいさ」も海で生きることの意味、魚の命をめぐる生と死についての考え方に共通点があることに気付いた。個別の学びで自分の考えを構築し、全体での話し合いを通して協働的に学んでいく過程がこの授業で見られた。
単元の後半では、「生き方を見つける本と出合う」という活動を行った。学校司書が、「生き方を見つける」というテーマでブックトークを行った。さまざまな角度から「生き方」を考えた数冊の本を紹介し、そのうちの一冊の読み聞かせを行った。実物投影機を活用し、本の表紙やページをモニターに映しだした。子どもたちは、司書の読み聞かせの声を聞きながら本の挿絵や文も楽しんで聞くことができた。ブックトークのあとは、司書に紹介された本を手に取って見たり、自分で図書館の書架を見て回って本を探したりした。学校図書館では、ICT機器の活用と同じくやはり本の活用も欠かせない。図書館で授業を行う利点は、身近に本があること、本について話を聞くことができる司書がいることであると感じた。
学校図書館の改修を機に、子どもたちにとって読書しやすい環境を提供し、学習に活用しやすい図書館作りを行うことができた。さらに、さまざまな授業場面で学校図書館を活用していくことが求められている。今後も子どもたちの豊かな心を育み、学びを深めていくために「学校図書館×ICT」のベストミックスなあり方について考え、実践を重ねていきたい。
(前静岡市立横内小学校司書教諭・柴田雅子)