一般社団法人髙橋聡美研究室代表/中央大学人文科学研究所客員研究員
リストカットや大量服薬など、自分を傷つける行為を繰り返す子どもと出会う機会は意外と多い。自傷行為は10人に1人の若者が経験しているとされ、教育現場でも非常に身近な問題である。
子どもの自殺の原因は不明のケースが最も多く、何の兆候もなく、ある日突然亡くなる子も少なくない。教育現場にいると「死にたい」と直接的な表現で訴えてくる子どもより、「この子は死にたいと思っているのではないか」と思われる子どもと出会う方が多いように感じる。
SOSの出し方教育の中で「3人目までの大人に相談して」と児童生徒には伝えている。「1人目の大人が『君だけではない』と話を聞かなくても、2人目の大人が『あなたの頑張りが足りないからだ』と言っても、3人目まで諦めないで。あなたを守りたいと思っている大人は必ずいるから」と。
2016年から全国の小中高校で自殺予防教育の授業を行ってきた中で、学校側から「自殺という言葉を使わないでください」との要望を受けることは意外と多い。学校で自殺などについて取り扱う場合は、保護者の同意を必要とする学校も少なくない。自殺予防教育を行うには、まず「死を教材にできるか」が障害となる。
子どもの自殺が減らない中、2016年に自殺対策基本法が改正され、若年層の自殺対策が重要課題となった。その17条3項で、「学校は(中略)児童、生徒等に対し、(中略)困難な事態、強い心理的負担を受けた場合等における対処の仕方を身に付ける等のための教育(中略)心の健康の保持に係る教育又は啓発を行うよう努めるものとする」と、自殺予防教育の努力義務化が示された。
子どもの自殺の多くは遺書などが残っておらず、原因が分からないものである。「前の日まで普通に(むしろ明るく)過ごしていた」「家庭にも特別問題はなかった」という子が何の前触れもなく自殺することも多々ある。残された人たちは「なぜ」という答えのない問いに苦しむ。
子どもの自殺の多くは、「原因が分からない」ものである。遺書が残っていないことや自殺をほのめかす言動がないこと、家庭環境に問題がないことも多々ある。自殺の原因は一つではなく、その子自身の個別の問題、家庭の問題、学校の問題などさまざまな要因が重なっている。
日本は教育・医療・福祉の制度が整っており、世界の中でも裕福な国の一つである。ユニセフの子どもの幸福度調査によると、先進国38カ国の中で、日本の子どもの幸福度は20位となっている。詳細を見ると、「身体的健康度」は世界で一番良い状態であった。身体的健康度は子どもの死亡率と肥満度が指標となっている。
コロナ禍における若者の自殺の急増について、厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センター(以下、自殺対策推進センター)は、「著名人の自殺及び自殺報道の影響」をその要因として挙げている。自殺報道の影響を「ウェルテル効果」と言う。自殺が大きく報道されたり、自殺の記事が手に入りやすかったりする地域ほど自殺率が高く、その影響は若年層が受けやすいことが分かっている。
2006年に自殺対策基本法が制定され、それまで「個人の問題」とされていた自殺を「社会の問題」と捉えた取り組みがなされ、3万人台だった自殺者数が2万人台に減少した。これらの自殺対策は一定の効果があったと評価できる。一方で、我が国の自殺対策は中高年男性を中心に進められ、女性と若者・子どもの自殺対策は後回しにされてきた。
広告ブロック機能を検知しました。
このサイトを利用するには、広告ブロック機能(ブラウザの機能拡張等)を無効にしてページを再読み込みしてください