大阪市立生野南小学校主務教諭
義務教育最後の年。子供たちは抽象的思考が育ち、自身の生い立ちを俯瞰して見つめることができる。さらには、親の背景にまで想いをはせることもできる。それが15歳である。ここに、児童虐待に真正面から向き合う実践を置いた。
自分だけを見てほしい――。青春時代に抱く淡い恋心が、誰かを傷つけることのないように、ここでは支配的な言動を法的な視点から否定し、両者にある「依存」に焦点を当てていく。
疾風怒濤(どとう)の思春期。心身の機能や性的な発育が目覚ましいこの時期、理性では抑えきれない心の揺れを、「脳機能」という視点で科学的に捉えていく。
「普通の人ができひんことを乗り越えて頑張ってきた。それを誇りにして生きていったらいい」 授業の中で、一人の児童が友達に贈った言葉である。受け取った児童は「心に刺さった。心の傷と向き合っていくのは不安やけど、自分一人じゃないと思えた」と語った。
高学年では、「人」と「人」との関係性について考えていく。親友、恋人、夫婦、親子など、一対一の特別な関係だからこそ起こる葛藤をテーマとし、異性への関心が高まりだすこの時期に、「恋愛」について学習する。
10歳。思春期の入り口に立ち、愛着に課題のある子供たちの心が揺れ始める時期だ。日常生活のふとした瞬間に、記憶の片隅にある母親のことを語り出したり、なぜ自分はここ(施設)にいるのかと問い掛けてきたりする。この時期の心の揺れの放置が他傷・自傷という形で表れていたのが、かつての「荒れ」であった。
3年生では、ライフストーリーワーク(LSW)の中間地点として、「子供」について学びながら「今の自分」と向き合う。 第一次で「子どもの権利条約」にある40の条文を提示すると、「守られてへんわ…」とつぶやく児童が毎年いる。この授業はここからがスタートである。
小学2、3、4年生における実践理念は、「ライフストーリーワーク(LSW)」にある。社会的養護のもとで暮らす子供たちの中には、生い立ちの記憶に空白があったり、離れて暮らす親を美化したり、自分を責めたりするケースが少なくない。本校では過去・現在・未来を紡ぐ心理治療教育の一環であるLSWを、大阪ライフストーリー研究会に学び「『生きる』教育」に取り入れている。
子供たちの「当たり前」は、本当に安全・安心であるか。そう問い掛けることから本校の実践はスタートする。 第一次では、教材を通し「おかしい」や「はずかしい」の基準を対話の中で丁寧に確かめていく。「危険」「不安」「不潔」を正しく判断していく中で、生活経験から成る価値観を再構築すべき児童もいるからだ。
対人関係による要医療件数が31件にまで上った2014年、現状を断ち切る第一歩として、「暴力をことばに」をテーマに国語科研究をスタートさせた。当時、子供たちにとって「ことば」は、人を傷つけたり、自分が否定されたりする凶器のようなものであった。
9年前、本校に赴任して受け持った5年生。始業式があった週の金曜日にいきなり洗礼を浴びた。朝学習時の男子児童の性的な逸脱行為。今でも鮮明に覚えている精神的ショック。あれこそが児童の「Trauma」を受けとった瞬間だったのだろう。
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