法政大学社会学部准教授
最終回の第10回では、これまでデータで示したことを踏まえ、公教育が果たすべき役割について論じる。 本連載で扱ってきた教育格差とは、子どもにとって選択の余地なく決まってしまう保護者の社会経済的地位(SES)といった「生まれ」によって生じる不平等であった。この定義から言って、教育格差を子どもの自己責任に帰することはできない。
本連載ではこれまで、さまざまなデータを紹介しながら学校におけるICTの導入や利用が教育格差と結び付いていることを示してきた。これらは、ICTが教育格差を広げていることを因果的に示すわけではない。明らかになったのは、ICTを教育利用する機会が、現時点において児童生徒の「生まれ」に一定程度制約されているという事実である。
第8回では、2021年5月末に実施された「全国学力・学習状況調査(以下、全国学テ)」の公表情報を用いて、ICTと格差に関わる現在進行形の問題を、限定的ではあるが論じていくことにしたい。
新学習指導要領は、小学校で2020年度、中学校で2021年度、高校で2022年度実施となっている。感染症の拡大は、まさにこのタイミングと重なっていた。
2020年の全国一斉臨時休業後、ICTの教育利用に対する世間の関心は一気に高まった。だが、「GIGAスクール構想」の前倒しや経産省の補助金事業などの後押しにもかかわらず、ICTの教育利用が思ったほど進んでいないという報道も数多く見られた。
第4回では、児童生徒の家庭のICT環境が学校ごとに異なっており、そこには教育格差が結び付いていることを確認した。このことは、2020年2月末に臨時休業へと突入した際、そもそもの初期条件に学校間の格差があったことを意味する。この点を踏まえ、第5回では臨時休業時に実施されたオンライン授業と教育格差の関連を検討する。
本連載の第3回では、日本はコロナ禍以前、学校におけるICTの教育利用に消極的な国であったことが分かった。この事実を踏まえ、第4回では2020年度の急なICT利用に対応できたのはどのような学校であったのかを考えるため、コロナ禍前夜の2019年における児童生徒の家庭のICT環境に注目したい。
前回解説したように、ICTを操る情報活用能力は、これからの社会に必要な学習の基盤となる資質・能力の一つとして位置付けられている。ところが、日本はICTの教育利用において後進国であるという認識が示されてきた。この根拠として文科省が挙げているデータの一つが、OECDが15歳の生徒を対象に3年ごとに実施するPISA(生徒の学習到達度調査)の2018年版である。
前回も触れた通り、ICTの導入はコロナ禍に対応するために突如要請されたわけではない。第2回では、新学習指導要領においてICTにどのような役割が与えられており、そのための環境整備がどう進められる予定であったのかを振り返る。
2020年2月27日、政府は新型コロナ感染症の感染拡大に伴い、全ての学校に対して臨時休業の要請を出した。当初、この休業は新学期が始まるまでの緊急避難的な措置として受け止められていた。ところが、春休みが明けてもコロナ禍は収束せず、全国の小中高校生の大半が5月末まで、通常の登校ができない状況に置かれた。
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