リストカットや大量服薬など、自分を傷つける行為を繰り返す子どもと出会う機会は意外と多い。自傷行為は10人に1人の若者が経験しているとされ、教育現場でも非常に身近な問題である。
自傷行為のある若者の診療に当たっている松本俊彦氏のデータによると、死にたくて行う自傷は全体の約18%にすぎない。多くの自傷行為は不安や不快なことから一時的に逃れる一種の気分転換のために行われており、死にたくてやる「自殺行為」とは異なる。
自傷行為がなぜ気分転換として機能するのか。人は大きなけがをしたときに痛みを感じないことがある。人の体は痛みを感じるときに脳内麻薬が分泌され、リストカット時も脳内麻薬が分泌されていることが分かっている。リストカットをした子に、その後どんな気持ちになるかと尋ねると、ほとんどの子が「すっきりした」と言う。きっかけは親や友人とうまくいかないなどで、不快への対処としてリストカットを行っているのである。脳内麻薬は依存性があるため、回数が増えたり傷が深くなっていったりする。家だけで済んでいたものが次第に学校のトイレなどでも行うようになり、大人の知るところとなる。
近年、市販の風邪薬の大量服用が急増し、前述の松本氏の依存外来に通う10代の若者の薬物依存の約6割は市販薬が占めるという。今や子どもの薬物依存のメインは市販薬なのである。風邪薬には中枢神経を興奮させたり鎮静させたりする成分が入っている。私たちがここぞと踏ん張るときなどに栄養剤を飲むように、子どもたちは学校に行くのがしんどいときなどに風邪薬を飲んで元気を出し、登校しているのである。
そうした子は学校には来ているし、リストカットのように目には見えないので、大人は気付きにくい。内服を続けるうちに耐性ができ、少しの量では効かなくなるため、2倍、3倍と徐々に服用量が増加していく。風邪薬は合法薬物である上、どこに住んでいても手に入りやすい。市販薬の乱用問題については、大人たちも理解を深め、予防に努めたい。
自傷行為と大量服薬、共通しているのは、①何か生きづらさを抱えている②ストレスの対処として行っている③依存なので「やめなさい」と言ってやめられない――という点である。
自傷行為や大量服薬をしている子に対し、頭ごなしに「やめなさい」と言っても子どもを窮地に追い込むだけである。まずはどんなときに自分を傷つけるのか、何に困っているのかをじっくり聞いてほしい。
(おわり)