来年4月のこども基本法の施行や、12年ぶりとなる生徒指導提要の改訂作業を受けて、子ども政策に関わる団体代表者や研究者らで構成される「こども基本法の成立を求めるプロジェクトチーム(PT)」は8月24日、学校での子供の人権・権利侵害の実態調査や、不適切指導への懲戒指針の整備・厳格化など、子どもの権利を学校内外の教育・学習活動で実現するために必要とされる施策を整理した要望書を公表した。文科省内で同日会見したPTメンバーの一人、日本大学の末冨芳教授は「こども基本法は、子どもの権利が浸透するための大変重要な足掛かり。学校においてこそ、しっかり実現させなければいけない」と訴えた。
子どもの人権・権利侵害の実態調査などを求めて開かれたPTの会見
要望書では、教育基本法に加えて、こども基本法が整備されたことについて、「双方で子どもの権利を基盤とし児童生徒の教育・学習活動を豊かに支えることができる法体系が整備されたことには大きな意義」があると高く評価。「児童生徒一人一人の権利が尊重され、『個別最適な学び』を実現する教育・学習活動の中で、人格や個性を伸長するためには、学校・園や地域で、児童生徒に関わる大人が余裕のある体制の中で丁寧に関わることが重要になる」として、教員配置の拡充やスクールソーシャルワーカー(SSW)、スクールカウンセラー(SC)といった専門職の常勤化、部活動指導員や放課後子ども教室など放課後や休み時間も含めた手厚い人材配置と予算配分を求めた。
その上で、具体的にとるべき施策について、①国の計画・指針整備②子どもの生きる権利・守られる権利③子どもの学ぶ権利・育つ権利④子どもの意見表面権・参画する権利――の4つに整理した。
国の計画・指針整備に関しては、子どものウェルビーイングを重視する方向で策定作業が進んでいる次期教育振興基本計画について、こども基本法・子どもの権利の位置付けを求めた。その際には、こども基本法や子どもの権利について、教員・児童生徒の認知率や内容の理解度、園や学校での子どもの権利に関する教育活動実施率の指標化が重要とした。
子どもの生きる権利・守られる権利に関しては、「体罰や不適切指導といった子どもの人権・権利侵害の実態把握は、教員を対象にした調査だけでは過少報告される懸念がある」と指摘。児童生徒や保護者を対象とした調査も行うべきだとした。その際、教員による権利侵害が深刻化しやすいとして、部活動も調査対象とするよう求めた。
要望書では「国・自治体が足並みをそろえて、児童生徒や保護者への調査を行うことで、教員への(不適切指導の)抑止効果がある程度は期待される」とする一方、改善が見られない場合は、体罰の禁止のみが規定されている学校教育法第11条について、児童虐待や不適切指導の禁止も加えることも検討すべきだとしている。また生徒指導提要の改訂を受けて、不適切指導を行った教員への懲戒指針の整備・厳格化について、文科省が各教委や学校法人に通知することも求めている。
このほか、中教審や地方自治体の総合教育会議、教育大綱・教育振興基本計画の策定に際して、児童生徒が意見表明し、その意見を反映していく取り組みが必要とした。意見表明や参画については、単に児童生徒にアンケートをするだけではなく、検討会議などでの意見表明など「責任ある参画」も含めた。加えて、子どもの意見表明を弁護士や研究者などの専門家がサポートする体制づくりも重要とした。
会見で、末冨教授はこども基本法について、「子どもの権利を基盤とした教育目的が実現できることで、より豊かな学びの場、そして子供たちにとって安全・安心な学びや部活動、地域の活動ができるはず」と期待感を示した。一方で、「一番気にしなければならないのは、教員の不適切な指導によって、子供たちの命が奪われたり、不登校に追い込まれたりするような学校現場であってはならない」と訴えた。
PTでは、今後、要望書を文科省に提出するとしている。