教員の不適切な指導により自死に至ったとする児童生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」は8月24日、文科省内で記者会見し、12年ぶりの改訂に向けた議論が続けられている生徒指導提要について、同省が7月に示した素案に盛り込まれなかった生徒指導の手順について記したチャート図の復活や、不適切指導の具体例として部活動以外の事例の追加などを求める要望書を提出したことを明らかにした。遺族の一人は涙を浮かべながら、「不適切指導で亡くなってしまう子供は、教員や大人の努力で減らしていけるもの。不適切指導の存在をはっきりさせることで、基準が明らかになり、安心して指導ができるようになるのではないか」と訴えた。
現行の生徒指導提要に記載されたチャート図
要望書は8月9日、文科省に提出した。2010年3月に公表された現行の生徒指導提要では、生徒指導の進め方のチャート図が留意点とともに記載されている=図表が、7月22日に文科省が示した修正素案では載せられていなかった。このため、要望書では「生徒指導の進め方を図式等で分かりやすく解説されることは、生徒指導を冷静に進め、適切な教育を児童生徒に届けるために大変重要な役割を果たす」として、チャート図を復活させることを求めた。
生徒指導提要の改訂について要望を訴える遺族
加えて、指導後に行方不明になり、その後自死に至っている事案があることから、「指導後に一人にしない」「なだめ役の教員を用意する」や「保護者に迎えに来てもらう」といった、指導後の対応を加筆することを要請。遺族の一人は「ちゃんと手順を守って、適切な教育的効果のある指導を行うことは、教員たちの忙しさを軽減することにも貢献すると思う」と述べた。
文科省の修正素案では、「不適切な指導」という文言を目次に追加し、不適切指導が不登校や自殺のきっかけになる場合があることを、福井県池田町で17年に発生した自死事案を事例に挙げて記載している。これについて、遺族側は「過去事案が盛り込まれることはありがたい」と評価する一方、「修正素案では、不適切指導は部活動の問題と読める内容になっているが、担任などによる日常の生活指導に関するものも多くある」と指摘し、さらなる具体例を盛り込むことを求めた。
盛り込むべき不適切指導の具体例として、①児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する②組織的対応をせず、一人の教員の判断で指導する③他の児童生徒の面前や、密室等の圧迫感のある場所で指導する④大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で叱責する⑤過去の指導内容まで引き合いに出してあれもこれも指導する⑥なだめ役を作らず複数人で威圧的な指導をする⑦指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる⑧児童生徒に連帯責任を負わせる――を挙げた。
その上で、「生徒指導において、事実確認時に注意すべきは児童生徒の問題行動の有無。問題行動をしているという思い込みによる不適切な指導は、児童生徒の心を傷つけ、自尊心情を低下させ、自死の危険にもつながる」といった解説を加えることで、より安全性が高まるとした。
遺族の一人は「思いやりがいかにあっても、不適切な要素が無自覚に混ざることで、子供が死んでしまうことがある」と述べ、不適切な指導を教員がイメージしやすいように、生徒指導提要を改訂することが大切だとの考えを示した。
このほか、不適切指導をなくすために、今後望むこととして、▽不適切指導の発生件数の全国的な一斉把握▽不適切指導に対する教員への注意や処分に、全国一律の基準を設ける▽調査委員会の調査対象に不適切指導を入れる▽子供、教員、保護者が不適切指導について学べる機会の確保――を挙げた。
会見には、不適切指導により自死したとされる児童生徒の遺族5人がオンラインも交えて参加。遺族の一人は「教員は自分の指導を正しいと思っている。不適切な指導で未熟な子供に引き金を引いてしまうことがある。教員が生徒指導提要をきちんと理解すれば、不適切指導はなくなっていくと思うので、全ての教員は生徒指導提要をよく読んで適切な指導を行ってほしい」と訴えた。
会見は子供政策に関わる教育関係者で構成される「こども基本法の成立を求めるプロジェクトチーム」と国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」と合同で開いた。