デジタル教科書、英語から導入 シンプルな機能、紙も併用

デジタル教科書、英語から導入 シンプルな機能、紙も併用
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 デジタル教科書などを活用した、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実について検討している中教審の「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(WG)」は8月25日の第5回会合で、2024年度のデジタル教科書の本格導入にあたり、小学5年生~中学3年生の「英語」から優先的に導入するなどの中間報告案を大筋で了承した。同時に「デジタル教科書自体はシンプルで軽いものとする」「当面の間はデジタルと紙を併用する」などの方向性も盛り込まれた。中間報告案は同会合で出た意見などを踏まえ、堀田龍也主査(東北大学大学院情報科学研究科教授、東京学芸大学大学院教育学研究科教授)の一任で修正などを行い、上位会議の特別部会に報告される見通し。

第5回会合を進行する堀田主査(Zoomで取材)

 文科省がこれまでのWGでの議論を踏まえ、今回の会合で示した中間報告案では、GIGAスクール構想の下でデジタル教材などの導入が進んでいることを踏まえ、「今後も教科書が『質が担保された主たる教材』としての役割を果たしつつ、教科書のデジタル化により、デジタル教材などとの接続や連携強化を図ることが学びの充実につながる」と指摘した。

 また「デジタル教科書自体はシンプルで軽いものとし、デジタルの強みを生かして、他のさまざまな教材やソフトウェアと効果的に組み合わせ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る」と明記。障害のある児童生徒や外国人児童生徒にも使いやすいアクセシビリティなどの機能は継続・充実しつつ、ビューアの標準化を図ることや、データの軽量化、音声・動画などデータの分離配信が必要だとした。

 その上で「通信面や指導面での課題も踏まえ、デジタル教科書の円滑かつ効果的な活用の観点から、教科・学年を絞って24年度から段階的に導入すべきではないか」として、小5~中3を対象に「英語」を導入し、その次に現場ニーズの高い「算数・数学」を導入するという方向性を示した。

 また、紙の教科書との併用については「デジタル教科書への慣れや児童生徒の学習環境を豊かにする観点から、児童生徒の特性や学習内容等に応じてハイブリッドに活用していくべきではないか」と指摘。「予算面も考慮しつつ、慣れには少なくとも数年は必要であり、当面の間はデジタルと紙を併用する」とした。

 さらに「デジタル教科書・教材などの活用が、いわゆる『デジタル一斉授業』に留まることなく、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通して、児童生徒が主体的に学びを選択し、自立した学習者になっていくことが重要であり、学校・教師へのモデルづくりを含めた伴走支援が必要」と指摘。また「学校間・自治体間で教育環境に格差が生じることのないように、デジタル教材や学習支援ソフトウェアなどの支援の検討が必要」とした。

 引き続き検討を要する論点としては▽教師側の一方通行の授業からの転換を図るための学習指導や生徒指導などの在り方▽国や自治体による、モデルづくりを含めた学校への伴走支援▽客観的な効果検証の観点▽ネットワーク環境や教科書・教材などのコンテンツの充実を含む、学校内外の環境整備の在り方▽デジタル教科書・教材等の学校外での活用の在り方――が挙げられ、こうした課題について上位会議である「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」で、議論を継続する方針が示された。

 スケジュールや優先して導入する教科について委員から大きな異論はなかったものの、中川一史委員(放送大学教養学部教授)からは「(英語の次には)国語を候補に挙げるべき。特別な配慮を必要とする児童生徒、特に外国籍の児童生徒には、言葉を修得する最たる教科である国語のデジタル教科書が有効、かつ必須である場面を見てきた」との意見も出た。

 「デジタル教科書はシンプルで軽いもの」という設計については、黒川弘一委員(教科書協会デジタル教科書政策特別委員会座長)が「内容自体は紙の教科書と同一のため、正確には機能がシンプルで、容量の軽いものとご理解いただきたい。近く教科書協会作成のガイドラインで標準となる容量を具体的に示し、対応する予定だ」と述べた。

 また当面、紙の教科書と併用することについては、神野元基委員(東明館学園理事・校長、宮崎市教育CIO)が宮崎市の自由進度学習の取り組みに触れつつ、「デジタルがつらいという子も絶対にいると思う。その子にとっては紙の教科書が選べる環境も存在すべき。子供たちが選びたければ選べるという在り方を、どう作っていけるかという目線で審議を進めたい」と語った。

 執行純子委員(東京都大田区立入新井第一小学校長)は学校現場の立場から、「デジタル教科書を使うことに躊躇(ちゅうちょ)している教員がいるという話を聞いた。学習者用のデジタル教科書を使わせると、(子供が)違うところにどんどん行ってしまうことを懸念しているようだ。しっかり活用できる環境と働き掛けが必要だと認識した。デジタル教科書を使うことでどういったところが良くなるか、効果的な事例とともに働き掛けていくことが必要だ」と語った。

 今年度の実証事業では、4技能の観点から全ての公立小中学校などを対象に「英語」を配布。教員向けの中間アンケートでは、「発音を聞いて音読練習したり、理解度に合わせて繰り返し聞いたりできる。字幕も付けることができ、理解の手助けとなっている」といった評価の声が聞かれており、前回の会合でも英語を優先的に導入する案が挙がっていた。

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