東大教授・慶大特任教授
昨年12月に公表された「国際学習到達度調査(PISA)」の結果で、日本の子どもたちの学力は世界トップレベルだった。これを高く評価した上で、日本の課題をみると、文部科学省はあまり強調しないが、日本の保護者の子どもに対するケアは調査対象81カ国で最も乏しかったことが挙げられる。子どものウェルビーイングを高めるためには「保護者教育」が必要なことが明らかになった。
教員のなり手不足が深刻化する中、文科省は教員養成を担う大学に教育委員会との連携強化を促している。本来ならば、大学や教職大学院は、文科省に言われたから改革に取り組むのではなく、優秀な教員の確保のために何が必要なのかを誰よりも先に考えて、総合的に解決するパッケージ案を地元の教委に提案すべきだ。それができてこそ、頼りになる教育学者と言われるのだと思う。
GIGAスクール構想で全国の小中学校に整備された1人1台の学習者用端末の更新費用について、文科省は8月末にまとめた2024年度予算概算要求に148億円の新規要求を盛り込んだ。教育ICT議連有識者アドバイザーグループの調べでは、24年度には先行して端末整備を進めてきた約8%の自治体が更新時期を迎える。
学校現場での生成AIの活用を巡り、文科省は7月、児童生徒の利用については「限定的な利用から始めることが適切」とするガイドラインをまとめた。私は、学校現場において、ChatGPTなどの生成AIは本来、教員の教え方や子どもの学び方を改革するために使われるべきだと考えている。その時に留意すべき観点を2つ挙げたい。
学校の働き方改革を巡り、教員の職務の特殊性を理由に教職調整額として給与の4%を上乗せする代わりに時間外手当を支給しないとする給特法の改廃が大きな焦点となっている。文科省が6年ぶりに実施した教員勤務実態調査の速報値が近く公表され、この制度改革の議論は一層加速するはずだ。だが、ちょっと待ってほしい。
「異次元の少子化対策」を掲げる岸田文雄首相は2023年の年頭に3つの基本的方向性を示し、小倉将信こども政策担当相に3月末までに具体的なたたき台を取りまとめるように指示した。3つの基本的方向性には、児童手当を中心とする経済的支援の強化、幼児教育や保育サービスの強化や子育て家庭へのサービス拡充、出産と子育てを支える働き方改革の推進がうたわれている。
2023年を迎え、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が少しずつ始まっていくことになる。公立教育がこのまま形式的平等主義に基づく一律一斉型の学校運営を続け、文科省がこれまでと同じように10年に一度の学習指導要領の改訂作業を淡々と行うのであれば、不登校の児童生徒はさらに増え、経済的な条件が許す家庭の子供は私立学校への進学をますます選んでいくだろう。
新型コロナウイルス感染症の出口が見えてきたのかと世界の人々が落ち着き始めたところに、ロシアによるウクライナ侵略という想定外の事態が起きた。安全保障上の問題はエネルギー危機から世界的な物価高につながり、いまでは食糧危機にまで波及してきている。コロナ禍とウクライナ危機を通して、われわれがいま痛感しているのは、世界がどんどん深くつながってきていることではないか。
昨年、全国の小中学校にタブレットなどの情報端末とWi-Fiによる通信環境が整備されたけれども、今度はそれらICT機器の使いこなし方を巡って、大きな格差が付いている。極端なことを言えば、まだ箱に入ったまま封を開けてないという学校や、生徒にそうさせている教師がいる。プレインストールされたコミュニケーションツールだけを使っている学校もある一方、いわゆる教育支援ソフトが入っている学校も多い。
コロナ禍が長期化する中、家庭環境の違いが教育格差を広げる懸念が一段と大きくなってきている。家庭の通信環境やパソコンに対する保護者のリテラシーの違いによっても、子どもの学習環境に差が出てしまう。教育基本法には「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と書いてあるが、現実には、十分な家庭教育を受けられない子どもは存在している。
中央教育審議会(中教審)を舞台に教員制度改革の議論が本格化してきた。しかしながら、制度改革は万能ではなく、それだけで改革が進むわけではない。改革には、「ルールの改革」と「ロールの改革」、そして「ツールの改革」がある。この3つの最良の組み合わせができたとき、改革が実現する。教員の人材確保や働き方を含めた教員制度改革を成功させるためには、3つの改革をうまく組み合わせる必要がある。
