自分だけを見てほしい――。青春時代に抱く淡い恋心が、誰かを傷つけることのないように、ここでは支配的な言動を法的な視点から否定し、両者にある「依存」に焦点を当てていく。
心理学者の伊藤明氏によると、「恋愛=アタッチメントの再形成」となるケースが少なくないという。幼き日々に失われた愛情を埋めようとし、どんなにつらくても象徴的親(恋人)からは離れがたく、心理的境界線がうまく引けないことがある。
今、生徒たちに人気のドラマや漫画には、容姿端麗なヒーローの支配的な言動が描かれている。好きな人に所有される感覚にときめく女子の隣で「まったく分からん」と嘆く男子もいるが、DV被害者のインタビューから、一斉に現実の世界に立った。好きな人からの暴言・暴力を一時でも許せてしまう理由を脳科学から迫り、男女共同参画局が提示しているDVの定義に触れることで、社会問題として捉え直す。
グループワークでは、たくさんのDV事例を、身体・精神・経済・性の暴力や社会的制限に分類する。分類しきれない事例は、どこにダメージがくるのかを話し合い、被害者の視点を深める。また、加害行為には法的罰則(DV防止法・ストーカー規制法・刑法・民法)が課せられることも伝え、「恋愛だから二人の問題」となりがちな思考にストップをかける。
ここまでの学びを活かし、あるカップルのストーリー(漫画)からDVを見つけ、ひどい目にあっても離れられない被害側の深層心理に迫る。14歳の生徒たちから、両者の「依存」という答えがズバリ出てきた。イライラ期→爆発期→ハネムーン期の負のスパイラルを、説明せずとも理解していたようで、ドキリとさせられた。同時に「自分だけを見てほしい」という加害側の感情の表現方法をどう修正すべきか、検討する。心の中で何を思うかは自由だが、相手を傷つけることは絶対に許されない。
「相手のことをよく知る」「ワンテンポ置く」「二人で相談してルールを決める」など、生徒たちはどんな相手でも大切にすべき相互尊重の理念が、恋人同士にこそ必要だと理解していた。思春期の今だからこそ、親密な相手に対する本心と行動とを冷静に分けて考える必要がある。その上で、本能と理性を埋める「人を想うルール」を見いだす必要がある。
いつか、本当に大切だと思える人に出会ったとき、寂しさを埋めるために傷つけ合うのではなく、幸せを自分の力で生み出し、分け合えるようなパートナーシップを築いてほしいと願う。