長年、先送りされてきた教員制度改革がいよいよ動き出した。教員制度改革の最も重要なテーマは、教員志望者が激減しており、それが教員の質の低下に直結しかねない、ということにある。背景には民間企業との採用の競合があるのだから、教員の採用について、もっと根本的に考え直さなければならないのだが、この点で教育関係者の認識はまだまだ甘いと言わざるを得ない。
3.11から、もうすぐ10年になる。東日本大震災が発生したとき、私は教育担当の文科副大臣だった。直ちに対策本部が立ち上がり、地震、津波、原子力発電所の情報が刻一刻と上がってくるようになった。発生当日、東京ではまず、帰宅難民への対応に追われた。都立高校や国立大学だけでは足りなくて、都心の私立大学にも施設を開放していただくようお願いした。
GIGAスクール構想によって全国の公立小中学校で1人1台端末が整備され、2021年は多くの学校現場にとってICT元年となる。ここで考えておくべきテーマは、大きく分けて2つある。ひとつは、公立と私立や市町村間の格差をどうやって解消し、全体の底上げを図るのか。もうひとつは、トップクラスのベストプラクティスをさらに積み上げていくために何をするのかである。
高校と大学入試の改革をリデザインすることが求められている。昨年11月に大学入学共通テストの英語民間試験が見直しになり、記述式問題の導入も見送られたあと、新型コロナウイルス感染症が拡大し、その過程で秋入学議論も再び浮上した。あれから1年がたち、今後の方向性を見定めるべき時期が来ている。ただ、文科省と中教審は、考え抜いた高大接続改革が否定されてしまったのだから、代案は出せないだろう。
文科省が来年度予算の概算要求に、少人数学級の実現を盛り込んだ。1学級当たりの生徒数を減らせば、それに見合う教職員の確保が必要になる。現在の教員定数は、児童生徒数の自然減に合わせ、教職員数も機械的に減らしていく仕組みになっているが、文科省はこれを現行水準の教職員数を維持するように変更し、財政負担を増やさないようにしながら、児童生徒に対する教職員の割合を改善していこうと考えている。
GIGAスクール構想による1人1台端末の実現が近づき、デジタル教科書の導入がいよいよ進む見通しになった。言うまでもないことだが、デジタル教科書は、紙の教科書をそのままタブレット端末で読めるようにしただけでは導入する意味がない。文科省は検討会議を月1回のペースで開き、デジタル教材との連携や教科書検定、無償化との関係など、デジタル教科書の定義と範囲を改めて整理し直そうとしている。
GIGAスクール構想の前倒し実施によって全国の自治体の97%が7月1日までに国への補助申請を行い、全ての小中学生に1人1台端末が年度内にも整備される見通しになった。このハード面の進展に伴い、文科省では、学習履歴(スタディ・ログ)といった教育データの標準化やデジタル教科書など、GIGAスクールの実現に欠かせないソフト面の整備を本格化しようとしている。
私は4月から毎週、1000人が参加するオンライン授業を大学でやってきて、だいぶノウハウがたまってきたと感じている。私が勤務する大学では、学ぶ側の学生たちにもオンライン授業が定着してきたと思う。加えて、一部の高校生もZoomを使いこなしている。
日本をはじめアジアの国々では、学校に児童生徒を集め、先生の監督下でいわゆる勉強をやらせてきた。学習ではなく、「勉めて強いる」意味での勉強と言った方が実態に合っている。本人の学ぶ意欲はさておき、学校に集めて勉強させることによって、日本の児童生徒の学力は世界的に大変高い水準を維持してきた。
教員採用倍率の低下は、大変深刻な問題だ。特に都会では、民間企業との人材の取り合いになっている。そもそも有望な若者に教員が忌避される傾向もある。大学1年生として入学したときには「教員になろう」と教員免許の取得を志していた学生が、3年生と4年生になるうちに教員志望をやめたり、教育実習や採用試験を受けなかったりする。
全国の児童生徒に1人1台のパソコンが整備される。「公正に個別最適化された学び」を実現しようと思った時、インターネットに接続したパソコンというインフラは不可欠だ。このときに、教師が分かっていなければならないことが2つある。
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